第78話 窮地の光
『着替えたか?』
「はい。とりあえず、支給された服は着ましたけど......」
『なら、今からフェイルがお前の武器に位置情報を送る』
そして、ラストの剣に柄に埋め込まれた宝石から半透明のウィンドウが表示され、そこにはとある場所をマークしたような地図が出た。
しかし、当然ラストにはその場所は全く見覚えのない場所だ。
「ここに何がいるんですか?」
『ゼイン隊長の部隊だ。他にもお前の仲間がそこにはいる。そして―――怠惰の悪魔がいる』
「怠惰の悪魔が......!」
その時、ラストはふと脳裏に過去の記憶が過った。
それはエギルと見た全く知らない少年の姿。
しかし、それがラストにはリュウの記憶を通じて怠惰の悪魔であると理解している。
故に、すぐに起きている状況を理解した。
『ここで戦ってるんですね。あぁ、非常に苦戦している様子みたい。
あなたにはそこに向かってもらいたいの。
車はすでに手配してるから隊長には到着までの一時間を稼いで欲しいけど』
「さすがに厳しいと思いますよ。それに今の僕ならおそらく十分ほどで着くと思います」
『それはどういう意味?』
ラストはスタスタと窓際に近づくとそこに足をかけていく。そして、最後に連絡を送った。
「とにかく十分稼ぐように言ってください。そうすれば、確実に辿り着けます」
『......わかったわ。伝えておく』
そして、ラストは窓際から飛び出していくと背中から大きな翼を取り出して、そのまま目的の方角まで羽ばたいていった。
****
一方、グリエラによって機械兵士の自爆攻撃を受けたゼイン達はかなりの損害を受けていた。
爆発に近かった隊員達は死傷者がほとんどで、中心部でもギリギリ動けるかどうか程度の数しか隊員が残っていない。
当然、咄嗟に魔法で防御をしたが、それすらも上回る爆発の勢いで発動させた魔法がかえって被弾させる要因になったのも大きいようだ。
まだまともに動けるのはゼインに近かったリナ達であろうか。
そんなゼイン達の様子を見て、グリエラはため息を吐いた。
「練度が低いと思うな。攻撃に対するあらゆる想定が足りない。
発想が足りない。危機意識が足りない。
そんな状態で僕に戦いに挑んだのは正直かなり調子に乗った行動と言えるよ。
なにより、こっちを舐めてるようで少し腹が立つ」
グリエラは空中に緑黒いようなオーラを纏った槍をいくつも作り出す。
「遅滞の槍」
「全員、その槍に絶対に触れるな!」
グリエラが放った槍に対して反転魔法で情報を呼んだゼインはすぐさま注意喚起を呼びかける。
その言葉にリナ達は即座に反応して武器で迎撃していった。
「がっ、う、動かない!」「腕が......!」「足が空中に固定されたみたいだ!」
避け切れず被弾した隊員達は接触した体の部位が空間に固定されるように動かなくなってしまった。
動かなくなった左腕を右腕で掴んで引っ張るもビクともしない隊員すらいる。
「避けてるだけじゃどうにもならないと思うけど?」
「あぁ、わかってるさ。君達、力を借りるぞ!」
ゼインは槍の攻撃を避ける際にリナ達が放った魔法を使って反転魔法でグリエラへと攻撃を向けた。
グリエラに最初に向かってきたのは風の弾丸。
しかし、それはグリエラが空中の槍を一つ掴むとそれを振るって弾いた。
「っ!」
その瞬間、グリエラの足元が突然隆起して高く持ち上げられる。
すると、その周囲に氷のつぶてが無数と存在して、まるで引き寄せられるようにグリエラに集まっていく。
「漂う繭」
だが、グリエラが放った停滞魔力に触れた瞬間、それらのつぶては全て届く前に静止してしまった。
「ふっ、使ったな!」
その瞬間、ゼインはグリエラの繭と氷のつぶての位置を入れ替えた。
つまりは内側に繭で外側に氷のつぶての状態から外側に繭で内側に氷のつぶてという状態にしたのだ。
「ぐっ!」
「油断もほどほどにしとけよ!」
そして、初めてまともにグリエラに攻撃があたり、無数のつぶてがグリエラを覆っていった。
しかし、それで倒せるほど甘い相手ではない。
氷を払ってグリエラはやや起こった様子で現れた。
そこにゼインは右手の人差し指を頭上高くに上げる。
「痺れろ」
グリエラの頭上から雷が降り注ぐ。
だが、グリエラは咄嗟に槍を突き出して攻撃を逸らした。
「鋼鉄の巨腕」
そこへグラートが地面から生やした鋼鉄の拳でグリエラを殴っていく。
グリエラは先ほどのゼインの行動を警戒して、それを片手で受けると勢いのままに吹き飛ばされた。
「可変式魔力銃<狙撃モード>―――風雲の撃墜」
そこに二丁拳銃をスナイパーライフルのように変形させたルクセリアがグリエラを狙撃した。
それは彼の右肩に直撃し、圧倒的な破壊力で右腕を吹き飛ばした。
「雷双電壊」
そのグリエラの背後からは雷で身体能力を飛躍させたエギルが双剣を揃えるようにして大きく右側に振りかぶって振り下ろした。
「ぐっ!」
グリエラはそれを足で受ける。
間一髪といった感じの彼は踏ん張りの効かない空中で勢いよく跳ばされていく。
「氷剣山」
グリエラの反対側ではリナが待機していて、地面には無数の尖った剣が生えていた。
そして、それはリナが動くと同時に一気に伸びていき、グリエラを空中で串刺しにしていく。
その様子にグラートが思わず呟いた。
「結構食らわせた......よな?」
「とはいえ、歯ごたえが良すぎるのはあちらの油断のおかしら?」
ルクセリアもグラートの同じような疑問を抱いているのか思わず首を傾げる。
「これで終わりのはずがねぇ。間近に行った時に特有の覇気を感じなかった」
「でも、私達はずっと同じ相手を攻撃してたわ。入れ替える隙は無いと思うけど」
「―――そうでもないさ」
「「「「!?」」」」
背後から聞こえてきたのはグリエラの声。
それと同時にドサッと何かが倒れるような音がして四人が振り返るとそこには右手を赤く染めたグリエラと背後から刺されて倒れるゼインの姿があった。
「これで君達の最大主力は動けない。僕の魔力を内側から流し込んだからね。
にしても、愚かだと思ったけど、やっぱり間違えようのない愚かさだったね」
グリエラは右手の血を払っていくと言葉を続けていく。
「君達と僕とでは圧倒的に力の差がある。
だから、普通に攻撃することは当然不可能。
しかし、もしそこに不可能なことを可能にする要因があったら?
君達はそこに勝機を見出して当然攻め立ててくる。
ま、その気持ちはわからなくもない。
だけど、勝てないと思った相手に勝てると思った瞬間、君達もまた油断してるんだよ」
その時、リナ達は自分達の体が動けないことを知った。
もう既にグリエラの停滞魔力に飲まれていたのだ。
「自分の攻撃が通用しない相手に、自分が思う以上に攻撃が通じてる。
それはさぞかし自信を持つことだろう。
だけど、それは同時に勝利へ掴むこと以外盲目になることだってある。まさに今の君達の状態だ。
先ほどわざわざボクが機械を別の場所から移動させたという自分の手の内をさらすような真似をしてもなお、そのことを忘れて盲目的に攻撃を仕掛けているように」
「それじゃあ、あなたは一体いつ入れ替わったって言うのよ?」
リナの言葉にグリエラはそっと右手に槍を作り出す。
「地面から腕を作り出したそちらの少年の攻撃の際、君達は吹き飛ばされたと思っているけど、あの時にはもう本体はそこにいないんだよ。いるのは僕の影だけ」
リナ達の背後からドロッとした影が立体的に浮かび上がり、それらは全てグリエラへと変化した。
それらの手には同じように槍が持たれている。
「さて、ついつい長話をしてしまった。僕の研究者としての悪い癖だね」
「ハッ」
その時にゼインが思わず笑った。そのことにグリエラが怪訝な顔をする。
「ついに恐怖でおかしくなったかい? 恐怖は一定値を振り切ると逆に笑ってしまうみたいだが」
「ちげぇよ。別に絶望して笑ったわけじゃねぇ。お前の長話のおかげでギリ間に合ったってだけだよ」
「なんのことかサッパリだけど気には留めておくよ。それじゃあね」
オリジナルのグリエラが槍をゼインに構えると影のグリエラはリナ達に槍先を向けた。
そして、そのまま突き刺していく。
その瞬間―――グリエラの腕が吹き飛んだ。




