第9話 深まる謎
「ほら、着いたぞ」
扉を開くのに邪魔していた砂利は、彼女が沈黙していた間に取り除いた。多少残骸が引っかかるが、俺は力を持て余す形で扉を全開にする。
「たしかここら辺に…」
そう言いながら奥に進むがカメラは既に回収済みだ。
「あれ。確かにここにあったんだけどな……」
「え、それって…」
ここまで口を閉ざしていた福束はようやく反応を見せた。
「これは先輩が回収していった可能性が高いな」
「きゃぁぁぁ!!」
自身のあられもない姿が記録されたカメラが既に先輩の手にある事が判明した瞬間、彼女は両手で顔を塞ぎながらその場に崩れ落ちる。
これだけ脅せば大丈夫だろう。
「ほら、こっちに来な」
俺は蹲る彼女の腕を引っ張る。
「カメラは確かにここにあった。どうだ?ここからだと裸にならない限り問題無いだろう?」
彼女は涙を拭きながらマットの方を凝視する。俺のフォローが効いたのだろうか、暫くすると涙が止まり深呼吸をする。
「ごめん。もう大丈夫」
そう言って福束は体育倉庫を出ようとする。
俺はそんな彼女を見て一言。
「油断はするなよ。どんな約束をしたのか知らないけど気をつけるに越したことはない」
彼女は無言でその場を立ち去った。
「さて、これで貢献部の設立は安泰だろう。教室に戻るか」
俺が教室に戻ると小田原が元気よく飛び上がった。
「よおぉぉう渉!」
いつも元気で鬱陶しいやつだが、今回はその元気に拍車がかかっている為、関わるのも苦痛に感じる。が、作戦の成功した今の俺はそんな小田原を受け止めるほど心にゆとりがあった。
「それで、何でそんなに元気なんだ?」
「お前に言われた通り隣のクラスでナンパしてたらよ。なんと!電話番号交換出来ちまったんだよ!!」
そう言いながらアイツは嬉しそうに報告する。
「本当なのか黒羽?」
「うん。ソフトボール部じゃないけど確かに連絡先の交換はしてたよ」
これは上出来だ。小田原がこのまま連絡先を交換した相手と上手く付き合えば俺のハーレム計画も次の段階に進める。
「おめでとう小田原。その子のことはしっかりと大事にするんだぞ」
「おう!あったりめぇよ」
こうして順調に事が運んだ一日は終了した。
ちなみに如月先輩は今日も塾のテストがあったようだ。
翌日、部活動の話し合いは午後五時とお達しがあった。学校の拘束時間は午後四時十五分となっており、その後四十五分間の猶予が俺たちに与えられた。
本日は入部予定部員の全員参加が条件となっている。なので、相手の陣営ばかり気にして自分の陣営を疎かにするのは愚行だ。
だから俺は最終確認を行った。
「如月先輩は四時半に合流。黒羽と三神さんは目の前に……」
あえてもう一度言っておこう。相手に妨害を加える事に集中して自陣を疎かにするのは愚者の所業だ。
「おい!小田原はどこに行ったんだ!!」
六限目が終わり、トイレに行ったきり戻ってこない小田原。たかが数十分程度。それぐらいじゃ俺は動揺しない。寧ろアイツが居なくて清々しているぐらいだ。
だというのに!なんだ!このメールは!!
(渉!すまん、拉致られた)
なぜ!このタイミングで!!男である小田原が拉致られるんだ!!
苛立つ感情を俺は必死に抑える。
「落ち着け……こんな事をする奴なんて一人しかいない」
俺はすぐさま夏目の居る二組へ向かうべく教室を出た。
その瞬間だった。
「てめぇぇぇ!!」
怒りに身を任せた雄叫びが聞こえたと同時に、俺は胸ぐらを掴まれて三組へ連行された。
「静が学校に来てねぇ!恵美が入院した!!これはどういう事なんだ!!」
声の主は顔を見るまでもなくハッキリしていた。しかし解せない。静が学校に来てない……確かに福束は今日学校を休んだ。昨日のショックか、はたまた辞退する良い言い訳が見つからなかったのだろう。
だが、恵美は誰だ?…いや、彼女の事は知っている。加納恵美、夏目と同じ二組のソフトボール仲間だ。俺は彼女の名前や見た目は知っているが、入院したというのは初耳だ。
「な、なんの事だ?」
「恍けてんじゃねぇーぞ!」
福束については確かに恍けている。しかし、恵美という子に関しては本当に何も知らない。なので、俺も強気に出る。
「何を言っている!俺は本当に何も知らない!!とりあえずその手を離してくれ」
俺は夏目の手を振りほどく。相手は女子、振りほどくのに苦労はしなかった。
「静は昨日から電話が繋がらない!恵美は階段から落ちて骨折した!このタイミングで部員二名の欠如。お前以外に誰が仕組んだというんだ!!」
迫り寄る勢いの夏目は、興奮こそしていたが話の通じない訳では無さそうだった。俺は誤解を解くと同時に、彼女のヒートアップした感情を落ち着かせるために恵美について尋ねた。
「階段から落ちたのは不慮の事故ではないのか?」
「恵美は誰かに押されたと言っていた!!」
「どこの階段だ?防犯カメラや目撃者は居なかったのか?」
俺は親身になりつつ、なるべく多くの情報を聞き出す。
「学校の帰り道よ!周りが暗かったから目撃者はいない。カメラはあったけど、階段じゃなくて自販機とゴミ箱を撮っていたから恵美が落とされた所は写ってなかった」
「なら第一発見者は?救急車は彼女が自分で呼んだのか?」
「第一発見者なんて、いない…いや、正確には救急隊員。電話は恵美の携帯から発信されていたけど、本人は直ぐに気絶したから犯人が電話したんだと思う」
階段から落とした相手が気絶した為、その子の携帯を使って救急車を呼ぶ。相手の携帯を使うことで犯人の足が付かない…こんな事を咄嗟に……相当手慣れているな。
そして、犯人の狙いがソフトボール部なら…
「おい。残りの二人は何処に行ったんだ?」
「どういう意味だ?なんでお前に教える必要がある?」
「よく考えるんだ。俺がソフトボール部の設立を阻止したいのなら、人員を一人削るだけで十分だ。だが、今回は二人も狙われた。そうなると犯人の狙いはソフトボール部全員の可能性がある」
ここまで説明すると、夏目は自分達の置かれている状況が理解出来たようだ。
彼女は直ぐに携帯を開き仲間の安否を確認する。
「これは…」
彼女の画面には【たすけて、】と言う文字が映し出された。
メッセージを受信したのは十五分前。どうやら血が頭に昇って通知に気付かなかったようだ。そして、それは俺も一緒だった。
16:45と表示される画面の下には黒羽からメッセージが届いていた。
「しまった!いつの間にこんな時間に」
どうにか夏目を撒いて職員室に行きたい。だが、その願いは呆気なく叶えられる。
仲間のメッセージを見た彼女は俺の事など無視して走っていってしまったのだ。
「ふん。十分前に全員集合とは気合いが入ってるじゃないか。特に三田渉、そんなに汗をかいて何をしていたのだ?」
「新入生として!校内を隅々まで熟知しようと回ってました!」
「馬鹿馬鹿しい…」
斯くして、三田渉以下四名は無事、五時までに職員室に到着することが出来た。
登場人物
三田渉 主人公
黒川黒羽 渉の幼馴染
小田原悠葉 渉の男友達
三神琥珀 巨乳 優しい香水の香り
高松燐赤 黒羽の隣の席 ポニテ 爽やか
石川一葉 高松の友達 バレー部 ツインお団子ヘア
福束静
松下梅果 担任
如月橙叶 二年生 長身 貧乳 饒舌