第一話 山田 サエ子
文化祭が終わり、日常が戻ってきた。が、才と創は、お昼休みを教室で二人で過ごすようになっていた。時々、四人で弁当を食べていた頃を思い出すが、すでに慣れ始めていた。
バンドは一応継続されている。時々スタジオで音を合わせてみたりしている。そして、いつかはライヴハウスでやろうと、四人で決めている。
授業が終わり、創とともに昇降口へ向かっている途中で、知っている人の後ろ姿を見てしまった。その人は、付き合い始めたばかりの彼女と、何か楽しそうに話している様子だ。
(ミハラくん……)
その背中を、じっと見つめる。が、才のその視線に気が付く様子は全く見られなかった。そのことが、才の心を傷つけていた。
隣を歩く創が、才が何も言わなくなったことに気が付いたようで、「サイちゃん?」と呼びかけてくる。才は、はっとして、「え? 何か言ってた?」とあわてて返した。創は肩をすくめ、
「サイちゃん。最近、変だね」
「そんなこと、ないだろ?」
「変だよ、文化祭からこっち。いつも、何か考え込んで、塞いでるみたいに見えるけど」
「まさか」
「まさかじゃないから」
創が、真剣な顔で言う。才は、どう答えたものか、考えてしまう。
「ミハラくんとサエ子さんが付き合ってるのが、面白くない?」
山田の名前がサエ子だと、この時知った。何故創は彼女の名前を知っているのだろう、と思わなくもなかったが、特に確かめたりはしなかった。
才は、冷静に、と自分に言い聞かせてから創を見た。そして、押さえつけた声で、
「別に。二人が付き合っていようがいまいが、オレには関係ないし」
「そうかなー。オレには、そうは見えないんだけど。ま、いっか」
「関係ないからな」
「何度も言うと、余計に怪しいって勘繰りたくなるよ」
そう言って、創は、くくっと喉の奥で笑った。才は、反論しようとして口を開いたが、やめた。言えば言うだけ、からかわれるのがわかっているからだ。
「まあ、冗談はともかく、サイちゃんを心配しているのは、本当だよ。あの人……山田サエ子さんさ、評判悪いからね。ミハラくんのことも心配してるんだ、オレ。どうしてミハラくんは、サエ子さんと付き合おうと思ったのか、それがわからない」
「評判……悪いんだ? あの人」
つい、反応してしまった。創は、神妙な顔つきで頷いた後、
「そう。評判悪いよ。人のものを欲しがるんだって。で、取り上げてでも手に入れるらしい」
「へー。じゃあ、被害者がいるから、評判が立つんだ?」
「詳しくは知らないけど、そうらしい」
「て、言うかさ。ミハラくん、人のものじゃなかっただろ。スギちゃんは、ミハラくんが誰のものだって言いたいのさ」
感情的になるまい、と思うのに、だんだん言い方が強くなっているのを感じていた。創は、はーっと息を吐き出してから、
「それはさ、オレよりも、むしろサイちゃんの方がよく分るんじゃないの?」
「何だよ、それ」
才に言い返され、創が黙った。俯いたまま靴に履き替え、さっさと歩き出した。才も急いで靴に履き替えると、後を追った。




