最終話 最高の仲間と新たな任務
―――コンコンコン
「入っていいぞ」
「失礼します」
病室のドアを開けるとそこにはベッドに座りながら暇そうにしているゼインの姿があった。
そんな姿にラストは順調に回復してるようだと分かり差し入れのフルーツバスケットを渡していく。
そして、ベッドに近くに椅子を置いて座るとゼインの様態について質問した。
「お腹の傷は大丈夫ですか?」
「あぁ、意外と大丈夫なんだな~これが。
まぁ、さすがに腹に風穴開いた時はヤバイと思ったけど」
ゼインは窓から晴れた空を眺めると呟く。
「あの戦いからもう三日か。時間ってのは早いもんだな」
ゼインの言葉の通り怠惰の悪魔グリエラとの戦いから早くも三日が過ぎ、特魔隊は多くの犠牲や負傷者を出しながらも大罪の一人を倒したという歴史的快挙に震えていた。
都市の中では今も祭りのようなものが行われていて病室にも賑わいの声が聞こえてくる。
「どうした? 浮かない顔だな」
「いいえ、別になにかあるわけじゃないんですが......」
「わかるよ、その気持ち。この戦いもただの始まりに過ぎない。これからはもっと酷くなる。
知ってるか? お偉いさん方は歴史的快挙であっても両手を上げて喜べてないみたいなんだぜ?」
「その戦いに決着をつけたのは同じ悪魔を宿した僕ですからね」
ラストの言葉の言う通りこの戦いにおいて初めて大罪の悪魔に勝ったという事実は変わらないものの、その戦力として同じ悪魔を宿した味方がいる事実もまた変わらないものであった。
つまりは悪魔に勝つためには悪魔に味方してもらわないと勝てないという事実の証明にもなってしまったわけだ。
それがこの戦いの結果によってもたらされたもう一つの真実で、特魔隊本部としては中々に大喜びしずらいものであった。
そして、またこの戦いにおいてもう一つ大きな事実が証明してしまった。
「隊長、僕はマーリアさんから研究施設から最重要観察対象になったと聞かされました」
それはゼインに勝った怠惰の悪魔に勝った憤怒の悪魔という存在だ。
つまりは今は味方であるけど、もし暴走してしまった際に止められる者が特魔隊にはいなくなってしまった。
それが今一番に特魔隊本部で頭を悩ませてることであったのだ。
そして、ラストはそうなることを薄々勘づいていながら、いざマーリアに聞かされて隊長であるゼインの方にも報告しに来たという訳だ。
仕方ないとはいえ、これから悪魔が体を離れるまで常に監視されてることが義務づけられてしまったわけだ。
ラストの浮かない顔もそういう訳で、年頃の少年でもあるラストにとっては苦しくないはずがない。
そんなラストにゼインはポンと肩を置くとさらっと告げる。
「あぁ、それを聞いてから猛抗議してきたから大丈夫」
「......ん? その体でですか?」
「まあね。ちょっと張り切り過ぎて傷開きかけたけど良いリハビリになったよ」
「いやいや、体の方も心配しましたけど、僕なんかを庇っても大丈夫だったんですか?」
「大丈夫、ダイジョーブ。ちゃんと説得してきたから。
なんたってもし暴走が起こった時に止められる可能性が一番高いのは俺だってことは変わらないしね。
それに君は俺の大事な部下だ」
ゼインはいい顔でサムズアップする。
その顔にラストは毒気が抜かれたのはため息をついて諦めた。
「まぁ、観察ということに関しては俺も思うことがあったし外せなかったけど、その代り観察する人の人選権は貰ってきたから」
その時、ガラガラと病室のドアが開き、そこからリナ、グラート、フェイル、ルクセリア、エギルの五人が現れた。
「ラスト、私に任せて」
「ははは、また出かけようぜ」
「僕なんかで務まるかわからないですけど、ラスト君のために精一杯頑張ります!」
「仕方ねぇから妹と一緒に面倒見てやるよ」
「あたしの修行相手としてこれ以上の人物はいないわね。さ、あたしのために修行に付き合いなさい」
「皆......」
「基本的に一人での行動は厳しいけど、この五人なら少なくとも気心知れた仲だし、君でも十分に休めるでしょ?」
「そうですね......」
ラストは思わず笑みを浮かべて立ち上がると頭を下げていく。
「これからお世話になります」
「「「「「任せろ!」」」」」
五人はさも当然のように返答した。その言葉にラストは感動して笑顔で告げる。
「ありがとう!」
これはまだ戦いの序章に過ぎない。これからもっと戦いはより大きく激しくなっていくだろう。
しかし、この六人で紡がれた絆であればどんな困難でも立ち向かっていけるだろう。
「それで感動の場面で悪いが早速お前達の出番だ。
どうやら怠惰の悪魔の戦い以降上層部はお前達を高く評価してくれてる。
奴らは相手にするとめんどくさいが恩を売っておくことに越したことはない。
ってことで、すぐに行けるか?」
「「「「「「はい!」」」」」」




