セカンドライフの始まり
いつもの時間、いつもと同じ布団に入り、いつもと同じ様に益体もない事を考える。
社会一般的には働き盛りと言われる年代の俺だが、社会不適合者で人間失格の自覚がある俺は、それはそれとしながらもやりたかった事、やるべき事は殆んどやれてこれたと思っている。
そんな俺の趣味といえば小説を読んだりアニメを見たり、動画配信サイトでサーフィンしたりえっちなゲームをしたりするぐらいで、空想の世界にしか楽しさを見出だせず、現実社会で求めるモノが見付からない。それが俺だ。
いや、嘘ついた。現実社会でやりたい事はある。宇宙を旅したい。
てな訳で、寝る前に考えるのは大半が空想科学的な宇宙の旅の方法である。
何で空想科学かって?そりゃ現実の科学で行ける所なんてたかが知れてるだろ。俺が求めてるのはそんな狭い世界じゃない、もっともっと広く、ずっとずっと遠く、何だったら次元の壁を越えて神話の世界にすら足を突っ込んで、常識なんてクソ食らえ、俺は果て無き可能性の海へ行くんだ。
そうやって思考をあっちこっちと飛ばし、生きるうえでの色々な不安を塗り潰し、脳が疲れて意識が無くなるまで考え、考えて、考えて、かんが、あっ...
と、今すげー事思い付かなかった?いや、マジで!ほら、アレだよ。あのー、何だ。・・・何だっけ?
喉のここ、ここんとこまで出てんだよっ。
「てか、ここどこ?」
思い付いた事を思い出そうとカッと目を見開いたら知ってるけど知らない天井。ほら白くて四角く区切られてて何の為だか分からない穴が幾つも空いてるアノ天井。
「起きられたようですね。体調はいかがですか?」
と横から声が聞こえそちらを見ると白衣を着た女性が一人。それを見て俺はやっぱりそうかと思う。そう病院だ。
こういう時って、どう反応するのが普通なんだろう?そう思いながら体を起こし手足を動かしてみる。
「特にこれといって何も、普通です。」
体に違和感も異常も感じられず、かといって絶好調でもない普通。ザ・普通。
「そうですか、それは良かった。では聞きたい事かあるのでこちらにお掛けください。」
女医はそう言うと机の椅子に座り横の椅子を示す。俺は改めて周りを見て、ここは病室ではなく診察室なのだと知った。
正直聞きたい事はある。目が覚めたら病院って俺ヤバくね?えっ?死んじゃったりするん?とか聞きたい。けどまずは落ち着いて話を聞こうではないか。女医さん美人だし。取り乱すのは大人としてみっともない。女医さん美人だし。
努めて冷静に椅子に座ると女医さんはパソコンのようなタブレットのようなモノを操作し始める。俺は女医さんがこちらを見ていないのを良いことに女医さんを観察する。
黒髪を後ろでゆったりと纏め、顔は整っているが目は眠たげ、しかし隈は無いからあれが素の目なんたろう。胸はけっこう大きい。白衣で確認しずらいが腰は括れてそう。足は太くもなく細過ぎもしない。
結論、見た目は抱きたくなるいい女だ。
とはいえ、だから何?って感じなんだけどさ。別に女医さんとどうこうなるとは思ってないし、どうこうしようとも思わない。けれど近くに居る女性を観察してエロい目で見てしまうのは男の宿命でり背負う業なのである。しょうがないじゃないか。
そんな事を考えながら女医さんの質問に答えていく。何を質問され何を答えたのかはっきり言って覚えていない。医者に嘘をつく必要なんて無いから質問に対して脊髄反射的に答えた結果である。女医さんを観察するのに夢中になって聞いてなかった訳ではない。俺が違うと言ったら俺的には違うのだ。それが真理。
一通りの質問が終ったらしく女医さんがこちらを向いて口を開いた。
「色々聞きたい事もあると思います。けどまずは私の話を聞いて下さい。良いですか?」
俺のターンはまだ来ないらしい。しょうがないので頷く。すると女医さんはタブレットらしきモノに映像をだしながら説明を始める。
しかし、俺はその話の内容を殆んど覚えていない。いや違うんだ。別に女医さんが俺の目を見ながら話すからドキドキして聞いてなかったとか、タブレットらしきモノを操作する時に胸が揺れて気になって聞いてなかったとか、そういう事じゃないんだ。
それは女医さんの話があまりにも突拍子もなく、認めるには荒唐無稽すぎる内容だったからだ。
俺は今聞いた話の覚えてる部分だけでも理解しようと反芻し咀嚼する。うん、分からん。だから聞く。
「えーと、結論を言うと?」