第20話 優勝
九頭は、如月によって真っ二つに斬り捨てられた。
「はぁっ……はぁっ……」
荒く苦しそうな呼吸を繰り返して、息を整える如月。
九頭の攻撃で受けたダメージがかなり大きい。
とはいえ、如月と敵対する他参加者は、もう誰もいない。
ゆっくりと呼吸を落ち着けて、如月は倒れている阿東のもとへ。
阿東は、まだ生きていた。
超人的な身体能力ゆえ、生命力も常人以上なのだろう。
しかし、生きてはいたが、もう虫の息だ。
その身体は血だまりに沈み、指先一つさえ動かせそうにない。
如月が阿東に歩み寄ると、彼女は視線を上げて如月を見た。
その視線を上げる動作さえも、とても重々しく見えた。
「如月……勝ったんだね……ごほっ、ごほっ……」
「阿東さん……」
如月は彼女を助けてやりたかったが、彼は現状、阿東の傷を完治させるための手段は持ち合わせていない。そして、このリバースエッジというゲームも、彼女が完全にその命を失うまで終わらないだろう。
それでも如月は、何かせずにはいられなかった。
阿東の傷を塞ぐため、上着の袖を破いて包帯代わりにしようとする。
そうしようとした如月を、阿東が手を伸ばして止めた。
「如月……私は、大丈夫だから……」
「阿東さん……。けど、このままじゃ苦しいだろ……」
「まぁ、ね……。でも、とても痛いしつらいけど、後悔はしてないよ……。だって私は、あなたにたくさん助けられた……。あなたがいたから、ここまで生きてた……。私一人だったら、きっと、もっと早い段階で……。色々と迷惑をかけちゃったと思うけど、感謝してるんだよ……」
「そんなこと……。それに、お礼を……いや、謝罪しないといけないのは僕の方だ。僕が下手を打ったばかりに、君が……。死にたくないと心から願っていた君を、こんな目に遭わせてしまった……」
「気にしなくていいよ……私がやりたくてやったことなんだから……。大事な友達を、守りたかったんだ……」
「友達……」
「……如月は私のことを可愛いって言ってくれたけど、私はそういうの、まだちょっとよく分からない……。けれど、良い友達では、あったよね……?」
「うん。良い友達だった。楽しかった」
「ふふ、そう言ってくれて嬉しい……。同年代の友達って、初めてだから……」
阿東は明るく、どこか儚げに笑った。
嬉しそうに。そして、心から安堵したように。
「……じゃあ、バイバイ、如月。短い間だったけど、人生で一番楽しい時間だったよ……」
そう告げて、阿東は静かに目を閉じた。
もう、彼女は再び瞼を開けることも、言葉を発することもなかった。
如月は、膝をついた体勢のまま、その場から動けなかった。
涙は流さなかった。
ただ、痛むほどに強く、拳を握っていた。
そんな如月の背後から、声がかけられた。
声の主は、このリバースエッジの司会者を務めるタキシード姿の男だ。
「お疲れさまでした、そしておめでとうございます、如月鋭介様。最後の対戦者である阿東カナ様の死亡が確認されましたので、あなた様がこの度のリバースエッジの優勝者となりました」
「……そうか」
返事をして、立ち上がる如月。
立ち上がったが、振り返って司会者を見ることはせず、足元の阿東を見続けている。
(このゲームで生き残れるのはただ一人。彼女のために自分の命を捧げるかどうか、僕は最後まで決心がつかなかった。そして迷っているうちに、彼女の方が先に、僕のために自分の命を……。こんな覚悟を見せられたなら、僕だって応えないわけにはいかないよな……)
如月は思考した後、そのまま振り返ることなく司会者に話しかけた。
「……なぁ。優勝者に与えられる『何でも願いを叶える権利』を、さっそく使いたいんだが」
「かしこまりました。事前調査では、あなた様の願いは『一族から狙われることなく、自由に生きられるようになりたい』でしたね」
「……その願いは、キャンセルだ」




