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第18話 記憶の扉。

 真夏(まな)は朝の宣言通り僕と一切口を聞かなかった。


 それでもいつも通り待ち合わせをしていなくても自然と同じ方向へ一緒に帰ってしまう。しかし怒りの収まっていない真夏は終始無言を貫いて歩く。

 会話の無い数分。足音や周囲の雑踏の音が僕の思考を際立たせる。もし僕が僕でないのなら、果たして真夏は真夏なのだろうか? 彼女も僕と同じ様に前世の記憶に目覚めているのではないだろうか? だとしたら一体いつから?

 そんな事を考えている内に彼女の自宅前に着いてしまう。空気は重苦しいままだが、それでも聞かずにはいられなかった。

「真夏、お前ももしかして……」

 バタン。

 彼女は無言のまま自宅へと消えて行った。ドアが閉まる音と同時に僕の心に本物の静寂が訪れた。


 翌朝。

 真夏の性格だと、僕が昨日と同じ質問をすればそのまま真実を答えてくれるかも知れない。だけど、正直その答えを聞くのには覚悟がいる。

 彼女が「おはよー」と今までに何百回と繰り返してきたトーンで挨拶をする。機嫌は治っている。いつも通りの真夏だ。

 聞きたくても聞けない、そんな心情が顔に現れていたに違いない。僕が何も言えずにいると彼女が僕に真実を話し始めた。

「もう、面倒(めんど)くさ。私はいつもずっと私なのに。あなたはいっつもいつも自分が誰なのか思い出すのに時間かかっちゃう。時間掛かったら掛かった分だけ今と昔が混ざっちゃって。結局いつも苦しむのはあなたじゃない」


 彼女のその言葉で、ひとつ前の僕の扉が開いた。正一の後、僕の前。何処かの田舎で空襲の炎に焼き尽くされた僕の記憶。

「僕は……死んだ?」

「あ−、その様子じゃひとつ前? あの日は私も一緒に死んじゃった。尤もこうして新しい発見があったからそれはそれで良かったんだけど」

「発見……って?」

「ほら、こうして!」というと、真夏が両腕を一杯に広げたかと思うと飛びつくように抱きついてきた。

「ちょ、いきなり何するんだよ」胸が当たるし、いい匂いが鼻をくすぐる。顔がにやけてしまわないように身体が変に反応しないように、精一杯理性を保って言い放つ。

「どのくらい思い出してるの? ほんと今更だよこの程度」

「こ、この程度って」

「私たちいつも歳離れてたから子供こそ出来なかったけど。そういうことは散々してきたでしょ? 歳が近かった事も何回かあったけど、それでも今みたいに同い年なんてなかった! これって凄い発見!」

「ちょっと待って! とりあえず離してくれっ!」

 こんな状況じゃ何も冷静に考えられない。思わず語気を荒げてしまったけど、とにかく一度一人になりたかった。

 僕はまとわりつく真夏を引き剥がすとその場を逃げるように走り出した。

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