第6話 古書店巡り
古本屋が好きだ。
学生の身分ということもあって、安く文庫本を買える古本屋の存在はありがたい。
だけど本を愛する者として、作家の方々にきちんとした対価の払われないシステムに加担する事に抵抗感がないと言えば嘘になる。
いつか社会に出て自分で働いて稼いだお金を手に入れたら、その時は大きな書店でハードカバーの新刊を思う存分買い漁ろう。
でも、例え僕が将来稼ぎの良い職種に就いたとしても、古本屋巡りはやめられないと思う。
何故なら、僕が好んで通うような古本屋は、在庫管理システム化が進んだチェーン店などではなく、小さな街の商店街にひっそりと佇む古本屋、古書店といった方がいいだろうか。いつ入荷されたかわからない書物が床から平積み、小さなテナントビルの一階に店を構えながらも賃貸料すら払えないのではと、こちらが心配になる様な集客に接客、しかしそんな心配は実は無用で、おそらく店主はそのビルのオーナーを兼任。……と言った寂れた所なのだ。
そういう場所だからこそ、出会いがある。
聞いたことのない様な出版社からいつの間にか発行されていた、聞いた事のない作家の世の中で全く話題になっていない、なったことのない作品。
そんな作品のタイトルに惹かれたり、表紙に惹かれたり、何故手にとったかわからない事も多々ある。
殆どは予想通りな読後感。だけど稀に、そう確率で言うなら1パーセントあるかないか? 砂浜の中から一粒の砂金を見つけるようなそんな出会いがある。
百冊読んで一冊見つかれば良い方。しかし一度でもその発掘にも似た出会いを経験すると、もう古書店巡りはやめられない。
そうやっていつもは目的を持たずに訪れる古書店だが、今日の僕は明確な意思を持ってやって来た。
真夏の書いた新作は、以前僕が古本屋で店主から埃叩きの妨害工作を受けながらも数頁だけ立ち読みした小説と世界観が似ている事を思い出した。
一体何処の古本屋で見かけた本だったのか?
こんな事ならその時に即買いしておくべきだった。