表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のいない場所  作者: ヤン
第一章 
13/41

第十三話 視線

 (さい)三原(みはら)が中に入っていくと、(はじめ)高矢(たかや)が手を止めた。三原が、「よー」と言いながら片手を軽く上げると、


「遅かったね」


 創が悪戯っぽく笑みながら言った。三原は、「それは、悪かったな」と言った後、


「ほら、サイ。そこに座れ。とりあえず、それ、飲めよ」


 言われて才は、椅子に腰を下ろし、ペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ。喉がすっきりとした。本当に水分が足りていなかったのかもしれない、と思った。


「何だ、サイちゃん。調子悪いのか?」


 ドラムの前に座る高矢が、才の方を見ながら心配そうに声を掛けてくれた。才は首を振り、


「いや。もう大丈夫」


 調子が悪かったようなことを言った。高矢は頷き、


「そうか。それなら良かったけど」

「ありがとう、タカヤ」


 笑顔で言うと、スティックを振りながら、「いや」と言った。創は、そばに来ると、


「本当に大丈夫? 顔色悪い気がするけど」

「そうかな。さっきより、随分良いつもりなんだけど」

「んー。じゃあ、無理しちゃダメだよ」

「わかったよ。ありがとう、スギちゃん」


 創が元の位置に戻ると、才は、ペットボトルを床に置き、ベースをケースから取り出した。アンプに接続して音を決めていく。チューナーがなくても、才は耳で音を合わせることが出来た。それを見ていた創が、「へー」と感心したような調子で言った。


「サイちゃん。やっぱり、すごいな。オレ、このチューナーがないと、音合ってるかわかんないのに」

「そうかな。たまたまだよ」

「そんなはずないじゃん」


 創の言葉に、才は小さく笑った。少しだけ、心が晴れてきたのを感じていた。


 練習が始まってからは、余計なことを考えなかった。初めてバンドとしての音を出してみて、何か楽しいな、と思う才だった。


 時間になると壁のランプが点滅して、スタッフが時間だと伝えた。急いで片付けて、そこから出た。一階の受付で支払いを済ませると、三原が、


「ファミレス行くか?」

「おお。いいね。喉渇いてたんだ」


 高矢が賛同する。創も、「行く行く」と乗り気だ。才は、三人に従うことにした。


 店に入ると席に案内された。メニュー表を見ながら、三原が言った。


「オレ、何か食う」


 その言葉が引き金になって、皆それぞれ食べる物と飲み物を注文した。料理が来るまでお冷を飲みながら、今日の練習について話した。気分が高揚していて、自然に声が高くなっていた。


 料理が運ばれてきて、笑顔の店員が、


「申し訳ございませんが、もう少しだけ声を落として頂けますでしょうか」


 丁寧だが、きっぱりとした口調で言われた。通路側に座っていた才が、店員のそばに立つと、深々と頭を下げ、


「すみません。オレたち、テンション高過ぎでした。以後、気を付けます」

「ご協力、感謝いたします」


 中学生の男子たちに、子供扱いせず、大人に対するように店員が言った。才は、微笑を浮べて、シートに腰を下ろした。


「確かに、オレたち、うるさかったかも」


 才は、三人に向かって冷静に言った。三人も、「そうだな」と口々に言って、先程までよりも声を落として話し始めた。


 お茶の時間を終えて、店を出た後、才は三人と手を振り合って、家に向かって歩き出した。が、誰かに見られているような感じがして、振り向いた。見ていたのは、三原だった。才が三原の視線に気が付いたことを悟ると、すぐに目をそらして、背中を向けて走り出した。


「何なんだよ、ミハラくん……」


 また、心の中がざわつき始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ