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迷走



翌朝、俺は質素ながら綺麗な部屋で顔を洗っている。


昨日、あれから慌てて追い掛けてきた神父とシスターが寝床とご飯を提供してくれたのである。


神父とシスターは俺が救世主だと思って良くしてくれてるのだと考えると騙してるようで少しヘコむ。


まぁ俺は自分が救世主だなんて名乗ってないから勝手な勘違いなんだけどね。


それでも一泊一食の恩義、何かで返せれば良いなと思う。ここを出たら2度と会わないだろう。


そこで出番なのがこのチートの腕輪だ。

昨夜も警戒魔法やら結界魔法やらで俺の安眠を守ってくれたチートの腕輪だ。教皇とかいうおっさんの件があったから念のため使っといたのだ。


そして今回使う魔法は錬金術と錬成魔法。これらを駆使すれば価値ある物が作れるはず。



何を作ろうかなーと考えていると部屋の扉からノック音。

「はーい。」と暢気な声を出しながら扉を開けると可愛らしいシスターが立っていた。


「朝から大変申し訳ありません。あるお方がお会いしたいとの事で一緒に来て頂けないでしょうか?」


俺が会いたいのは魔王さんだけで他に会いたい奴なんていないんだけどな。どうしたものか?


「俺が行かないと君は困る?」


と聞いてみるとシスターは一瞬驚いた顔をして、そして困り顔になった。

うむ、これは俺が行かないとシスターさんは困った事になるらしい。


「じゃ行こっか。君を困らせるのもなんだしね。」


と何でもない事のように言ってみる。

カッコつけだ。

内心は、嫌だなぁめんどくせー。とか、えっやだキモい。とシスターさんに思われてたら嫌だなとかグルグルだ。

しかし社会人として一生懸命働いてるフリをしてきた俺だ、外面を繕うのなんて朝飯前だ!


それから馬車に乗せられ何処かへ運ばれ、降ろされる。


道中はほぼボヘーとしてた。

中世ヨーロッパの街並みとか興味無いから外なんて見ない。

馬車内は可愛らしいシスターと2人っきりだったけど、セクハラ問題とか怖いからチラチラ見るだけにしといた。


で馬車から降りた目の前にはデーンとお城がある。

流石に大きいお城にはテンションが上がる。

剣と魔法と冒険、憧れます!でもロボットとかの方が好きかも・・・


気が付くと剣を腰にさげた兵士や案内人みたいな人に囲まれ、大きな扉の前まで連れてこられていた。扉の向こうは謁見の間ってやつだろうな。


会うのは王様かぁ。

着いたのが城だった時点で予想はしてたけどさ、その前に人の良い貴族やら大臣や宰相と会って人となりを確認してから紹介って手順があっても良くない?

異世界モノってそうやって成り上がっていくのが面白いんじゃん!


と思ったけど、俺にとって異世界冒険モノは小説やアニメで見るだけで十分であって、目的はあくまでも宇宙旅行だった。早く片付けて帰ろう。



「救世主殿、入場します。」という案内人らしき人の声と共に扉が開く。


そこは見たまんまの謁見の間で、扉から数段高い位置に据えられた玉座まで赤い絨毯がひいてあり、その脇を兵士やら偉そうな人が並ぶ。

玉座には豪華な服を着た壮年の男性。その両脇に教皇のおっさんと禿げたおっさんが立っている。


案内人に促されるままに絨毯を歩き、案内人が立ち止まった所で一緒に止まる。


案内人と少し後ろを歩いていたシスターが跪く。

日本人の習性と同調圧力により俺も跪きそうになったけど耐える。

そもそも何で偉いとされる人に対して頭を下げるのか意味が分からない。


教皇のおっさんは俺を睨んでる。

顔はまだ赤くない。たぶんまた赤くなる。いや、する。


禿げたおっさんはじろじろと見てくる。

キモい。こっち見んな。


王様は真顔でこっちを見てる。


さてどうなるのかな?何の用なのやら。



「王の御前である。頭を下げよ!」


さっそく教皇が噛み付いてきた。さて赤くしよう。


「え?何でですか?俺はその王様とやらの家臣でも家来でも無いですし、この国の国民ですらないんですが?それで何で頭を下げる必要があるんです?」


あー怖い。言い合いやら喧嘩っていつまで経っても怖い。何か急に殴られそうで怖い。

でも、事なかれ主義でいると声が大きいバカの意見が簡単に通り、こちらが皺寄せを食うのは身に染みて知っている。


「由緒ある王家に対し何て無礼な!」


知らんがな。


「その由緒とやらは俺に何の関係があるんです?そもそも無礼と言うなら昨日の貴方の態度は無礼ではないのですか?」


「わしは教皇であるぞ!」


「偉ぶりたいなら他所へどうぞ。俺には関係ない話なんで。あんたをヨイショしてくれる所でやってな。」


偉さなんてそれを認めた相手にしか通用しない。

そこに何の価値も見出だせない俺にはどうでもいい。


「教皇、黙ってもらえぬか。」


王様の低く渋い声が響く。


「わたしが彼と話をしたくて来てもらったのだ。少し黙っててくれぬか。」


王様の再度の言葉に教皇は何かを言おうとした口を塞ぎグヌヌっとなっている。


「こんなつもりでは無かったのだ。すまぬ。」


そう言って王様が頭を下げた。

その瞬間周りがザワつくが王様は構わず続けた。


「お主は女神様が遣わした救世主であり、魔王を討ち滅ぼす為に来たのは相違ないか?」


うーむ、これはどう答えるのが正解だろうか?

違いますって言うのがヤバいのは分かる。けど、嘘をつくのはどうかと思う。


「救世主とかは知りませんし、魔王とやらを討ち滅ぼすかは分かりません。

でも、魔王が行おうとしている事を止めるのが俺の役割です。」


よし!嘘も無く間違いも無い返事が出来たはず、さぁどうだもう用事は無いだろ?出てって良い?


「そうか、やはり使命を帯びているのだな。」


王様はそう呟き何かを納得した様子。確実に勘違いです。ありがとうございます。もう帰って良い?


「よし、エリザとクリス前に出ろ!」


「「はっ!」」


「お前達は救世主殿に付いて行き役目を果たせ!」


「「勅命、拝命致します!」」


「救世主殿、この2人は神殿の占いにより救世主殿の為になる何かを成すと出た者達だ。その2人を連れ魔王の企みを打ち砕いてくれ!」


エリザは金髪縦ロールで高身長美人、格好を見るにたぶん騎士。

クリスは赤毛で身長が少し低い可愛い系、ローブ着て杖持ってるから魔法使いだな。

そして2人共に巨乳である。


おっぱいに貴賤は無い!

が、揺れているのを見るのが俺は好きだ!


戦争なんてこの世界の事情だから放置して、チートの腕輪でサクッと仕事を終わらせるつもりだった。

けどこんな2人をつけてくれるとは、おっちゃん少し張り切って戦争も止めちゃおうかね!

よし、本腰入れて攻略するとなると大事なのは作戦だ。そこを確認しないとね!


「で、作戦はどうするんです?」


「え?」


「だから作戦です。まさか3人だけで行ってこいとか言いませんよね?」


「え?いや、言い伝えには救世主が仲間を連れてと・・・」


え?いや、じゃねぇよ!

確かに俺にはチートの腕輪があるから魔王止めて戦争も止める事が出来ると思うよ。でもそれは腕輪を持ってる俺だから分かる事。

普通に考えたら数人で戦地を越えて敵地に入り、敵の大将の首なんて無事に取ってこれるはずが無い。

使い捨てじゃねえか。


「はい、エリザさんに質問です。こっから魔王が居る所まで移動にどのくらい掛かりますか?」


俺からの突然の質問にエリザさんは動揺しつつも律儀に答えてくれる。


「え?あっと、30日ぐらいでしょうか。」


「はい、次は王様に質問です。こっから魔王の所までの移動手段はどうお考えです?30日分の食料はどうすれば良いんです?寝床は?」


王様はキョロキョロと周りを見るだけで答えてくれない。


「あー、王様もういいです。次はクリスさん、もし俺達が敵地で捕まった場合どうなると思います?」


クリスさんは魔法使いらしく思慮深いのか少し考えて答える。


「・・・拷問されて殺されるのは確実かと思います。」


「はい、そこで教皇!そんな危険な敵地で常に気を張り続けて疲弊し、寝てる時は見張りを立てたとしても安眠出来ず睡眠不足なるのは明らかです。その状況で味方に囲まれているだろう魔王と対峙してマトモに戦えるでしょうか?」


「それがお前の使命だろ!ウダウダ言ってないでさっさと行けっ!この若僧が!」


やだよ。


「おい、教皇とやら。もしも俺が女神様が遣わした救世主だとしたら俺の言葉は女神様の御意思って事になんじゃねえの?それをウダウダと切り捨てるお前は何様だ。不敬だねぇ、神敵の嫌疑までかけたくなるよ。」


まぁ俺は救世主様じゃないですけどねっ。

口をパクパクしてるけど金魚の真似かな?顔赤いし。


「そこのハ・・・じゃなくて貴方は宰相かな?」


玉座の横に立つもう1人のおっさんに、声を掛ける。


「そ、そうだが。」


「じゃぁその宰相さんに質問。これから俺達は敵軍を倒しながら領土を拡大し魔王の居る所まで行きます。それに出兵出来る数と拡大した領土の維持にどれだけの人員と金が出せます?もちろん国力を維持したままで」


「・・・戦争は現在硬直状態にあり、戦闘自体は魔王が占領している地域に隣接した領地貴族に任せておる。国がそれらを支援はしているが、全てを把握し数字を出すのは今すぐには無理だ。」


はい、戦争を今すぐ終わらす気がなかったのは確定。


「王様にまた質問です。この戦争をどう終わらせ、どう決着をつけようとお考えです?」


周りの様子を伺ってた王様は真っ直ぐ俺と目を合わせしっかりと言う。


「魔王を倒し、それに加担した全ての種族を隷属させ嘗ての国の姿を取り戻すのだ。」


はいダメー。

自分達が絶対正しく、歯向かう者は悪だと見下すこいつらに相手の主張は耳にも入らんのだろう。


「それはどうでもいいや。で、それをする準備と作戦はどのぐらいで出来ます?」


「・・・・。」


黙りですか。何もしてないから答えられないのだろう。


「お前らじゃ話にならん。こんな無能な連中じゃなくて、まともに話出来る方いませんかー?」


あとはただただ煽るだけ。


「ふ、ふ、不敬なっ!捕らえよっ!いや、殺してかまわん!」


とは誰の言葉だったろうか?

まぁ予想通り。

チートの腕輪でこの場いる全員に束縛の魔法を使い、ついでに王様の後ろの壁を爆発魔法で消し飛ばす。


「魔王を倒すと言われてる俺をお前らがどうこう出来ると思っているのか?」


続いて脅し。最後に


「女神様の救世主と言われてる俺に従うものはそこの3人を捕らえよ。」


と束縛の魔法を解く。


最初は戸惑っていた周りの人達も「動かない奴は俺の敵か?」と呟くと弾かれたように3人を捕らえる。


「取り敢えずその3人は牢屋に入れとけ!」


まぁ戦争に対する考え方が俺と違うとか、状況的にたまたま今はこうだっただけで本当は良い執政者の可能性もあるからね。取り敢えず隔離。


このまんまじゃ戦争止めらんないからね!



・・・あれ?どうしてこうなった?




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