第3話 俺の作る部活は…
入学初日。二年の先輩に連れられ空き教室に二人きりで閉じ込められたが、俺は冷静さを保っていられた。
何故なら、学校生活で起こりうるであろうハプニングの数々を予めシュミレーションしていたからだ。
放課後の学校。人気の少ない教室。一つ上の先輩が主導権を握る中、俺に出来ることは…
少し考えた後、従順な子犬の様な後輩を演じることにしてみた。
「せ、先輩…」
そう言いながら窓際へ後ずさる。
さぁ来い。俺は準備できてるぞ!恐喝か?カツアゲか?もしかして…告白?
期待に胸を膨らませた俺の予想を、先輩は当然のように打ち砕く。
「君、部活動を立ち上げたいのか?」
「えっ?」
正直予想していなかった質問に驚きを隠せない。
「部活…ですか?」
「おかしいな…君じゃなかったのかな?」
「い、いえ。新しい部活を作ろうとしてました」
「よし!それじゃ、私が協力してあげよう!!」
この人、何が狙いなのだ?
話が見えないと先に進めないので、とりあえず質問をした。
「先輩の目的はなんですか?」
「私の目的ね…」
少し悩む仕草を見せるがすぐに話し出す。
「君はどういった部活動を作ろうとしているのだ?」
おいっ!俺の質問は無視か!
「えぇっと…」
「そうだ!私にいい案があるぞ。放送部や新聞部とかどうだ?学校の為になって先生達の評価も上がるぞ」
「いや、実は…」
「特に私は話すのが好きでな、放送部ならエース!新聞部ならインタビュー…」
容赦ない先輩の饒舌を前に、咄嗟にどうにか止めないといけないと思った。
「ちょっと待ってください!!」
口の閉じない先輩よりも少し大きめの声で主張する。
「どうしたんだ?もしかして運動部がよかったりするのか?しかし、運動部は人数を集めるのが…」
「貢献部!!」
ちょっとやそっとじゃ止まらない先輩に痺れを切らした俺は大声で対抗した。
「俺は学校生活で人材が足りてない所に協力をする貢献部を作るつもりなんだ!!」
と言うのが建前で、実際は部室でのんびりハーレムライフを送る為の部活だ。多くの生徒が役割を持って在籍する学校生活で人材不足になる事などそうそうないはず。その為、基本部室でのんびり過ごせると考えた。学校行事で人手が足りない時を中心に活動を行うのだが、それはそれで良い思い出作りになる一石二鳥の美味しい部活だ。
そんな私利私欲の限りを尽くした部活動をいい感じのニュアンスに変えた貢献部に先輩は食いつく。
「貢献部…いいじゃないか!」
「えっ?」
大声で話に割って入った事など気にしない先輩。
「よし!その内容で話を進めよう!」
「もしかして先輩もこの部に入るおつもりで…?」
「なんだ。ダメなのか?」
「いえ。問題は無いのですが、何故なんの関係も無い先輩が部活動作りに協力してくれるのか不思議に思ったので」
「そういえば私の目的をまだ伝えていなかったな。良いだろう。この際、私の野望を後輩に伝えておこう」
如月先輩は腰に手を当て無い胸を張って言い放つ。
「私は次期生徒会長になるつもりだ!なので、部活動を立ち上げ生徒の注目を浴びると共に、先生からの評価も上げようという魂胆だ」
彼女もまた、私利私欲のモンスターだった。
「それで部員は集まったのか?」
急に真面目モードになる先輩。どうやら彼女の扱いは相当難しいようだ。
今後のことを考えると溜め息が止まらないが、ここは先輩の手を借りよう。
「部員は先輩と自分を合わせ四名は確定しました。なので残り一人です」
現在のメンバーは俺と如月先輩、幼馴染の黒羽と隣の席の小田原。理想からどんどん離れてゆく現実を前に、俺は最後の希望にかける事にした。
「ふむ。あと一人か…」
「先輩の知り合いにツテのある人とか居ないんですか?」
「自慢じゃないのだが、私に親しい友人は…」
ガチャ。ガラガラ〜
「橙叶〜」
当然かのように扉を開けて入ってきた一人の女子生徒は、如月先輩を発見すると中へ入ってくる。
「やっぱりここに居た。今日は塾の大事なテストの日なのに何やってるのよ!」
「そういえば今日だった気がする」
「気がするじゃなくて今日なのよ!」
「それじゃ後輩君。また明日会うとしよう。それまでに最後の一人を探しておいてくれ」
腕を強引に引っ張られ教室の外へ連れ出される先輩。
「ごめんね〜」
友達らしき彼女が一言残し、二人は去っていった。
「一体何だったんだ…」
目まぐるしく変わる状況を整理する。すると、一つの問題点が浮かぶ。
「明日までに最後の一人を探しておいてくれ…これは命令というやつなのか?そうだとするのなら、あの人は部長になるつもりなのか……それだけは駄目だ!」
理想郷を作るには権力者になる必要がある。少なくとも部員を従わせるぐらいの権力は必要だ。
例えば二人一組で作業を行う場合、部長であれば組み合わせを決めることは必然であり、下心があっても適当な理由をつけてしまえばどうにでもなる。部員のわがままとは違う強制力が部長という役職には付いてくる。
「やはり主導権をどうにかしてこちらに戻さないと…」
最後のメンバーよりも如月先輩の扱いについて考える方が大事なのでは?と思いながら教室を出る。
「渉君、終わった?」
教室を出ると黒羽が出迎えてくれた。
「黒羽…よくここにいる事がわかったな」
「学校の探索してたらたまたま如月先輩の姿が見えたから」
そう言って彼女は笑みを浮かべる。
「さぁ、一緒に帰りましょ」
「他のみんなは?」
「渉君が先輩に連れられたから自動的に解散したよ」
「そっか…あっ、でもカバンを取りに戻らないと」
教室に向かう俺の進路を塞ぐ黒羽。
「どうした?そこに立たれると通れないのだが…」
「実は…」
彼女は背中の後ろに隠すように持っていたカバンを二つ前に出す。
「それは、俺のカバン」
彼女の持つカバンの片方は紛れもなく俺のものだった。
「教室に放置しておくと盗まれると思って…」
彼女は少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そっか。気を使ってくれてありがとな」
「うん!」
頭ポンポンすると彼女はニコッと嬉しそうな顔に変化した。
〜教室〜
「渉のやつまだ帰ってこないのか〜?」
全員解散したと伝えた黒羽の発言とは異なり小田原は教室で渉の帰りを待っていた。
「黒川さんも気付いたら居なくなってるし…」
独り言をブツブツと言いながらスマホをいじる小田原。
渉達と一緒にいた高松と石川は、小田原に別れを告げ既に教室を出ていった。
「あれ?そういえば渉のカバン無いな…」
暇つぶしにやっていたゲームが一段落ついた彼は、渉の机の周りを確認する。
「やっぱり無い…」
悩む小田原。まだ連絡先の交換をしていない彼には渉と連絡する方法がなかった。
「仕方ない。あと三十分だけ待って帰るとするか」
彼は再びスマホに集中してゲームを始めた。
登場人物
三田渉 主人公
黒川黒羽 渉の幼馴染
小田原悠葉 渉の男友達
高松燐赤 黒羽の隣の席 ポニテ 爽やか
石川一葉 高松の友達 バレー部 ツインお団子ヘア
松下梅果 担任
如月橙叶 二年生 長身 貧乳 饒舌