第4話 約束
ステータスプレートが全員に配られた後、軽く武器の使い方などを練習し今日はお開きとなった。
そして時刻は夜。
静けさとお茶を飲む音が部屋に響く。
今日の武器練習の時に何か嫌なものを感じたのだ。
視線などはなく直感というのかな……。
まぁあんなけ上野に大きな声で無職だってことを言われたら変な雰囲気になるか……。職業無し……つまり無職。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
「……はい…。」
少し警戒しながら返事をする。
「奏?俺だ綾人と結だ。」
声の主は綾人だったみたいだ。
警戒心を時扉を開け2人を中へ招き入れる。
「それで?どうしたのこんな夜遅くに」
「いや〜その昼のことについてなんだ。」
あ〜、無職ね。
「職業が無いってことでしょ?ホントだよあれは。」
そう言いながら僕は2人にステータスプレートを渡す。
それを見た途端2人の顔は深刻そうな顔に変わる。
「そんなくらい顔するなよ。何とかなるって。」
「まぁ、お前がそういうならいいんだけどさ……。」
ため息を着きながらそういう綾人。
普段はアホそうに見えても人思いで良い奴なんだ。
「……奏くん、お願いがあってね。」
次は天音だった。
少し暗い顔をしながら話しかけてくる。
「なんだ?」
「その……奏くんは戦闘には参加しないで欲しいの。……だってそれじゃ奏くんが死んでしまうから……。」
「……」
「私、奏くんには死んで欲しくなくて……。その、私にとって大切な存在で…っ」
だんだんと顔を赤らめていく天音。
こっちまで少し緊張してきた。普段一緒にいるのに……。
綾人はにやけながらこっちを見て「ひゅ〜」とか言ってる。
黙れ。
「そのっ……、私が守るから。」
顔を上げ真っ直ぐな瞳でこちらをみる。
頬を赤らめながらも真剣で決意を固めたような表情をしていた。
「……わかったよ、なんか複雑だけど守ってもらうよ。綾人もお願いな」
「なんで俺も!?」
「ははっ、けどもし僕に何かがあって2人と同じくらい強くなったらその時は一緒に戦ってくれよ?」
綾人と天音はお互いに目を合わせこちらを向き、
「おう!約束だ。」「うん!約束ね」
という。
少し複雑ではあるが、自分のやるべき事が見つかった。
あとはそこに向かって進むだけ。
2人が自室へ帰って数時間のこと。
僕もそろそろ寝ようかと準備をしていた時だった。
コンコン
また扉を叩かれた。
綾人か天音が忘れ物でもしたのかと思いすぐに扉をあける。
「なんだ?忘れ物でも………」
けれどそこに綾人か天音はいない
外に立っていたのはウォルドさんで、少し怖い顔をしながら扉の前でたっており足が竦ん出しまった。……これ……
「少しいいか?話がある。」
「……分かりました」
僕はウォルドさんの指示に従い、修練場まで案内される。
途中話しかけようとしたが、圧がすごすぎて話しかけれなかった。
「それで、ウォルドさんなんの話……。」
グサッ
そこまではっきりとした音ではなかったが、その感触だけははっきりとわかった。
ウォルドさんの剣が僕の腹を貫いていたのだ。
そのことを知覚すると一気に痛みが込み上げてくる。
「…あ゛……。。ぁあああああ!!……なんで……っ、」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
熱い熱い熱い………………!!
体から血が無くなっていくのが分かる。意識が遠のき、視界もぼやけてくる。
そしてこの感覚……思い出した。
昼に感じた嫌なもの。それはウォルドさんから漂っていた雰囲気なんだ。
僕が職業無しってことを知って……ッ!
「お前みたいな無能はいらない。職業も無し、固有能力も無し。向こうの世界の住人は素質があるとシャリオライド様は仰っていたが、このような木偶の坊はやはりどこでもいるのか。」
なんなんだこいつっ!しらない!そんなこと!!!
早く、はやく……っだれかぁ!
「……だ……れあ……ッ!!」
「うるさい」
追撃。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
次は右足を貫かれる。
耐え難い激痛が絶え間なく続く。視界が赤く染まり口から血が吹き出す。はやくっ!だれかっ!綾人……、天音……。
僕は這いずりながらでも寮の方向へと向かう。
地面と擦れる度痛みが脳を襲うがそんなのは関係ない!!
「お前の死刑はシャリオライド様から許可を得ている。職業無しのお前なんぞ所詮捨て駒。どこで死んでも変わらないからな。……さて」
ウォルドさんは僕を無視して淡々と話す。
そしてポケットから何かを取り出した。
(小瓶……?)
瓶のような物の中に入っているのはなにかの血液だった。
「これは神様からの贈り物。無能のお前を異界へ送るために与えられた特殊な魔法具だ。」
血液が僕を取り囲むように広がり、次第にそれは魔法陣のようなものへ姿をかえる。
バチバチッと周囲に黒い雷のようなものを放ちながら音を立て魔法陣が起動し
「嫌だっ!……僕はまだっ……ッ!!」
「じゃあな。」
眩しい光が僕を包みこむのと同時に意識も遠のいて行くのが感じられた………………。
「ん゛ん゛ん゛ーッ!!!ん゛ん゛ッ!!!!」
物陰に隠れながら俺は結の口を塞ぐ。
少し前、結が部屋に突然来たかと思ったら「奏くんがッ!」と血相を変えながら声を上げた。
それに異様さを感じた俺は結と一緒にウォルドさんと奏の後をつけるとこにし、修練場へ到着した。
そこで起こったのは奏を殺そうとするウォルドさんの姿だった。
そして時は今に戻る。
「ん゛ん゛!!!」
「暴れるな結。今俺たちが行ったところで何も出来ないだろっ。」
親友を呆気なく、しかも罵られながら殺していたウォルドには殺意すら覚える。
だが、その気持ちを最大限抑えながら小声でそう結に告げる。
ポロポロと涙を流しているのがわかった。手には結の涙の温かさが伝わってくる。
結は奏のことが好きだ。
幼馴染ということもあり昔から同じ時間を一緒に過ごしてきた仲。
結の親はかなり厳しく男子とも遊ぶことを禁止されていたそうだが、奏は幼馴染だからという理由で許されていた。
男子とも関わりがほとんど無い中で自分と仲良くしてくれる奏に結が恋をするのは必然の事だった。相談してきた時はびっくりしたよ。頬を赤らめながら「協力してくれないかな」なんて言ってきた時はそらもう驚いた。
だけど結がそれほど必死なんだなということが伝わってもきたんだ。
「辛いと思うが今は我慢してくれ…ッ」
長い間反抗していたがついにその気力も無くなったのか、静かに涙を流すだけだった……。