プロローグ
転移というものはよく知られているだろう。
基本的には医学で使われるのが多いと思うが、僕が言いたいのは物が移動するあれだ。
ラノベでよく見る異世界転移。
何かがきっかけで異世界へ飛んでいくあれ。
僕……来栖崎 奏もその被害者になるのであった。
「……さむ。」
朝、家を出ると冬の寒さがより一層に強くなったのがわかった。長かった冬休みが終わり再び学校が始まる。
僕は桜坂高校に通う平凡な高校生、来栖崎 奏。
これと言って何か突出した特技や才能は無く、日々を悠々自適に暮らしている。
そんな僕に取って学校とは暇つぶしの一環でしか無かった。
学校への途中にある公園で僕はブランコで遊んでいる。
僕的にブランコは好きだ。ある程度勢いをつけて漕いでその後は自分が何をしなくても勝手に動いてくれる。
何も考えず、自分の体を何一つ動かさず動くって自分的にはすごく好きだ
最中、公園の前を通る同じ制服を着た生徒が目に入った。
もうそろそろ行かないと遅刻してしまう。
僕は再び学校へとむかった。
始業10分前学校へ着き教室へ入ると、中の暖気が僕の体を通り抜けていく。このために産まれてきたのか……。と錯覚するほどの幸せだったかもしれない。
「おはよ!」
「おう、おはよう」
声をかけてきたのは友人の神楽坂 綾人、少し明るい髪色に凛とした顔立ちをしているのが特徴だ。
朝からテンションが高くてなかなかついて行けないが、とっても良い奴なのだ。
「今日やばいよなめっちゃ寒い。寒すぎて踊りながら登校してきたもん」
「何を言ってるんだ」
まぁこいつはいつもこんな感じだから不自然ではないか。
そして数分くらい僕と綾人が他愛ない話をしていた時、廊下の方で男子の「おぉ〜」という野太い声が聞こえ始めた。
恐らくだが奴が登校してきたのだろう。
「みんなおはよう!」
男子の群衆のなかで天使のような笑みを浮かべて挨拶をしているのは天音 結 。この学校の高嶺の花という存在だろう。
セミロングの黒髪に、色白で整った顔をしている美少女だ。
成績優勝でスポーツ万能の絵に書いたようなスペックを持つ完璧超人。
「あ、佐野くん髪型変わった?」
それに加えてフレンドリーで誰でも分け隔て無く接するという
もはや攻めるところがない。
「か、変えました!!!!」
「そうだよね〜」
こうやって人は恋に落ちていくんだなと関心する。
「奏くんもおはよう」
「あぁおはよう」
「なんか素っ気ないね〜」
「そんなことないし、それに昨日会っただろ。」
「えへへ〜そうだね」
まぁこの人は僕の隣の家に住んでる幼馴染なんだけど。
昨日も僕の部屋で一生ス〇ブラやってた。
冬休みが開けても何ら変わりない日常。
自分はそろそろ退屈になってきていた。
(なんか起きないかな……)
最近はこう思うことが増えたと思う。
分かってる。何か変えたいなら自分から行動をしなければならないのは……でも気力が起きないんだよな……。
「はぁ〜」
「なんでため息なんだよ。せっかく昨日見た晴れなのにレインコート被ったおばさんの話しようと思ったのに」
何それ怖い。なんか存在しないなんかなんじゃないか???
内心で突っ込みつつ、何となく教室の全体を見る。
……。何か動いた気がした。人や物でなく、空間がだ。
「なぁ綾人、さっきなんか空間が……」
だが僕が話す前に一瞬にして背景が切り替わった。
「…動いた気がしたんだけど……は?」
気がつくと僕……僕を含めた教室にいた人らは見覚えのない場所に立っていた。
中世ヨーロッパの時代の作りに近いだろうか。
石材を加工して色々な装飾を浮かび上がらせていたり、
縦横共に広く正面には垂直方向の大きなステンドグラスもある。
だが異様なのは建物ではなくその場の空気がだった。
ざわざわとなっている教室の皆。それとは正反対にじっと僕らを見つめる神官のような男とそれの取り巻き、そいつらからは何かの圧が感じ取れた。
「どこだよここ!!!」
「帰せよ!!元の場所に!!」
様々な怒号が飛び交うが神官は微動だにしない。
「奏…くん…。」
誰かに裾が引っ張られたと思ったら天音だった。
目には涙を浮かべて体がわずかながら震えていた。
僕は「大丈夫だよ」と落ち着かせるように言う。
そしてもう一度正面へ向き直す。
「なぁ奏。なんか変だよな……あそこの人らなんも喋んねぇぞ」
「そうだな。こっちの様子でも伺っているのか?」
本人らに聞くべきかどうかを悩んでいると、やっと神官が話し始めた。
「よくぞ来てくれました選ばれし勇者様方。この世界をお救いください……。」
唐突な展開に空いた口が塞がらなかった。