ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 006
莎等は自分を自転車の荷台にのせて走らせる阿蘭という男に戸惑っていた。
「天然なのか、それとも心に余裕があるのか」
不審な男の運転する自動車に乗車した姉を莎等は追っていた。
自分でも無謀と思いながら、走って追いかけた莎等の前に、自転車をどこかしらか用意した阿蘭が、後ろに乗れと提案した。
莎等はいつまで気力が持つかわからないものの自分の技能、『察知』を常時発動し続けている。
何かしらのスキルが発動された気配を『察知』し、阿蘭がスキル持ちであることだけはすぐに莎等は気がついた。
莎等の今回の使命と阿蘭の今回の使命がからむとは考えにくかった。
どうしようかと思案したが、短い阿蘭とのやり取りで、彼はこの世界の経験値は莎等には遠く及んでいないと判断した。
それなら、この阿蘭という正体不明の男が突然態度を変化させ、莎等と敵対することになっても御することができると莎等は判断した。
「ありがとう。乗せてくれて」
莎等は必死にペダルを漕ぐ阿蘭にあらためて礼を述べた。
阿蘭は前を向いたまま、言葉のかわりにうなづいたように莎等には見えた。
「でも、やっぱり自転車じゃ、自動車に追いつけない。どうするつもり?」
莎等の問いかけは、質問するようにみせかけ、阿蘭がまだ見せていない技能の発動を誘うものだった。
阿蘭は莎等の問いかけに先程と変わらず、ただうなづくだけだった。
「どうするつもり?」
莎等はもう一度問いかけた。
やはり、阿蘭はうなづいてばかりだった。
「まさか...」
莎等は警戒体勢を強いた。
背に莎等を乗せたまま、それでも勝ち目のある策なり、技能を目の前の自転車を漕ぐ男は持ちえているのか?
莎等は追っている自転車への『察知』の技能の対象を阿蘭に対して変更せざるのを得なかった。
「ウソでしょう...!」
阿蘭の様子を『察知』した莎等は絶望した。
「この男、バテてる!」
莎等は阿蘭の提案にのった自分の愚かさに荷台に乗ったまめ天を仰いだ。