第十一話 独占欲
曲が終わる直前にステージ袖を後にした。閉会の挨拶が微かに聞こえて、扉が開かれた。客席から人が出てきた。ロビーまで来ると、花束を持って緊張気味の男とその友人らしい二人が立っていた。花束を持っていない方は、さっき立ち上がって拍手をしてくれた人のようだった。その人は、才を見ると、小走りに近づいてきて、
「津久見くん」
叫ぶように、才を呼んだ。才は、微笑を浮かべ、
「さっきは、ありがとうございました」
「いや。こっちこそ。すげー演奏を聞かせてもらって、オレ、まだ感動してる」
「そう言ってもらえて、嬉しいです」
その人と話していると、友人たちがやって来た。才が手を振ると、三原が大股に近づいてきて、才にではなく、話している相手の方に向かい、
「おまえ、さっきの奴だよな」
「ああ。おまえか。さっきは、どうも」
「じゃ、ねえから。サイに近づくな」
「は? 意味、わかんねえ。そんなの、オレの勝手だろ。この人、あんたの持ち物か?」
「オレの持ち物じゃない。でも、おまえの持ち物でもない」
二人の言い争いに、高矢が大きな溜息を吐いた。そして、低い声で、
「いい加減にしろ。サイちゃんは、物じゃない。誰のものでもないだろ」
それが効いたのか、二人は開けていた口を、そのまま閉じた。才は、二人を交互に見た後、
「ミハラくん。オレ、この人と話してただけだし。そんなに怒らなくてもいいんじゃない? それから、あなたの名前は?」
「佐藤大樹。中学二年だ」
「あ、じゃあ、ミハラくんと同じ歳なんですね。何だか、佐藤さんとは、また会うような気がしたんです。だから、名前を聞いておこうかな、と思って」
「津久見くん。霊感があるとか」
「ないです。でも、何となく」
「じゃ、またいつか」
「あ、はい。じゃあ、さようなら」
才は、三原の方を向き、「行こう」と声を掛けた。三原は、機嫌悪そうな顔のまま頷くと、「行くぞ」と先頭切って歩き出した。才たちも、その後を追った。
「サイちゃん。ミハラくん、怒ってるね。何であんなに怒るかな、あの人」
創が笑いそうになりながら言った。才は、三原の背中を見ながら、「知らないよ」と言って、首を振った。本当にわからない。何故、あんなに怒るのだろう。それは、どういう気持ちの表れなんだろう。考えると、自分に都合のいい結果が導き出されてしまう。が、違う、と自分に言い聞かせた。
(ミハラくんは、ただ、独占欲が強いんだ。仲間と思っている奴が、そうじゃない奴と話してるのが我慢ならないだけなんだ)
それが、正しいのか間違っているのかは、どうでもいい。そうやって、自分を納得させた。
「じゃあ、オレ、これで帰るよ」
才が言うと、三原が振り返り、
「ちょっと待て。これからこのメンバーで飯食うんじゃなかったのか?」
「そんな気分じゃなくなった。誰のせいだと思ってるんだよ。じゃあね」
「サイ」
呼ばれたが、返事をせずに背を向けた。食事なんかどうでもいい。今は、三原を見ていたくない。ただ、混乱してしまう。
(馬鹿馬鹿しい)
才は、自分の揺れる感情を笑った。
(あの人、オレと同じ、男なんだから)
そういう意味で好かれることは、ない。あれは、ただの独占欲の表れ。何度も自分に言い聞かせた。
(都合のいい解釈なんか、するな。変な期待、するな)
帰る道々、才は何度も何度も心の中で繰り返していた。




