第7話 作戦開始
〜作戦当日〜
「おっす渉!」
「なんだ小田原、妙に元気だな」
「それがさぁ、さっき体育館前の自販機でジュース買ってたらよ、自販機横に設置されてたゴミ箱が一つ無くなったって話題になってたんだよ」
「へ〜、犯人は見つかったのか?」
「いや、それが全然検討もつかないらしくてよ。自販機荒らしの対策で付いてた防犯カメラも風で飛んできたプリントが覆いかぶさって何も撮れてなかったらしい」
「犯人は随分運がいいんだな」
「だろだろ」
入学早々この話題が学校中に広まった結果、小田原だけではなく多くの生徒が浮き足立つ事になった。
しかし、今日の作戦をそんな気持ちで向かえられると困る。特に、個々の判断で勝手な行動をされると致命的なダメージを受ける今回の作戦。俺は各々に行って欲しい事を伝えると同時に、多少の行動制限をかける事にする。
作戦を伝えるのは昼休み。教室にいる生徒が最も少なく、放送が流れているため周りに声が届きにくいこの時間に伝えた。
「小田原はソフトボール部をナンパしろ。但し、福束静以外だ」
「おいおい、ナンパは構わんがなんで同じクラスの福束さんは駄目なんだ?」
理由は簡単。彼女が今回の作戦のターゲットだからだ。だが、コイツにそんなこと言ってもリスクが上がるだけだ。
福束静、小柄でショートカットな彼女はいかにもスポーツ女子といった風貌だ。だが、他のソフトボール仲間とクラスが散り散りになった彼女は、教室では基本一人で携帯をいじっており、昼休みや放課後になると仲間の元へと一目散に向かう。そんな過ごし方をしているので、入学から一週間経ってもクラス内に親しい友人はおらず、誰かとすれ違ってもあいさつ程度で終わる。そんな彼女の性格が功を奏し、観察は昨日一日で問題なく完了した。
「お前にはこのクラスだけではなく、他のクラスの女子とパイプを通して欲しい」
「おぉそうか。そんじゃ俺に任せとけっ!」
適当にはぐらかした結果、やる気を出す小田原。やはりこいつはチョロい。
「次に黒羽だが昨日と同様、夏目達の周辺監視だ。俺の作戦が邪魔されないように監視してくれ」
「分かりましたよ」
黒羽は二つ返事だから助かる。
「最後に三神さん、君には一番大事な役目をお願いする…」
各々作戦を再認識した所で、俺は勝負飯を頬張る。
〜放課後〜
「福束さん…ちょっといいかな?」
「えぇっと……三神さんだっけ?なんの用かな」
彼女の作戦は福束を旧体育倉庫の前まで連れてくることだ。
「体育倉庫にソフトボールで使えそうなバットやボールがあったのだけど一緒に見に行かない?」
「面白そうね。いいよ」
クラス内に友達のいない福束は、話しかけられた喜びと、自分の好きなソフトボールの話題が同時にきたことで気持ちが高ぶる。この二つ返事は予想通りだ。
「それじゃ他の子も誘ってみるね」
ソフトボール用品があるのなら皆で見に行きたい。そう思うのは当然だ。なので、俺は三神に二の矢を授けた。
「わ、私…大勢の知らない人と一緒にいると緊張するので、今日は福束さんと二人だけで行けないかな?」
彼女の性格を逆手に取り二人だけで行きたいと言う。そうすれば福束も初対面の相手におうちゃくに出ることは出来ない。
案の定、福束は三神の提案を承認した。
「黒羽、あとは頼んだぞ」
二人が教室を出ていった後、俺も後を追った。
「あっ、福束さんこれどうぞ」
「え、いいの?」
三神には道中、カフェオレを渡すように指示した。
「うん。もし、ソフトボール用品じゃなくて野球用品だった時のお詫びと、こんな事に巻き込んじゃってごめんなさいって事で」
「なにそれ〜。そんに気を使わなくてもいいのに。私たち同じクラスメイトじゃん」
「そうもそうだよね。あ、それとこの先に丁度ゴミ箱があるから、冷えてるうちに飲もっか」
俺は予め旧体育倉庫に到着する目前にゴミ箱を移動させておいた。今朝方なんか騒いでいたらしいが、それは運良く放課後まで発見されなかった。
「ここのカフェオレ美味しいよね」
そう言いながら三神も俺がプレゼントしたカフェオレを飲み干す。その姿を見て福束も俺が買ったカフェオレを躊躇いなく飲み干した。彼女が自販機のカフェオレを気に入っている事は昨日の調査で確認済みだ。
「紙パックってのがいいよね。なんか味のある感じ?」
二人の会話が少しずつ弾んできた所で、旧体育倉庫が見えてきた。
「あ、ここゴミ箱」
「こんな所にあるんだ」
「昔はここにも自販機あったんだって」
三神にそれっぽい事を言ったが全くのデタラメだ。不自然な場所に置いてあるゴミ箱へのカモフラージュのつもりだったが、その必要は無かったみたいだ。
「ほら!早く体育倉庫に入ろ!」
体育倉庫を見つけた福束は走り出す。
「あれ、開かない?」
当然だ。昨日泥と砂利をふんだんに使ったのだから。
それでも頑張って扉を開けようとする福束に三神が追いつく。
「その扉、たぶん雨で泥とか詰まって動かないんだよ。昨日も開かなかったんだけど、少しだけ開いてる隙間からなんとか入れたんだ」
「そっか。それじゃ私から先に入るでカバン持ってて」
そう言って福束はカバンを渡し、体を前後に揺すりながら中へ入った。
三神さんよくやった。ここからは俺の出番だ。
「おいゴラァァァそこの一年!!」
俺は腹の奥底から力一杯の声を振り絞った。
「ここが誰の縄張りか分かってんのかぁ!あぁ?」
人生でも出した事ないほど低く割れた声で体育倉庫に近付く俺は身振り手振りで三神を遠ざける。福束もこの状況にビビっているのだろう、全く反応を示さない。
「なぁあんた。なんの用があってここに来たんや?」
質問の回答に戸惑う沈黙時間を使って俺は三神に指示を伝える。
「彼女のカバンは俺が預かっとく。三神さんはこの後俺の演技に合わせて悲鳴だけ上げといてくれれば大丈夫。その後は茂みに隠れて待機してて」
「分かった」
作戦会議を済ませた所で俺はヤンキーモードに入る。
「おめぇいつまで黙っとるんだ?」
「ひ、ひぇ〜」
「ちっ、埒があかんな。もういい!こっちについてこい!」
「い、いやぁ!!やめてください!!!」
そう言いながら三神さんは少し離れた茂みへ向かった。
一連の芝居が終わった俺は扉の横に腰をかける。少し喉が疲れたので休むと同時に、福束の動きに聞き耳を立てる。
彼女は細心の注意を払って動いているようだが、俺が昨日撒いた砂利の音は消せてない。少しずつ近付いてくる砂利を踏む音。
カバンを取り上げスマホも持っていない彼女は自力で脱出するしかない。
そして、彼女の左手が扉の隙間から姿を見せる。
「ゴホッゴホッ」
その瞬間、俺はわざとらしく咳き込んだ。すると彼女の手は既にそこから消えていた。
登場人物
三田渉 主人公
黒川黒羽 渉の幼馴染
小田原悠葉 渉の男友達
三神琥珀 巨乳 優しい香水の香り
高松燐赤 黒羽の隣の席 ポニテ 爽やか
石川一葉 高松の友達 バレー部 ツインお団子ヘア
福束静
松下梅果 担任
如月橙叶 二年生 長身 貧乳 饒舌