第10話 同級生は見た?
図書室でノートに鉛筆。
しかし受験勉強をしている訳では無い。
「言葉の中で仲間になりそうな物をグループ分けして、そのグループに名前を、出来ればリーダーも決めてみよーっ!」
今朝真夏が僕に出した課題だ。
例えば、刀、斧、聖剣、木刀、騎士、兵隊、お姫様、宇宙船、探偵。
刀、斧、聖剣、木刀は『武器』、けどさらに西洋のとか日本のとか時代とか……。
戦士、兵隊、お姫様、探偵は『人間』
宇宙船は?
勿論僕のメモにさっきの様なわかりやすい言葉は無い。雑然としたメモを眺め、色分け用にマーカーを用意すべきだったかと思った矢先、メモの上に黒い影が落ちた。続いて視界の両側に黒髪のカーテンが掛かり、ほんの少し遅れてふわりとシャンプーのいい匂いがした。
「なかなかアナログな事をやっているな。しかし創作というよりも寧ろ仕事人の問題解決手法に近しいようだが」頭上から声が降ってくる。
西条先輩が僕の頭越しに覗き込んでいるのが見上げなくてもわかる。頭頂部に二つ、先輩の柔らかい重量を感じる。
「先輩、その、ちょっと距離感が近いというか、……当たってます」
「や、これはすまない。また淫夢でも見てしまうかな?」
「またって何ですか!」
そういえば、先輩とは部活で一年以上一緒にコラムを担当しているが、定期的にこういった行為(彼女は自分では〝おふざけ〟と言っている)を仕掛けてくる。しかし彼女が僕の夢、それこそ性的な対象として出てきたことは一度もない。なのに最近は中身が別物とはいえ、ほぼ毎日真夏が顔を出す。そもそも僕は先輩にも真夏にも特別な感情を抱いてはいない。なのになぜ真夏が? そしてなぜ先輩は出てこない?
「はて、名をなんと言ったか、君の情熱的な同級生は?」
そんな事を考えている時に先輩に急に真夏の事を聞かれドキリとする。
「じょ、情熱的って、ま、真夏のことですか? それ名前だけですよね?」
「そうそう、その久保田君だ。先ほど姿を見かけた気がしてな。てっきり一緒にいるものだと思ったのだが」
「うーん、あいついっつも図書室は苦手だって言ってるんで、多分見間違いじゃ……」
「ふむ、では相方にバレる心配もない訳だ。なら健全な高校生男子らしく遠慮なく堪能してはどうだね?」そう言って僕の頭頂部にさらにたわわな突起を押し付け、逆さまになった顔を近付けてきた。
「な、何するんですかっ」
半ば条件反射的に慌てて立ち上がると、ゴンっと鈍い音が響いた。
「痛ッ!」
西条先輩の顎に頭突きする形になり、そのまま先輩が尻持ちをついた。スカートが捲れ純白の下着が見えてしまっているが、顎を押さえて痛がっている先輩は下半身の状況にまで理解が及んでいない。他の生徒達に見られる前に、急いで先輩の二の腕を掴んで引き上げた。
「や、お騒がせした。すまんな」スカートのお尻の辺りを払いながら柔らかいが透き通る声で先輩が周囲に会釈した。図書室の生徒達は静かに本やノートに視線を戻す。
「どうだね?」
「え、何がです?」
「同じ柔らかさだと言うではないか」と僕が掴んだままの二の腕を見やる。
「し、知りませんよっ」慌てて先輩の腕を離す。
「ん?」と、小さな声を漏らし先輩が何かに気付いたように図書室の入り口付近に視線をやる。僕も釣られてそちらを向くと、一瞬だが走り去る女生徒の後ろ姿が見えた。その姿は……。
「……真夏?」