第12話 クール日記
変な夢を見た後、自分なりに分析をしてみた。
過去にインターネットか何かで見たジュースの印象が強かったのだろうか? だけど、僕が気になったのはその銘柄などではなく、付き合っているかどうかもわからない関係の同じ田舎で育った女の子とのデートだ。
コンビニのような小さな商店で新発売のジュースを見つけて一緒に買うだけ。それだけでなんとも言えない嬉しさを感じた。ふいに日常に訪れる小さな幸せ、今の便利な世の中で僕はそれに気付けただろうか? そんな事に気付ける人間になりたい。そして、その欲求はそのまま僕の創作の原動力にならないだろうか。自分が感じた幸せを僕の文章を読んだ人たちに共有して欲しい。身近な幸せに気付いて欲しい。
徒然に、とそこまで流暢に書けるとは思えないけど、僕が書いてみたい事が少しだけ見えてきた。
「おっはっ!」
元気な挨拶と同時に臀部に鞄の角が刺さる。
「痛ってっ」
「大袈裟ね。男の子なのに。大丈夫? 割れてない?」
「二つに割れたわっ!」
「どれどれ」
そう言って僕の尻を触ろうとする真夏から腰だけ動かして逃げる。
「痴女かっ!」
「ぼーっとしてるからクリーンヒット喰らうのよ! 朝っぱらからどうしたの?」
いつもの朝の光景だ。こんな瞬間に感じている確かな気持ちも、大人になるといつか忘れてしまうのだろうか。忘れてしまう前に書き記したい当たり前の日常、当たり前の幸せ。
僕は真夏に、書きたいものが朧げにだけど見えてきた事を伝えた。
「日記ってこと? 男もすなるの?」歩きながら僕の顔を覗き込む真夏。
「ただ日記を書くって訳じゃないよ。些細な事でもそれでも幸せに感じたこととかさ、そういうのを伝えたいっていうか」
「いいんじゃない?」
「何で上から目線なんだよっ」とは言っても真夏に感謝してる。そしてこんな気持ちすら文章にしたい。
「タイトルとかどうすんの? 阿良弥日記とか?」
「何だよそれ、もっとカッコいいの考えるよ」
「阿良弥って名前はカッコいいジャン」
「名前をタイトルにするのはダサいよ。何かもっとクールな……」
「ぷっ、クールとニッキって。あはは! 浅田飴じゃないのっ」
「何だそれ?」
「えー、CMでさ」
「テレビとかあんま見ないから知らねーし」
妙に壺にハマった様子で、真夏はその後もお互いの教室へと別れるまでずっと笑いを堪えていた。