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第79話 怠惰v.s.憤怒#1

 空中に飛び散る血しぶき。

 それは瞬く間に周囲に赤い雨を降らせ、それに濡れた顔でその場にいたリナ達は目を見開いていた。


 グリエラの策に嵌り、身動きが取れなくなった現状に待ち受けているのは死だけ―――のはずだった。


 しかし、今この場でダメージを受けていたのは優位に立っていたグリエラの方で、黒い影が一瞬にして通ったかと思うとグリエラの槍を持っていた腕が吹き飛んでいったのだ。


 これまでの戦いの中では正真正銘にダメージを与えた瞬間だ。

 しかし、相手は悪魔で、それも悪名高い滞在の悪魔の一人である。

 そんな相手に攻撃出来るとすれば、もはやたった一人しかいないだろう。


 グリエラの魔力が解け、自由に動けるようになるとリナ達は振り返った。

 そこにいる炎を纏った剣を握る少年の姿を。


「ラスト......」


「ごめん、遅れた」


 リナの呟く声にラストは少し申し訳なさそうに答えた。

 するとその時、斬られた腕を抑えながらグリエラはどこか嬉しそうな顔をしてラストに声をかけていく。


「この魔力、この力強さ、この焼けつく痛み......やっと戻って来たかリュウ君」


「いや、違うよ。僕はラストだ。リュウさんの魔力を使って君を倒す特魔隊の一人」


 その言葉にグリエラは眉をひそめていく。


「なぜ君はわざわざ人格の主導権を渡してるんだ? 僕達は仲間だろ? なぜ人格を奪わない?」


「リュウさんが『間違ってるのはお前達の方だ』とさ。つまりリュウさんも特魔隊の一人だ」


「......はぁ?」


 ラストの言葉にグリエラの額にピキッと青筋が走った。彼がまともに感情を露わにした瞬間である。


「違う。リュウ君がそんなこと言うはずがない! 言うわけがない!

 さっきのはただの戯れなんだ! 僕を本気で攻撃するはずがない!」


 その瞬間、収縮させた瞳孔でラストを見た。


「お前、リュウ君に何をした?」


 直後、グリエラから膨大の魔力が溢れ出し、近くのゼインやリナ達や周囲の瓦礫、はたまたまだ形が残ってる古びた建物さえも吹き飛ばして、一体に更地を作り出した。


 そこはまるで決戦フィールドのよううで、その魔力によって吹き飛ばされなかったのはラストただ一人。


「そうか、そう考えれば合理性がつく。

 リュウ君は表に出なかったんじゃない。“出られなかった”んだ。

 だから、お前を死にかけにすればリュウ君が人格の主導権を握られるはずだ」


 グリエラは斬り飛ばされた右腕を再生させると両手をラストに向けていく。


「遅滞の槍」


 グリエラの頭上に無数に展開された槍は一斉にラストに向かって放たれていった。


「ラスト、その攻撃に触れてはダメ! 動けなくなってしまう!」


 外野にいたリナはその槍の性質をラストに伝えていく。

 その言葉が伝わったようにラストはサムズアップすると真っ直ぐ走り出した。


 機関銃のように容赦なく避けようもないほどに放たれる槍に対して、ラストは両手剣を片手で振り回しながらグリエラの周囲を旋回していった。


「鬼炎斬」


 そして、地面を擦るようにして剣を振り上げると地面を抉りながら炎の斬撃がグリエラに飛んでいく。

 それは槍をものともしないほどの威力で、瞬きすれば目前に迫っているかのような速度で。


 グリエラは槍を手に持つとその斬撃を横薙ぎ払っていく。

 そして、正面に向くとラストの姿はない。

 頭上から感じる魔力に従って上を向くとそこにラストの姿があった。


「チッ」


 ラストが地面に炎を纏った剣を振り下ろすとそこに火柱が上がった。

 しかし、攻撃はグリエラに当たることなく、後退する形で避けられた。


「怠惰の楔」


 グリエラは槍をラストに向かって投げると素早く両手を地面につけた。

 すると、それぞれの手の直線状にドロッとした緑黒い液体がラストに向かって伸びていく。


 ラストが槍を弾くとその伸びた液体から次々と槍や剣、ハルバードなどの武器が刺突するように飛び出してきた。


 ラストは咄嗟にその攻撃を避けていくと彼の背後に地面から伸びるようにして液体の壁が出現した。

 そして、そこから現れたグリエラが槍を突き出す。


「ぐっ!」


 ラストは咄嗟に剣で防ぐが踏ん張りの効かない空中、重い一撃とが重なり、そのまま地面に叩きつけられた。


 しかし、すぐに戦闘に戻れるように体勢を立て直すと様子を見て追撃しなかったグリエラが再び口を開いた。


「わからない。僕にはお前の動きがどうにもかつてのリュウ君の動きを彷彿とさせる。

 お前がリュウ君の魔力を纏い、その魔法を使ってもなお余りあるその存在感!

 もし、仮に本当にリュウ君だとしたらなぜ彼は僕を殺そうとする!?」


「それは俺達がもうこの世界には不要な存在だからだ」


「!?」


 いつものラストらしくないやや低い堂々とした声色。

 そして、グリエラに向ける目は数々の修羅場をくぐり抜けてきたようであった。


 その僅かな返答にグリエラはすぐに彼がリュウだと理解した。

 しかし、同時に戸惑いも隠せない様子であった。


 なぜなら、先ほどの動きがもし本人が実際に体が動かしていれば、リュウは意図的にグリエラを殺しに来てるということである。


「待て、待ってくれ......何が? 何がどうなってる? どうしてリュウ君が僕を殺しに?」


「その答えは先ほど言ったはずだ。

 だが、お前達にはよく言葉が足りないと言われてるからなもう少し話そう。

 この世界は呪われたんだ。俺達の手によって。

 だから、俺はその呪いを解く必要がある。

 お前達のリーダーとして」


「呪い? 何を言ってるんだ? この世界は最初からこうだった―――」


「記憶の欠落。悪魔という都合の良いの改ざん。

 それらはただのまやかしだ。そして、俺達は当の昔に朽ちている。

 故に、今の行いは死者における生者の虐殺。

 それは俺達が最も避けていたことだ」


「何を言って.......っ!?」


 リュウからの言葉の数々にグリエラは何かを言おうとしたが、その瞬間にしてまるで無理やり頭の中をこじ開けられるかのような激しい頭痛に襲われた。


 その一方で、リュウとラストの方でも会話が行われていた。


『あのグリエラさんの様子って......』


「あぁ、俺が夢の中で言った呪いによって欠落した記憶の蓋が開きかけたんだ。

 記憶というのは実際思い出せないだけであって、忘れることは何一つないらしいからな。

 しかし、このまますんなりと行くはずがない」


『あの時言っていた。呪いの上書き、ですか?』


「あぁ、そうだ。時期に思い出そうとする意識が、それを上回る呪いの力で無理やり蓋をされる。

 そうなると、俺の言葉ではもう届かない。

 加えて、制約で俺が表に出られてる時間はそう長くない」


『つまりは僕が実力でグリエラさんに勝たなきゃいけないわけか......』


「そういうことだ。だが、もうお前は俺の本来の力を十分に出せる。

 それこそ手足のように使いこなせるだろうな」


『......』


「不安か? 安心しろ、この身に宿った以上お前が一人で戦ってきた戦いなどただの一度もない。

 お前の力の源として俺がいたからな。

 だから、お前は普段通りいけ。

 やることは変わらず二人で勝つことだけだ」


『わかった。必ずグリエラさんを助ける』


 そして、ラストはリュウと変わる形で人格の主導権を握り、真っ直ぐ正面にいるグリエラを見つめた。


 そのグリエラは苦しそうに両手で頭を抱えるとやがてだらりと脱力したような状態になった。


「あ~、めんどくさい。何もかも。

 ほんと考えるのとか動くのとかなんでそんなことやんなきゃいけないんだろうな」


 先ほどとは明らかに雰囲気が変わり、やたら刺々しく殺気と悪意をバラまくようであった。

 また、空間自体が覆われていくように空に雲が広がり、暗く淀んでいく。


「でも、それ以上に今は僕の平穏を壊す奴がいるのが一番めんどくさい。だから、とっとと殺す!」


「グリエラさん、僕は君を助けるよ!」

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