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第75話 研究者#1

 緑の髪をし、眠そうな目をしたおおよそ少年のような身長でありながら大罪の悪魔の一人であるグリエラは敵視を向けてくるゼインに対して言葉を投げかけた。


「はぁ、やっぱり強いよ、君は。すごくめんどくさいくらいに。

 もう少し時間が稼げるかなとも思ったけど、悪魔がまるでおもちゃのように殺された。

 アンリ、君なら何秒持ちそう? 一分ぐらい?」


「御戯れを。全力で十数秒といった所でしょう。やはりあの魔法が厄介ですから」


 グリエラは玉座を挟んで佇む女の悪魔アンリの言葉に「ふ~ん」と曖昧な返事をするとサッと答えた。


「それじゃあ、僕のデータ収集のためにその体使っていい?」


「怠惰の悪魔様の御心のままに」


 グリエラは「よっこらせ」と立ち上がると玉座の後ろにあるガラクタの山に向かって歩き出し、そこから何かを探し始めた。


 敵を前にしながらあまりにも無謀な姿にゼインの隊員達は怒りを露わにする。

 完全に舐められてる、と。


「あんまり人間(おれたち)を舐めんじゃねぇぞ!」


「待て! お前ら―――」


 一部の隊員達がある種の絶好のチャンスを逃さないようにグリエラに向かって魔力弾を一斉に発射した。


「アンリ」


「はい」


 グリエラは振り返ることもなくアンリの名前を呼ぶと彼女はすかさずグリエラの盾となるように両手を広げて―――そのまま魔力弾に直撃した。


 魔剣銃は使用者の魔力量によって弾の威力が上がる。

 よって、グリエラを殺す気で撃ったその魔力弾は殺意の塊であり、当たればひとたまりもない。


「がはっ」


「!?」


 しかし、それによって血を流し倒れていくのは全てゼインの隊員達であった。

 何名かは即死し、残りは戦うことは難しいほどの重傷を負った。

 時間経過で死んでしまう可能性すらあるだろう。


 そのことにゼインは思わず目を見開く。

 そして、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら振り返るとグリエラはまるで科学者のようにタブレットを持ってその場に座っていた。


「さて、これでアンリの魔力特性は知れただろう。

 彼女の魔力特性は「同調するもの」。

 つまりは彼女に向けられた魔力攻撃と同程度の威力を同じ直撃個所に相手へ返していく。

 この場合、稀有な魔法を使う君は一体どうやって戦うのだろうか。

 実験―――開始だ」


 グリエラがそう言うとアンリはゼインに向かって突撃していった。


「お前ら、負傷者を連れてこの場を離れろ!」


 ゼインは咄嗟に仲間に指示を出すと向かってきたアンリに対し、魔剣銃の剣モードで対処する。

 アンリは両手を手刀のようにして切り裂くような突きを放っていく。


 それをゼインは剣で対処していくが、悪魔と人間では膂力の差には大きな隔たりがある。

 故に、防御するだけでもゼインはどんどんと後ろに後退させらていった。


 そんな光景を見ながらグリエラは分析するように独り言を呟いていく。


「ふむ、即座に魔法を使わなかった辺り何か条件があるようだな。

 ま、奪ったとしても同じダメージを食らわせる()()

 加えて、肉体の回復が即座に出来る悪魔に比べればむしろ不利とも言えるか。

 ならば、接近戦でと。しかし、魔法を使わずに討ち取れるほど悪魔は容易くないぞ?」


 一方のゼインは苦戦を強いられながらも、グリエラの方へとチラッと視線を向ける余裕が僅かにあった。

 そんなゼインに対し、アンリは話しかける。


「あら、私との戦闘中でも怠惰の悪魔様の警戒も怠らないとは殊勝な行動ですね。

 でも、そこは安心していいですよ。

 怠惰の悪魔様は自身の実験には一切の介入をしませんから」


「そうかよっ!」


 ゼインは足元の小さな瓦礫を蹴飛ばすとそれはアンリの後ろへ転がっていく。

 その直後、それと位置を入れ替えたゼインはそのままアンリの背後を取り、背後へ腕を振るってくる彼女の攻撃を読むようにしゃがんで足元を切った。


 そして、すぐさま追撃はせずに距離は取っていく。


「追撃してこないのですね。ですが、それでは勝てないと思いますよ」


「別にいいよ。それに今ので勝利は見えたしね―――反転・逆流」


「何を言って―――っ!?」


 その瞬間、アンリの体は突然風船のように膨れ上がっていく。

 それはやがてはち切れんばかりとなった。

 アンリは自分の死期を悟ったのかグリエラへと声をかけていく。


「怠惰の悪魔様......私はお役に立てましたか?」


「あぁ、なったよ。安心して逝ってらっしゃい」


「ならば、本望です」


 アンリの体は一気に弾け飛んだ。

 その光景をグリエラはただ眺めているとやがて手に持つタブレットに情報を書き込んでいった。


「さて、残すはお前だけになったな」


「めんどくさいけど、そうだね。それで答え合わせしていい?」


「あいにく、そんなものに時間を割くわけにはいかないもんでね―――っ!?」


 ゼインは走り出そうとしたが、その足はまるで床にくっついたように離れなかった。

 加えて、全身に重りをつけているかのように体が重い。


「ふむ、やっぱりか。まぁまぁ聞きなよ、めんどくさいと思うけど」


 グリエラは「よっこらせ」と呟きながら玉座に座るとゼインの魔法について自身の分析を発表していった。


「まず分かってることとすれば君の魔法は非常に厄介だということ。

 こちらの魔法攻撃が威力そのままに自分を襲ってくるとなると高い回復力を持ってる僕達でも恐ろしい。

 なんせ相手を確実に殺すために放ってるんだから」


「そりゃどうも」


 この時、ゼインもまたこの魔法を分析していた。

 体は酷く重たいが、口は大して変わらない、と。


「ただ、やはりというべきかそれなりに使うには条件が必要らしい。

 まず君に向けられる攻撃は全て魔法攻撃でなければならない。

 それはアンリの手刀を剣で受け止めたことからわかった。

 先ほど瓦礫と位置を入れ替わって見せたが、あれは単に瓦礫に自身の魔力を纏わせただけだ」


「......」


「攻撃魔法の場合、魔法自体に相手の情報が含まれてる。

 それを魔法で干渉して指向性を逆転してるだけ。

 君の場合はその魔法をかなり鍛えてあるらしい。

 相手が作り出した魔法陣から漏れる魔素すらも利用できるほどに。

 極めつけはアンリを倒した時だ。

 君がアンリの足元を攻撃する直前、君は僅かに剣先で自身の指を切って血という魔力を付着させ、それをアンリの体内へ侵入させた。

 そして、アンリの体内魔力に干渉し、魔力の流れを逆転させて塞き止め、爆発させた。

 すごいね、よく考えられてると思うよ」


「っ!」


 ゼインは思わず口元を歪めていく。

 自分の魔法がたったあれだけで瞬く間に看破されてるからだ。

 そして同時に、小さかった恐怖心が僅かに増長した。

 やはり目の前の相手は化け物である、と。


「ただ色々と作って来た者としてはやはりデメリットにも目を向けなければならない。

 特に君との戦闘においてはね。

 まず君が干渉できるのは自分に向かってきた攻撃のみ。

 もっと言えば意思のある魔法攻撃のみ」


 グリエラはタブレットをいながら頬づえをついて続けて話していく。


「先も言ったが、君の魔法の本質は魔力に含まれる情報に干渉すること。

 それは意志も同様で、自分に向けられた意志を指向性の書き換えとともに“自分”から“相手”へと書き換えることで初めて反転魔法は成立する。

 だから、アンリのような受け身の魔法(カウンター)には干渉できない。

 指向性もなければ、その時の“自分”と“相手”は同じ意味だしね。

 それに意志のない魔法もまた同様だ。

 相手を明確に指定していないただばら撒いただけの魔法は厄介だろう。

 今の僕の魔法のように」


「やはりというべきか、当然お前の魔法だと思ってたよ。

 魔力特性は『停滞するもの』ってところか?」


「正解だ。なんせ怠惰の悪魔だしね。

 それで君はこの状況をどうやって切り抜ける?

 僕はその答えに非常に興味がある」

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