第5話 部活動へ対する本気
「そういえば昨日、あの先輩と何を話したんだ?」
「あぁ。そういえばあの先輩、俺の設立する部活の一員になってくれるんだと」
「おぉ!あの綺麗で凛とした先輩を仲間にするなんて…渉も隅に置けないな!」
心配するな。あの人の化けの皮は一瞬で剥がれるから…と言いたいが、何処かで小田原の反応を楽しみにしている自分がいる。
俺は如月先輩の本性をあえて伝えないことにした。
「気さくな先輩だから小田原ともすぐに仲良くなれると思うぞ」
「そっか〜。今から楽しみだな」
「それよりもあと一人部員を見つけないとな」
とりあえず朝のホームルームが始まる前に一人。声掛けでもしておくか。
目標を立て教室に入る。
扉の開く音に反応するクラスメイト。その中で一人、窓際で立っている彼女と目が合う。
彼女は確か……そうだ、三神琥白だ。
彼女は俺が初日にマークした女子生徒の一人だった。
あの巨乳…間違いない。それに一人のようだな。よし、彼女に話をしてみよう。
下心がある事を悟られないように、彼女の顔を見ながらゆっくり近づく。決して胸に視線を送らないように…慎重に…
「おはよう。確か三神さんだったかな?」
「あっ、お、おはようございます。その……昨日はボールペン拾ってくれてありがとうございました」
覚えていてくれたのか。これは都合が良い。
「いや、当然の事だよ。それよりも三神さんって入部する部活とか決まってる?」
「おい渉。それはストレートすぎだろ」
うるさいな。俺は余計な事はしたくないんだよ。朝のホームールームまでの数十分間だと世間話をするにしても時間が足りない。それにもし、相手が人見知りで会話が弾まなかったら話を切り出すチャンスすらなくなる可能性がある。
「わ、私はまだ…」
やはり彼女は人と話すのに慣れてない控えめな性格のようだ。ここは背中を一押しして見事に入部させてみせる!
「俺はこれから新しい部活を設立しようと思っているんだ。でも部員の数がまだ足りなくてさ。良かったら三神さんも俺達と一緒に部活動やってみない?」
テンプレみたいな内容だが彼女には十分だろう。それにここで戸惑うなら最後の切り札が残っている。きっぱり断られたら諦めるしかないが、彼女に限ってその可能性は少ないだろう。
「わ、私…」
「うん…」
「貴方のこと好きになったみたい」
彼女は極限まで抑えられた声量で早口に言う。
「何だって?」
どうやら小田原には彼女の声が聞こえていないようだ。しかし、俺には彼女の気持ちがしっかりと伝わってしまった。さて、どう反応しようか…
「そ、そういう事だから!」
小田原の問に対して、顔を真っ赤にした三神さんはその足で教室を出ていった。
「私、三神さんを追いかけてくるね」
教室を飛び出た彼女を追いかけると言う黒羽。
「あと八分でホームルームだ。間に合わなかったら先生に上手いこと言っておくからフォロー頼んだぞ!」
「わかった」
黒羽…普段は俺の傍から離れないのにたまに役立つ時があるな。
「渉〜、三神さんは結局何を言いたかったんだ?」
「小田原……大丈夫だ!彼女も貢献部の一員になった」
コイツに余計な情報を与えてもややこしくなるだけだ。とりあえず結果だけ伝えておけば納得するだろう。
「・・・これで五人揃った…揃ったよな?やっほーい!これで俺達の部活が出来るぞ!」
ほら、こいつはバカだから非常に扱いやすい。
「それじゃ、昼休みまでに申請書を書いておくか」
俺は黒羽達の事など一切気にせず机に向かった。
数分後には黒羽と三神さんも教室に戻りホームルームは問題なく始まった。
俺は休み時間中に黒羽と三神さんに署名を頼んだ。勿論、三神さんのフォローも忘れずに行った上でだ。
そして昼休み。如月先輩から署名をもらうために二年の教室へ赴く。その後、その足で職員室へ申請書を提出しに行った。
「・・・ふむ。確かに申請書は頂いた。しかしだな三田よ」
担任の松下先生は少し呆れた表情で俺を見つめる。
「こんな部活が認められると本気で思っているのか?」
「はい。この学校の校訓『自主創造』に基づき、自ら考え行動に移したいと考えてます」
「ふん、建前だけは一丁前だな。まぁ良い。結果は追って報告する。それまではくれぐれもいい生徒であるように心がけるんだな」
先生の忠告を受け俺は教室に戻った。
その後、入学早々のぎこちない雰囲気のまま一週間が過ぎた。
「三田渉。部活動の件で話がある。十三時に職員室前に集合だ」
十三時に集合……集合?ってことは俺の他に誰か来るのか?
疑問を抱いたまま五分前には職員室前に到着する。
すると、そこには一人の女子生徒か立っていた。
肩につかないが結べる程度のショートカットで、キリッとした目つきの彼女は俺に気付くと距離を詰めてきた。
「貴方が三田渉?」
「そ、そうだけど何?」
高圧的な態度に少し萎縮してしまったが、相手は同学年だ。ビビる必要はない。
「貢献部なんて部活を作ろうとしてるらしいじゃないの」
「だから何だよ?」
「ふっ、笑わせないで。そんな遊びみたいな部活が私の設立するソフトボール部と争うなんて時間の無駄なんだけど?」
この女、何を言っているのだ?ソフトボール部と争う…
「そのアホ面、どうやら何も聞かされていないようね」
「何が言いたいんだ?話の趣旨が見えないぞ」
「おい。誰が職員室前で喧嘩しろと言ったんだ?」
その時、松下先生が職員室から出てきた。
「・・・十三時丁度。一人足りないみたいだが場所を移そう」
「先生〜!待ってくださ〜い!!」
十三時を数秒過ぎた所で最後の一人がやってきた。
「セーフ!」
「アウトだ」
普段から無愛想な先生だが、遅れてきた生徒を見る目は更に冷たく力強かった。
「いや〜、まだ職員室の場所を覚えていられなくて迷っちゃいました」
見え透いた嘘をつきやがって。だいたい普通は集合時間の数分前には到着するようにしておくべきだろ。
その考えは先生も同じようだった。
「それにしても教室から職員室って遠いですね〜」
「いつまでそこに居るつもりだ?」
「えっ、」
先生の低い一言で女子生徒の顔に緊張が走る。
「お前は約束の時間に間に合わなかった。ついては今回の申請を無効とする」
それはちょっと厳しすぎないか?とその場の全員が同じことを考えたと思うが、誰も口にはできなかった。いや、口にできるような雰囲気ではなかったというのが的確だろう。
先生はその場で女子生徒の申請書を破る。
「我々は生徒のお遊びにお金を出すつもりは無い。学校の協力を得たいのならそれなりの覚悟を持て。遅刻など言語道断。更に遅刻に対して謝罪の一言も無い。セーフ?大人を舐めるのもいい加減にしろ。私から見ればお前は中学生気分が抜けていない。この一年しっかりと学んで出直してこい」
終始冷静に声を荒らげることなく淡々と事を伝えた先生を前に、女子生徒は涙目になりながらその場を去ってゆく。
「申し訳ございませんでした」と最後に一言残して。
「さて二人共。今更聞く必要は無いと思うが、準備は良いか?」
「「ハイッ!!」」
なんの準備か検討も付かなかったが、俺は軍隊ばりに声を張り返事をする。その緊張はソフトボール部の彼女にも伝染し、二人で仲良く返事をする結果になった。
登場人物
三田渉 主人公
黒川黒羽 渉の幼馴染
小田原悠葉 渉の男友達
高松燐赤 黒羽の隣の席 ポニテ 爽やか
石川一葉 高松の友達 バレー部 ツインお団子ヘア
松下梅果 担任
如月橙叶 二年生 長身 貧乳 饒舌