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第3話 盗作疑惑

 真夏(まな)の新作小説を読んでいてすっかり帰るのが遅くなった。落ちかけた陽の、赤でも蒼でもない空間を二人で歩く。


 この空気の色はまるで今の僕たちの様だ。二人の間には色恋やそういった類いの感情が存在しない。友達という程でもない、ただ単に同じ部活の同級生。


 だけど僕は真夏の事を尊敬している。その才能を、狂おしい程では無いにせよ、羨ましくも思う。この気持ちのレールの先にあるのは嫉妬という負感情(ネガティブ)であることは間違いない。

 そして、いつまでこんな関係が続くのかはわからないけど、真夏は僕の書評を必要としている。


 だからこそ、今日の僕は心ここにあらずだ。

 真夏の書いた小説を読んでから、ずっと心の奥底に引っかかっている。僕は以前、似たような内容の小説を確かに読んだことがある。だけど果たして何処が似ているのか? 説明は出来ないけれど、考えたくない感情がしみじみと記憶領域から感情領域へと侵蝕してくる感覚を覚える。

(真夏は盗作をしているのではないか?)


「新作どうだった?」歩きながらこちらを見ずに真夏が話す。

「んー、いつもどおりてにおは(・・・・)の間違いが目立つ。でも、最近のネット小説なんかだと予測変換の変なミスとかあるけど、そんなのがないのは手書きの良さだよな。他にも段落始めの一字下げとか。地の文の人称も……」

「ちょちょっちょっとちょっとっ! そういうんじゃなくってぇ。て言うか阿良弥(あらや)ネット小説とかも読んでるんだ」膨れっ面でこちらを向く。僕もこの顔が見たくて意地悪をした。懐かしさすら感じる子どもっぽい表情。

 純真無垢、そんな四字熟語がピッタリくる。

「ごめんごめん、わかってるって。冗談だよ冗談」

 真夏の小説はそもそもの初歩的な部分で作りが粗い。誰もがその細かな間違いで(つまず)いてしまう。何度も何度も引っ掛かる度に物語の本質に触れられないまま読むことを断念してしまう、いや断念せざるを得ないのだ。


「面白かったよ。相変わらず着眼点が良かったと思う」嘘ではない、感じた事を素直に言葉にした。

 だけど……。

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