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第5話 賭博

 如月と阿東が同盟を組んだ、その一方で。


 こちらは『リバースエッジ』のモニタールーム。

 ゲームの様子が、多数のモニターに同時上映されている。


 部屋の中心には、司会を務めるタキシードの男。

 そのタキシードの男を取り囲むように、たくさんのソファーに、そのソファーと同じだけの数の人間が座っている。


 ソファーに座る人間の多くは男性だ。

 中には女性もいるが、数は少ない。

 国籍や肌の色、年の(ころ)はそれぞれ幅広く違う。


 彼らは、世界各国の政府高官や大企業の重役たちだ。

 この『リバースエッジ』を娯楽として楽しむ観客である。


 タキシードの男が、この観客たちに声をかける。


「さぁ! そろそろベットの締め切りが近づいてまいりました! まだ誰に賭けるか決めておられない方は、お早めにご決断をお願いいたします!」


 その言葉のおよそ一分後、掛け金の受付は終了。

 どの参加者にどれくらいの金額が集まったか、中央モニターに結果が表示される。


 結果は、こうだ。

 一番人気、白鷺凪(しらさぎなぎ)

 二番人気、セルゲイ・スニマスキー。

 三番、如月鋭介(きさらぎえいすけ)

 四番、リリアン・マハマット。

 五番、九頭巡一郎(くずじゅんいちろう)

 そして六番、阿東(あとう)カナ。


 この結果を見て、一人の観客がつぶやいた。


「やはり一番人気は白鷺か。当然だな。あの女は強い」


 白鷺凪(しらさぎなぎ)

 実年齢は三十七歳。


 彼女はかつて、三代目白鷺組の組長を務めた女性である。

 とは言っても、組長を務めたのは彼女が十六歳の時で、たったの一年だけなのだが。


 白鷺が高校に入学する直前に、父である先代組長が病で急死。

 その先代の遺言に従って、高校生になったばかりの彼女が組を引き継ぐことになった。


 白鷺凪は、父が暴力団を運営していることは幼いころから知っていた。生まれながらに母を病気で亡くし、男手一つで自分を育ててくれた父親に恩返しがしたいと常々思っていた。


 父の遺志を受け、組を継いだ白鷺だったが、それは茨の道だった。


 血気盛んな組員たちは、いくら組長の娘とはいえ、今までのうのうと表の世界で生きてきた小娘に素直に付き従ってはくれなかった。ついて来てくれた組員たちもいたが、組員全体の半分にも満たなかった。


 さらに悪いことに、先代の右腕である若頭は、胸の内に野心を秘めた人物であった。自分が新しい組の(かしら)になるためには、先代の娘である凪が邪魔だった。


 結果、組は内部抗争によって分裂。

 わずか一年で、凪が受け継いだ組は壊滅してしまった。


 これは、自分の弱さが招いた結果だ。

 自分の非力が、この不本意な結末を呼び寄せた。


 そう考えた白鷺は、組の壊滅後もついて来てくれた組員たちの前から姿を消した。


 彼女は武者修行の旅に出たのだ。

 誰もがひれ伏す、強い頭になるために。

 組を再興した時、もう二度と、あのような結末を招かないために。


 孤独に耐えながら、ひたすらに修練を積み上げてきた。

 他所の暴力団に用心棒として雇われて、数々の鉄火場をくぐり抜けた。

 二十年近く、そういう生き方を続けてきた。


 力は身に着けた。

 後は、組を元に戻すだけ。


 散り散りになって行方も知れない組員たちを再び集め、一度は潰れてしまった組を(おこ)し直す。こればかりは、優れた殺し屋になった彼女であっても実現は難しい。殺しとはまた違う力を求められるからだ。


 だから、彼女がリバースエッジに求める願いは「三代目白鷺組の復活」である。



 そんな白鷺が現在、無人の夜の街を歩いている。

 左手に、木目が美しい(さや)に納められた、一振りの太刀を持って。


 彼女の身を包むのは、真っ白な布地の着物だ。少し色合いが違う白色で、(さぎ)の刺繍が(すそ)に縫い付けられている。全体的にあまりにも白いので、死装束のようにさえ見える。


 チラリ、と白鷺は背後を振り返った。

 そこには誰もいないが、彼女は何者かの気配を感じ取っていた。


「なんや、さっきからコソコソと……ああいや、もう逃げなはったな。つまらんわぁ」


 気配が遠ざかった。

 自分から追いかけるのは面倒だと判断し、白鷺はその場を去る。


 そんな白鷺を、遠くの物陰から様子を(うかが)う男が一人。

 リバースエッジの参加者の一人、九頭巡一郎(くずじゅんいちろう)だ。


「ヘヘヘ……危ない危ない。あの女と真正面からやり合うのは、流石に危険だよなぁ。誰か、代わりに片付けてくれるといいんだがねぇ」


 ビルの外壁に寄りかかり、腰のホルスターからリボルバー式の拳銃を取り出して、それを半開きの目で眺めながら、彼はそうつぶやいた。

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