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君のいない場所  作者: ヤン
第一章 
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第二話 ミハラくん

 翌日、学校の門を入り校舎に向かって歩いていると、前方に杉山(すぎやま)(はじめ)を発見した。創は、長身の男子生徒と何か話しており、時々笑っていた。


 才は、無言で創たちの横を通り過ぎようとしたが、才に気が付いた創が、


「おはよう」


 元気いっぱいの声で、挨拶してきた。才は、渋面を作りながらも、何とか、「おはよう」と挨拶し返した。創は、そんな才の態度は問題にせず、隣を歩く男子生徒に、


「ミハラくん。この人、オレの同級生で、えっと……」


 創が才の方をじっと見たまま、口を閉ざした。許可なく紹介してはいけないと思ってくれたのだろうと思い、才の創に対する評価が少し上がった。


 才は立ち止まり、創の連れに頭を下げると、


津久見(つくみ)(さい)です。よろしくお願いします」


 言われて創の連れは驚いたように目を見開いたが、すぐに笑い出した。そして、創の方を向いて、


「スギ。オレさ、こんなにちゃんと挨拶されたの、初めてかも」

「それは、ミハラくんがおっかない雰囲気だから、関わっちゃいけないと思われてるのかもよ」

「じゃあ、スギは何なんだよ」

「オレ? オレは別に、ミハラくん、怖くないもん」


 二人が楽しそうなので、才は一礼してその場を去ろうとしたが、創の連れに肩をつかまれた。才は、振り返ると、


「肩つかむのはやめてください。オレ、ピアノ弾くんで」


 冷たく言い放った。怒らせるかもしれない、と覚悟の上だった。才にとって、ピアノはそれだけ大事なものだった。


 が、創の連れはすぐに才の肩から手を離すと、


(わり)い。怪我させるつもりなんか全然なかった。これからは気を付けるよ」


 びっくりする程、普通に謝ってくれた。才は、口をポカンと開けたまま、その人を見てしまっていた。その人は、


「どうした?」


 心配そうに、顔を歪めた。才は、この人はもしかしたら結構いい人かもしれない、と直感した。才は首を振ると、


「あ、いえ。何でもないです」

「そうか。なら、いいんだけどさ。あ、オレ、名乗ってなかったな。三原(みはら)正司(まさし)。二年生だ」


 才が黙って頷くと、三原は、


「ミハラくん、と呼んでくれ。先輩とか言うなよ。気持ち(わり)いから」


 才は一瞬ためらったが、


「わかりました。ミハラくん、ですね」

「そうだ。それでいい。じゃ、ほら、行こうぜ。遅刻しちまう」

「遅刻、やだ。行こう、行こう」


 創が三原の腕をつかんでから、才を振り返り、


「津久見。行くよ」

「ああ」

「急ごう」


 三原と創が走り出したので、やむを得ず才も走り出した。昇降口まで来てようやく二人が止まった。創が、にやりとしてから、


「津久見、ダメじゃん。すごい遅れ方」

「いいんだよ。オレは、ピアノが弾ければ、それだけで満足だから」


 才の言葉に三原が反応し、


「ピアノ、弾けるなんて、すげーよな」


 どうしてこの人たちは、ピアノが弾けることをすげーと言うのだろう、と才は思ったが、口にはしなかった。


「あの、ピアノより、早く教室に行かないと」

「おお。そうだな。じゃ、またな」


 三原は、一人違う方向へ走って行った。創と才も頷き合って、階段を駆け上った。予鈴と同時に教室へ飛び込んだ。創が才の方を見て、笑った。


「何だよ?」

「だって、津久見、すかしてるのに、さっきから走ってばっかり。お坊ちゃまっぽくないから」

「余計なお世話だ」


 才が溜息を吐くと、創が才の肩にそっと手をのせた。一応気を遣っているらしい、と判断し、それに関しては何も言わないことにした。


「津久見。オレのこと、スギちゃんって呼んでよ。友達はみんな、そう呼ぶんだよ」


 才はすかさず、


「オレたち、友達だっけ?」

「友達だろ?」


 口をとがらせる。才は、つい、吹き出してしまった。創が、「何だよ」とすねたように言うのを聞き、


「ごめん。オレが悪かったよ、()()()()()


 そう呼んでやると、創は満面の笑みを浮かべてから、才をゆるく抱き締めてきた。才の、「やめろよ」という抗議は聞こえなかったようだ。


「オレは、津久見を、サイちゃんって呼ぶから」


 宣言される。やはり、意味がわからない、と思いつつも、「わかったよ」と受け入れてしまった。

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