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「どうした、マリアンヌ?」

「――あの日贈られた黒バラを思い出しておりましたの。一輪の、素敵な花を」

 ふふっと笑う彼女。

 ふたりがいるのは新居の庭だった。愛の巣に造らせたガゼボでくつろぐ。屋根の下でマリアンヌは伸びをした。その格好はとうてい貴族のご婦人とは思えぬ庭仕事スタイルであったが。

 手袋を片方外しながら涼むマリアンヌ。

 ギリアムが近づいてその手にふれた。

「なに笑っているんだ?」

「いえ、ほんとうにギリアム様はぬくもりが恋しいのですね、と思って」

 マリアンヌの余計な一言に頬に赤みが帯びるギリアム。昨夜のことなどを思い出しうっかり照れてしまう。彼もまた男だった。


 どこまでも、いついつまでも。ともにありたいというささやかな願いが叶ったふたり。

 淡い光のなかでたおやかに微笑むマリアンヌを、まぶしそうにみつめるギリアム。

 バラのつるに触れて傷ついた妻の手。彼女の手の傷を確認し、丁寧に手当てをしていく。

「君はほんとうに庭いじりが好きだな」

「妬いてますの? もちろん、ずっと焦がれてましたから」

「だろうな」

 ギリアムは肩をすくめた。


 思い出の式でも彼女は強がりのように語っていた。これで土いじりができると。どうやら半分は本音だったらしい。もとの屋敷から彼女に着いてきた庭師につるバラの生育方法を尋ねている。

 ギリアムが本当の意味で嫉妬しているのが庭師だったりするのは秘密である。

 彼女の手を労いつつ、今度はともに花を植えようと、その手を取って振り向かせた。


 人肌のあたたかさを思い出したギリアムは、すきなあいてにさわれる喜びを、十二分にかみしめていた。


 波乱の結婚式のことを思い出していたら、余計な思い出までこぼれてきた。

 マリアンヌの思いを知り、男泣きするギリアムはもう言葉にならなかった。それを分かっているマリアンヌが茶目っ気を発揮し、言葉で泣かせるのだ。涙腺がおかしくなったギリアムは些細なことで泣いた。もうやめてくれと泣き出してもマリアンヌは甘い言葉を投げかけてくる。幸せで世界が色づき続ける感覚だった。孤独だったギリアムの人生にマリアンヌが花を添えた。可憐で華々しい花嫁に男泣きさせられる花婿。おもわずもらい泣きする招待客もあったとかで、他に類をみない結婚式となった。


 ギリアムは素晴らしいと賞賛されている演劇があるのを耳にしていた。いつか、マリアンヌを誘って見に行こうと、ギリアムは夏の澄み渡った空に思いをはせるのだった。


   *


 黒いドレスの逸話が「あなた以外に染まらない」として広まった。忌避されていたはずの色をまとって結婚式を迎える新郎新婦も多いときく。真実の愛の物語として、マリアンヌのドレスの逸話は、長く、後世にまで伝えられるのであった。

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