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第16話 デジャヴ

 文芸部の活動は当面の間中止だ。

 僕の足は図書室から遠ざかっていた。僕にとって図書室は西条先輩との思い出が濃厚に蘇る場所となってしまっていたから。


 真夏まなを家まで送った後、古書店巡りの為、電車に乗って普段足を運ばない街へと向かった。

 初めて歩く街。僕が意識しているからだろうけど、すれ違う人との間に距離を感じる。警戒して見られているような、しかし目は合わせようとしない、不自然なよそよそしさ。

 僕の求める古本屋は、駅から少し離れた商店街にある事が多い。散歩がてらフラフラと歩く。暫く歩いて、それっぽい古本屋があることにはあったが、期待していたような収穫はなかった。


 家に帰ると、玄関前に座り込んでいる真夏がいた。何故か新鮮な感じがした。そうだ、考えて見ると私服の彼女の姿を見ることは殆ど無かった。

「ねぇ、君は小説を書くべき。書いて文芸部の冊子に載せるべき。そうじゃないと西条女史が悲しむよ」真夏を含めて、下級生の女子は先輩のことを西条女史と呼ぶ。

「真夏、わざわざそれを言いに来たのか?」

「そうよ、悪い?」

 真夏には僕の危惧している事が伝わらなった。僕は悪いとかそういう事じゃなくって、単純に危ないと感じたのだ。先輩を襲った暴漢もまだ捕まっていなければ、勿論その動機すら不明なのだ。もし我が校の生徒が対象なのだとしたら、その中でも文芸部の生徒が選ばれていたとしたら……。そこまで考えたところで我に返った。僕の方が考え過ぎだ。


 一緒に小説の執筆を手伝うと言い帰らないと駄々をこねる真夏を説得し、念の為家まで送る。彼女の家の前、別れ際に真夏が僕の手を握ってきた。

 この別れ方は覚えている、遥か昔の懐かしいような昨日のような。

「正一さん」

「志乃」

「思い出せた? 私の事、あなたの事」


 いつの間にか真夏の顔が近い。真夏の事を何とも思っていないのに、それでも同級生の女子に手を握られて鼓動が速くなる。

「真夏、なんだよ急に。変だろ? その、手なんか握ってきて」

「……阿良弥(あらや)が言いたかった事、ちょいわかったかも。まだ犯人捕まってないもんね。意識したら急に怖くなっちゃつて。気付いたら握ってた。ごめんね、迷惑だった?」

「いや、迷惑じゃないけどちょっと驚いた。それに前もこんな事なかったっけ?」

「こんな事って?」

「別れ際に手を握られて……」

「うふふ、あったよ。夢の中で! 送ってくれてありがと、おやすみっ!」

 そう言ってふざけて手を振りながら玄関の中へと消えて行く真夏。彼女に感じる懐かしさや時々感じる既視感は何なのか? 僕の心の中には違和感だけが強く残った。

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