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第13話 狙撃

 白鷺を仕留めるべく、ドラグノフ狙撃銃を構えるセルゲイ。

 そのセルゲイを捕捉し、全速力で接近中の白鷺。


 両者の距離はおよそ四百メートル。

 白鷺の走行速度は凄まじく、今ちょうど三百メートル台まで距離を詰めた。


 それでも、セルゲイは余裕の表情を崩さない。

 彼は、自身の狙撃能力に絶対的な自信を持っている。


 何しろ、彼の狙撃は外れない。


 どれだけ標的との距離が開いていようが関係ない。

 二キロメートル離れたターゲットの脳天を撃ち抜いたこともある。


 どれだけ標的が素早かろうが関係ない。

 時速三百キロで走行する新幹線の窓を狙って、標的だった乗客を始末したこともある。


 狙撃銃の射程距離に標的が入っているか。

 標的を目視で確認できているか。

 以上の二つの条件さえ満たせれば、セルゲイに狙えない(まと)は存在しない。


 セルゲイが白鷺ではなくリリアンを先に始末したのは、リリアンの方が狙撃に対して耐性があると踏んだからだ。


 弾丸飛び交う戦場を生き抜いてきたリリアンは、市街地に身を隠し、狙撃手との射線を切りながら距離を詰める技術もマスターしていただろう。彼女の俊足でそんな戦法を実行に移されたら、流石のセルゲイもたまったものではない。


 白鷺から狙えば、リリアンに自分の位置がバレる。

 だからセルゲイは、リリアンから先に始末した。


 そして生き残った白鷺は、セルゲイの狙撃を恐れることなく、姿を晒しながら最短距離を突っ切って接近しようとしている。


「予想通りだったナ。あのニホンブレードの女は、スナイパーとの戦い方をよく分かってないらシイ」


 接近してくる白鷺を鼻で笑うセルゲイ。

 とはいえ、彼も油断はしていない。


 白鷺とリリアンの戦闘の様子は、セルゲイも狙撃前に遠くから観察していた。その勝負の中で、白鷺はリリアンの弾丸を刀で(はじ)き、防御していた。


 恐らく白鷺は、セルゲイの狙撃も同じように防御できると思っているのだろう。だからセルゲイに対して隠れることなく、真正面から突撃しているのだ。


「銃弾すら斬り落とス『何でも切り裂く剣技』。それがお前の得物(エモノ)ダ。だが、その剣技も、そもそも標的に近づけないようでは宝の持ち腐れだナ」


 そしてセルゲイは、狙撃銃の引き金を引いた。

 狙いは、走ってくる白鷺……の真横に立っている街灯の横腹。


 狙撃銃から放たれたライフル弾は、セルゲイの狙い通り街灯の側面に命中。弾丸が命中した甲高い音が鳴り響くと同時に、ライフル弾は跳弾し、真横から白鷺のこめかみに迫る。


「正面から狙撃しても防がれるなら、横から狙ウ。跳弾させることで、銃弾命中のタイミングをずらすフェイントにもなル。銃弾の防御は、ほんのわずかでも動作やタイミングがずれたら即、失敗に繋がル。これは、いくらお前が剣技に自信を持っていても、防げんヨ」


 ……ところが。

 セルゲイの目論見は外れた。


 横から跳弾してきたライフル弾に対して、白鷺は刀を一振りし、あっさりと叩き落としてしまったのだ。


「何だト……!?」


 これにはセルゲイも焦りの表情。

 すぐさま狙撃銃を構えなおし、二発目、三発目の狙撃を敢行。


 二発目の狙撃は先ほどのように跳弾させて、三発目の狙撃は白鷺の心臓を直接狙う。ほぼ同時に、二方向から白鷺に襲い掛かるライフル弾。


 これに対して、白鷺は身を屈めながら刀を一振り。足を狙ってきた二発目の弾丸は(はじ)き飛ばし、心臓を狙ってきた三発目は回避した。


「あの女、得物(エモノ)は一つだけではないのカ! 『何でも切り裂く剣技』に加えて、『超人的な動体視力と反応速度』……それがあの女の能力ということカ……!」


 その後、セルゲイはさらに白鷺を狙撃するが、一発とて彼女に弾丸を直撃させることはできなかった。彼の狙撃は絶対に命中するが、命中したとて防がれてしまうなら意味は無い。


「あのリリアンとかいう女は、どうやってあのサムライ女に傷をつけたのダ……!? クソッ、最初の狙撃が成功していれバ……!」


 本当なら、セルゲイは最初の狙撃でリリアンと白鷺を同時に撃ち抜くつもりだった。だからこそ、リリアンの脳天ではなく脚を狙った。頭蓋骨より筋肉の方が柔らかく、弾丸が貫通しやすいからだ。リリアンの脚を撃ち抜き、その向こうにいた白鷺にも命中させて負傷させる算段だった。


 しかし、常人ならざる瞬発力を生み出すリリアンの大腿筋は、ライフル弾さえも貫通はさせなかった。ゆえに白鷺に最初の狙撃は届かず、セルゲイは白鷺を逃がしてしまった。


 やがて、白鷺はセルゲイが潜伏しているビルの目前に到達。

 全力疾走の勢いそのままに、正面入り口の自動ドアを蹴破ろうとする。


 だが、その直前で白鷺は急ブレーキをかけて、自動ドアの前で停止。すぐさま刀を構えて、自動ドアを細切れに切り裂く。


 粉々になって崩れ落ちた自動ドア。

 仕切りが無くなった、ビルの外と内の狭間の空間。


 その空間を、白鷺が刀でなぞってみる。

 何もないと思われていた空間で、刀の切っ先が何かに引っ掛かった。


「やっぱり、ピアノ線を仕掛けとったな。ウチの眼じゃないと見えないくらい細いやつを。あのまま全速力でビルに突入していたら、首を斬り落とされるところやったわ」


 ちなみに、このビルに仕掛けられているトラップは、この入り口のピアノ線だけではない。対人クレイモアや火炎放射器、セントリーガン、自動操縦の武装ドローン、床を(もろ)くして細工を(ほどこ)した落とし穴など、その総数は百を下らない。


 そしてビル屋上のセルゲイは、拳銃型のフックショットを取り出した。これを使って隣のビルの屋上へ飛び移るつもりである。


「せいぜイ、このトラップまみれのアスレチックを楽しんでいロ。今のうちに距離を取り、仕切り直しダ。こちらの位置さえ分からなくなれバ、今度こそ狙撃は防げないだろうヨ……」


 ……だが、ビル内に仕掛けたトラップで時間稼ぎという手段は、白鷺も読んでいたようである。


「せやったら、ビルに入らなければ良いとちゃいますの?」


 白鷺はビルの壁に刀を突き立て、そのまま全力疾走。ビルの壁に沿って、その外周を猛スピードでぐるりと一周。コンクリートの外壁がギャガガガガと耳障りな音を立てて裁断されていく。


 あっという間に、白鷺はビルを一周し終えた。

 パチン、と刀を鞘にしまう。


 根元から外壁を切断されたビルは、その自重に耐えられなくなり、傾き、崩れ始める。ビル屋上のセルゲイも動揺している。


「何ダ? 地震!? ……いヤ、まさか、あの女……! は、早く隣のビルに退避しなけれバ……駄目だ、間に合わン……!」


 そして、セルゲイを屋上に乗せたまま、ビルは完全に倒壊した。

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