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第15話 西条鶴子

「一番大事なのは本が好きかどうか、ではないかね? 新人君」


 入学してすぐの頃。カラオケ店で行われた新入生歓迎会の自己紹介で、自分に文才がないという劣等感から「ヨミセンです」と言った僕に最初に声をかけてくれたのは西条先輩だった。

 それから図書室で会うたびに声を掛けてくれ、偶に対応に困るおふざけなんかもしてくるけど、先輩と話をしていると、その透き通った声を聞いているといつも心が落ち着いた。


 そんな先輩を数日間、図書室どころか学校内でも部室でも見かけないと思っていた矢先のことだ。

 部長に直接声を掛けられた一年生を除いた全部員が昼休みの部室に集められた。普段はあまり顔を出さない真夏(まな)も当然いる。文芸部は八割が女生徒で、三年生の部長も副部長も女性だ。

「まだこの話はここにいる部員以外には話さないで欲しいんだけど……」今にも泣き出しそうな弱々しい声で部長が話始めた。

 もう少し詳細がわかってから先生方から正式に発表がされるだろうし、その前に全生徒に拡がってしまうかも知れない事だけどと、前置きされたその話によると、西条先輩が学校からの帰宅中に暴漢に襲われて入院中だという。

 僕は頭の中が真っ白になり、部長の話す一つ一つの言葉をそれぞれの単語として、辞書を引くように意味を確認していた。

 気丈に振る舞おうと精一杯努力していた部長も、途中から声を震わせながら涙が流れるままに話続けた。

「私も今朝、校長室に呼ばれて。鶴子の担任の先生から聞かされて。その、言い難いんだけど、みんなも気になると思うから」

 女の子ばかりのこの部活の中で、慎重に言葉を選びながら部長は続けた。

 西条先輩は性暴力は受けていない、だけど、だからどうだという訳ではないけれどと。顔や首といった頭部を集中的に鈍器で殴りつけられていて、片方の目は眼球破裂し、もう片方の目も辛うじて失明だけは免れたが、割れた眼鏡のレンズが刺さり失明の可能性もあるという。いずれにせよ今後まともに視力が戻るかどうかわからない。顔や顎の骨の骨折に加えて頸椎も損傷し、もう少しで首から下の全身が麻痺する所だったという。

 まだお見舞い等は行ける状態では無いけど、何かわかったら必ず部長から部員のみんなに伝えるからくれぐれも誰にも話さないようにと最後にもう一度念を押された。


「暫くの間、文芸部の部活動は中止、出来れば男子と一緒に、そうは言っても難しいとは思うから、出来るだけ誰か方向の近い男子生徒たちが帰るタイミングを見計らって、偶然を装ってでも一人にならない様にして帰宅して」と部長が締め括った所で昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。


 振り返ると顔面蒼白になった真夏が、僕の制服の裾を震える手で握りしめていた。その手を上から、僕の手で優しく握った。

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