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マリアンヌはついに賭けに出た。
もしこのゲームに失敗すれば、良くて他国の貴族に嫁入り、悪ければおかしな者としてレッテルを貼られたまま社交界から永久追放、そして修道院行きが待っていることを自覚して。
そんな危険な賭けにまで出たのはひとえに彼女が望むものがあったから。
マリアンヌのもとへ数枚の恋文が届いた。
マリアンヌは返事をしたためる。
無理難題をほのめかして、いくつかの条件をバラバラの文に書き記した。
御髪はチョコレートのように甘い色でなくてはだめ、お顔は勇ましく、ヘーゼルブラウン瞳こそ、いつだって剛毅、血気盛んな様子、敵兵に挑めること、仲間や国を最後まで見捨てずに、部下思い、鍛え上げられたたくましい腕でわたくしを横抱きできること、などなど。
それぞれの手紙を読んだだけでは分からないように細工をして。
あとは神の采との闘いだった。
マリアンヌのやったことはじつに単純だった。
たった一つにしか当てはまらないよう条件をそれとなく誘導し、ほかの縁談をすべて拒絶してみせたのだ。彼女が添い遂げたい相手は、ただ一人。
かの人物を想いながら、彼女は、頬をバラ色に染めた。
(ギリアム様と添い遂げられるならどんな汚名も被りましょう)
気がかりだったのはその当人にまで嫌われてしまわないかということだった。
窓からのぞく雨天の空模様のように、厚い雲で覆われたベールの向こうの、心情。人々の口さがないおしゃべりはきっと今頃届いているだろうと当たりをつけて。ゆううつな顔でマリアンヌは雨空を眺めていた。
さすがに最初の返信のあとの社交界はマリアンヌにとっても悲惨なものだった。夢見る少女だからだとか小馬鹿にする男たち。女性たちまで侮るような態度をとってきた。ひそひそ声でささやかれ、強調されていく、マリアンヌの汚点。わがままで高慢な彼女に振り回されたと被害者顔をする男たち。彼らは揃っては吹聴し、彼女は悪役となった。高嶺の花という偶像は一瞬にして地に墜ちたのを自覚した。
それでも庇おうとした侍従を止めたのは、彼女が覚悟をたしかなものにしたから。一度初めてしまった戦いだ。恋は戦争、愛のためなら手段は選んでいられまいと。
高らかにマリアンヌは笑う。
扇子で隠した口元はこわばった。ドレスでみえない膝はいまにも笑ってしまいそうだった。
けれど、彼女は天高く神にまで届くように言い放った。
「あなた方などお呼びじゃございませんの」、と力強く。