表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/83

第82話 怠惰v.s.憤怒#4

 グリエラは自らの目を疑った。

 確かに悪魔が人間の体を乗っ取れば、魂の情報を優先して肉体の変化が起こる。

 それは僅かな変化でしかない。

 耳が尖ったり、角が生えたりとその程度だ―――本来は。


「なんで......なんでなんでなんで!? それはリュウ君の姿だ!」


 だが、ラストの変化は角が生えたり、髪が伸びたりという変化に関わらず、生前のリュウが来ていた武士のような甲冑すらも再現してしまったのだ。


 それは肉体の変化というより魂の情報に沿って肉体が作り替えられた、もしくは復元されたという言い方の方が正しい。

 つまりはありえないことが目の前であり得てしまっているのだ。


 全体的に赤い甲冑を着て鋭い瞳をラストはグリエラに向ける。

 その目にグリエラは怯むように一歩後ろへと下がった。

 これが今のラストに出来る切り札―――


「炎幻心変......リュウさんに精神にて鍛えて貰ったことにより作り出すことが出来た、リュウさんその百パーセントの力を出す力だ」


「しょ、所詮はガワを真似ただけだ!

 中身が人間であるお前にリュウ君の力は使いこなせるはずがない!」


「この力で僕はあなたを救う」


「ふざけるな!」


 グリエラは叫ぶと同時に一気に魔力を放出した。

 そして、動かないリュウの目の前まで接近すると思いっきり振り上げた足を一気に振り下ろしていく。


―――ギロッ


「っ!」


 ラストの目線がグリエラに向いた瞬間、グリエラは一瞬怯んでしまった。

 直後、ラストが剣を振り上げ、それをグリエラは無理やり空中で体を捻って回避していく。


 グリエラは距離を取ることに成功したが、胸に僅かな痛みを感じて手で触れてみる。

 すると、手には血がついていた。見てみると斬られている。

 まさかと思いラストの剣を見てみると剣には炎が纏っていた。


「当たり前のように焔刃を使うのか。本当に......本当に忌々しい!」


 グリエラはラストに手を向ける。

 その直後、ラストの周囲には幻影土偶が三体現れ、巨大な拳を圧し潰していく。


「あなたの気持ちはきっと僕には理解しきれないものだろう」


 だが、ラストは自身の体の周りに火柱を作り出すと一気に幻影土偶を焼き払った。


「でも、理解できないことではないと思ってる!」


「うるさい!」


 グリエラはラストに一気に殴りかかり、ラストはそれを剣で受け止める。

 すると、ラストの両脇の地面から爪のような刃が左右から襲い掛かって来た。


 ラストはグリエラを弾いて距離を作ると体を一回転させて剣で薙ぎ払う。

 そしてすぐさま、襲い掛かって来たグリエラに左腕を伸ばし、触れて魔法を発動させる。


「気炎発破」


「がっ」


 ラストの左手は突如として爆発を起こし、ゼロ距離のグリエラはそのまま勢いよく吹き飛ばされていく。


「幻沼斬撃」


「っ!」


 しかし、すぐさまラストの背後にある地面の影から現れ、斬りかかった。

 ラストはそれを僅かに掠りながらもグリエラの攻撃を捌いていく。


「何が理解できるだ! 十数年しか生きていないお前に何がわかる?

 お前に理解できることなんて何もない!」


「そんなことはない! 少なくとも僕はずっとリュウさんの中にいた。

 そして、精神の繋がりを持つ中で常にリュウさんが苦しみの中を生きていることを知っていた!」


 グリエラとラストはついに真っ向勝負と言わんばかりに剣と拳を激しく交らわせていく。


「そんなリュウさんがずっと一人で抱えてきた苦しみを僕は知ったんだ!

 リュウさんが抱えてきた苦しみを全て救えるとは思わない!

 それでもリュウさんが託してくれた思いを無駄にしたくない!」


「それの何が僕を理解できるって!?」


「だから、僕は君が知りたいんだ!」


「はぁ!?」


 剣と拳がぶつかり一瞬の硬直。

 それほどまでにグリエラにとって今のラスト言葉は突拍子もなかったということだ。


「何を言ってる!?」


「そのままの意味だ! 僕はリュウさんの気持ちを一緒に背負っていくと決めた。

 ならば、リュウさんの大切な仲間であるあなたを知らずにいるのはもったいない!」


「お前はこれから僕を殺す存在だろうが!

  これから殺す相手のことを聞いてどうするってんだ?」


 剣と拳が弾かれ互いに距離を取っていく。

 そして、グリエラの問いに対してラストは真っ直ぐ見つめて答えた。


「僕も一緒に罪を背負う」


「......っ!」


 その言葉にグリエラは思わず開いた口が塞がらなかった。

 それと同時にラストを底抜けのバカだと思ってしまい思わず毒気が抜かれていく。


 それもそのはず例えラストがリュウと運命共同体であったとしても、別にリュウと一緒に何かを成す必要はないのだ。


 もとよりリュウは仲間を早く成仏させてやりたくて、特魔隊であるラストは悪魔を倒したくてその利害関係で協力することは出来たはずだ。

 なにもそこまでしてラストがリュウに寄り添う必要はない。


 しかし、ここでグリエラの研究者としての一つの仮説が思い浮かび上がってしまった。

 それはラストがこういう性格、こういう想いを抱くからこそリュウの力をここまで引き出せるようになったのではないかと。


 悪魔にとって器を選ぶ基準は自身の魔力との同調率が良いか悪いかである。

 同調率が高いほど自分の本来の力を引き出せる。


 そして、魔力とは遺伝子と同じ情報の塊のようなもので、同調するということは簡単に言いかえれば“性格が似ている”のである。


 つまりはラストがリュウの力を、リュウの姿を具現するまでに似ているということに他ならない。


 加えて、それは―――ずっとずっと昔にグリエラが見たリュウという人物であった。


 グリエラ自身が知ってるリュウとは似ても似つかない声色やしゃべり方、考え方ではあるが、結局のところ根っこの部分は全く同じであるということに他ならない。


「そっか......リュウ君はもうずっと前から僕達のことを......」


 グリエラは呟くと口角をニヤッと上げてラストに告げた。


「研究者というのはまどろっこしいのが嫌いで楽をしたい生き物でね。

 というわけで、今から僕は全身全霊の一撃を放つ。

 避ければ当然......だけど、今更そんなこと言う必要もないか」


 グリエラは幻影土偶を出現させ、さらに巨大な槍を持たせていく。

 それに対し、ラストは上段に剣を構えた。


「悪いね。僕は自分のことを話すのが好きじゃないんだ。

 僕のことはリュウ君にでも聞いてくれ」


「僕はあなたのことを忘れません」


「ふっ、好きにしろ。めんどくさい」


 ゴゴゴゴゴと互いの魔力が収束し、周囲に強風が吹き荒れる。

 濃密な魔力は息苦しくし、これで終わりと示すように周囲に余計な邪魔が入らないように魔力が遮断していく。


「行くぞ―――永久を望む幻影ファントムデスパレード


「鬼炎上段構え―――焼烈空断」


 幻影土偶から繰り出された槍と炎の剣から放たれた巨大な斬撃がぶつかり周囲に衝撃と爆風をまき散らしていく。


「うらあああああああ!」


「うおおおおおおおお!」


 互いの気概はぶつかり、拮抗し―――僅かにラストの攻撃が勝った。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 グリエラの槍が憤怒の「消炎」の効果で焼きつくされ、斬撃がグリエラに迫っていく。

 そして、その斬撃に直撃したグリエラは激しい炎に―――包まれなかった。


 直後、ラストがグリエラに手を伸ばし火を消したのだ。

 そして、黙ったままラストがグリエラに近づくとそっと抱きかかえる。


「......う、あ、リュウ......君?」


「あぁ、俺だ。別れの挨拶ぐらいは済ませておこうと思ってな」


 返答したのはラストと人格を後退してもらったリュウであった。

 先ほどの灯を消したのも実のところリュウによるもので、理由は先言ったとおりだ。


「グリエラ、お前には申し訳ないと思ってる。

 だが、もう俺達がこの世界に縛られる必要はない。

 だから、せめてその責任ぐらいは大将である俺が努めよう」


「ははっ、無理しちゃって。ま、いいさ。僕は笑って許すよ。

 めんどくさいと思ったこの関係も気が付けば僕の一番の宝物さ」


「そうか。そう言ってもらえると俺の旅も無駄ではなかったようだな」


「それじゃ、僕は寝るよ。寝る子は育つらしいからね......」


 グリエラの体の端々がゆっくりと霧散し始め、やがて全ての体が消えていった。

 すると、暗黒世界のような渦巻く曇天から光が刺し、戦いの終わりを告げる。


 リュウは立ち上がりそっとその隙間に見える空を眩しそうに眺めた。


『この光は新たな希望の兆しかもね』


「ははっ、そうかもな。そうであるといいな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ