第6話 口論
職員室に隣接する会議室へ通されると、俺と女子生徒は向かい合うように座らされた。そして、俺達の姿が見える位置に先生が座ると話がはじまる。
「それではこれより、今年設立する部活についての話し合いをする」
松下先生は普通に進行を始めるが俺はこれが何の為の話し合いなのか知らない。なので、とりあえず質問する事にした。
「すみません」
「なんだ?」
「部活動設立の話し合いとは何をするのですか?」
「決まっているだろう。お前とこいつの主張を聞いてどちらの部が設立するに値するか決めるのだ」
先生の言い方はまるで、どちらかの部しか設立できないと言っているようだった。
「あんた本当に何も知らないんだね〜」
無知の俺に女子生徒が追い討ちをかけてくる。
「夏目、要らぬ挑発をするんじゃない」
「はいはい。気をつけます〜」
先程のやり取りを見た上で、ふてぶてしい態度をとれる彼女は夏目と言うようだ。
「はいはい先生!」
「なんだ?」
「この様子だと彼が部員を四人集めたのかも疑わしいです」
そこまでして相手を蹴落としたいのだろうか…夏目は難癖をつけてきた。
「はあ〜。部員が集まっているからこの場に居られるんだ。頼むから進行を妨げないでくれ」
呆れた表情で答える先生。どうやらこれ以上の質問はあの人の機嫌を損なうだけのようだ。
「それでは最初に質疑応答から始める。お互いの部活動は分かっているよな?それじゃ、夏目から質問を…」
「貢献部とは何をする部活なのですか?」
「貢献部は体育祭や文化祭を中心に人手が不足している所に協力する部活です」
「はぁ?なにそれ。そんなんただのボランティアじゃない。そうですよね先生?」
「今はお前と三田の時間だ。私に構わず二人で話を進めてくれ」
どうやら先生は極力介入しないようだ。それならこちらも遠慮する必要はない。
「夏目さん。学校教員は常に人手不足です。各クラスの授業進捗やテスト作り、更に部活動など一人で複数の業務を抱えています。そこで我々は、そんな先生方の為に…」
「ちっ、。偽善者気取りかよ」
俺の話を遮り悪態をついても先生は無反応…そのつもりならこちらも徹底的にやってやる。
「そもそも私の作るソフトボール部は毎年大会なども行われる立派な部活動だ。さらにそこで結果を出せば来年の入学希望者も増える。そんなソフトボール部の設立を阻止してでも貢献部なんて部を作るつもりか?」
言いたいことを言い放った夏目は先生の方をチラッと確認するが、ノートに何やらメモを書くだけでピクリとも表情を変えない。
だが、そんな事はどうでもよい。この夏目と言う女、さっきからトゲのある発言ばかりしてこちらを挑発しているように感じる。もしかして自分が圧倒的優位な立場だから多少のことは許容して貰えるとでも思っているのだろうか…
「では、ソフトボール部は現在何名の部員が集まっているのですか?」
「・・・五人よ」
台風のように襲いかかってきた夏目の勢いが微少ではあるが弱まった。どうやら部員の数に触れられる事は覚悟していたようだが、本能で反応してしまったようだ。
そんな彼女の弱点を逃すことはしない。
「ソフトボールってのは五人で試合になるのか?」
「部が設立出来たら四人ぐらいすぐに集まるわ!」
随分ガバガバな考え方だな。そんな弱点丸出しみたいな発言で乗り越えれるとでも思っているのか?
夏目の地頭が宜しくないと悟った俺は容赦なく畳み掛ける。
「しかし、実際は五人しか集まっていない。それとも部員を集める事をサボっているのか?部が設立出来たら人数が集まる…そんな上手くいくわけないだろ。実際ソフトボールをやりたい人なら他の学校に行く選択肢を取っているはずだ。・・・もしかして、集まった五人って中学からの同級生じゃないのか?」
「そうよ。私含め五人全員同じ中学の出身よ。何か問題でもある?チームワークは最強なんだから!」
「あのなぁ…そんな仲良しクラブみたいな所に入ってくる奴がいると思ってるのか?居たとしても九人集まる可能性は限りなくゼロに近いし、助っ人もそんな雰囲気じゃやりづらいだろう」
この辺りから夏目の発言は勢いを無くし消沈する。
「・・・とりあえず両者の言い分は分かった。話し合いの内容を精査した後、明後日の放課後に全員で結論を出す。そういう訳で今日は解散だ」
話し合いは数十分に渡り行われたが、先生もこのまま話し合ったところで埒が明かないと思ったのだろう。解散を告げると夏目は勢いよく立ち上がりこちらを睨む。
「覚えておきなさいよ」
捨て台詞を吐いて彼女は部屋を出ていった。
それじゃ、俺も戻るか。
「三田」
「はい?」
教室に戻ろうとした俺を呼び止める先生。
「論争ではお前の方が優勢かもしれないが、現実的な事を言えばソフトボール部の方が圧倒的に設立率が高い。だがな、私は運動部の顧問を受け持つなど真っ平御免だ」
「はい…」
話をする先生はこちらを見ることは無く、話し合いのメモをした紙を見ながら呟く。
「部活動を設立する最低条件は部員数だ。そこを上手く突けばお前にも勝機はある。それと監視カメラには気をつけろ」
アドバイス(?)を言い終えた先生は黙り込む。
この部屋にも防犯カメラがあるから面と向かってアドバイス出来ないのだろうか。
そう思いながら俺は無言でその場を去った。
教室に戻った俺は考える。
最低条件は部員数…となると、相手側の部員を一人減らせば自動的に俺の部活が設立されるわけだ。
先生のアドバイスにより、今後行われる計画が立案される。
〜放課後〜
作戦開始は明日の放課後。場所は人気の少ない旧体育倉庫だ。一刻の猶予もない俺は夏目に邪魔されないように黒羽を見張りにつけた。小田原と三神にはそれっぽい理由を付けて解散させる。
そして、自由の身となった俺は倉庫内を隈無くチェックする。
「よし、ここにカメラは設置されてないな」
昔使われていた倉庫だったお陰か、カメラが設置されている気配すらない。そう思いながら俺は小型カメラを二箇所に設置した。
「床全体に砂利を撒いて、ここにバケツを置いて完成っと」
夕日が差し込む埃のかぶったマットの横に、ボコボコで誰も使わないであろう銀色のバケツを設置して倉庫内は完成した。
「ふぅ。埃っぽい所って手がカサカサになるから嫌なんだよな…」
「お疲れ様」
「うぉ黒羽!」
倉庫の外で当たり前かのように黒羽が待機していた。
「お前、夏目達の監視は…」
「今日はね、全員で話し合いって事で帰っていったよ」
「そ、そうか。俺は先生の頼みで旧体育倉庫の備品を見てたんだ!」
苦し紛れの言い訳でこの場をやり過ごそうと思った俺は、僅かな希望に賭ける。
「へ〜そうなんだ〜」
あまり信用してない様子の黒羽。
「中、覗いてみるか?」
見られて困る物なんて目につくとこには置いてない俺は勢いよく扉を開ける。
「そんな事しなくても信用してるからいいよ。それよりも早く帰ろ」
一瞬、中をチラッと見られた気もしたが、黒羽が満足したようなので俺は扉を閉めた。
扉は人一人がようやく入れる位の隙間をあけ、これ以上開かないようにレールの中に泥と砂利を詰めた。
「これだけ詰めておけばさすがに触らないだろう。もし木の棒でほじくったとしても隙間から入った砂利が絡まって動くことは無いはず」
俺は最後に一礼してその場を去った。
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