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 マリアンヌの横から少女が現れた。彼女は何かを花嫁の前に出した。慎重にマリアンヌの手元に渡ったのは手のひら乗るサイズの箱であった。

 マリアンヌのお付きの少女は化粧室でマリアンヌから頼まれていた。

「これを彼からみえるようにわたくしに渡してちょうだい」

「承知しました」

 言われた通りに、主人が婚約者から託された結婚指輪の入った箱を届けた侍女。

 彼女はずっとそばにいた。いわれない言葉や、ぶしつけな視線の数々が、主人に向けられる場面を何度も見てきた。好奇心の類いでささやかれる噂。マリアンヌが浮かない顔をしていたのでさえ、ずっと。

 ドレスを縫い始めた時もそうだ。貴族のすることではないと彼女の親兄弟はもちろん従者一同も加わり、必死に止めた。趣味でするお針子のレベルを超えているのは誰の目にも明らかだった。そもそもマリアンヌは裁縫になど興味もなかったはずだ。一から本を読み老婆に意見を仰ぐと、熱心に、というにはどこか執着が感じられる取り組みぶりをそばでみてきたからこそ侍女は知っていた。

 そんなドレスづくりも進まない日が続いた。日がな一日窓の外を見てはため息をこぼしていたマリアンヌを、同じくゆううつな面持ちで侍女として見守り続けた。


 何度も何度も、それでも主人は諦めずやり遂げた。今、立派なドレスをまとい、高らかに主役として振る舞っている。堂々とした姿に感動する侍女は声をかける。

「お美しいです、マリアンヌ様」

 言葉を受けて、マリアンヌは侍女をいたわるようにやわらかく目を細め、口元をゆるめた。

「いってくるわね、エファー。わたくしはもうだいじょうぶよ」

 決意をにじませるマリアンヌには社交界での批判を気にするそぶりはみえなかった。その気品にいたく侍女は感激した。生来の気高さを取り戻したマリアンヌはだいじょうぶだと告げる。

 思わず主人を仰ぎ見た。彼女は前を見ている。

 侍女はこの結婚の結末を思って涙ぐむ。せめて主人のしあわせを願って、指を交差させるようにつなぎ、祈りを唱えた。

「我が主に幸あれ」

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