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第74話 怠惰の悪魔

「リナ!」


 電波塔の制御室の大規模な爆発。

 爆風に襲われながらもその光景をハッキリと見上げていたグラートは思わず仲間の安否を確かめるように叫んだ。


 しかし、返事はなく煙と瓦礫が降り注ぎ、電波塔自体も壊れ始めてるのかグラート自身の命も危ない。


「だからって見捨てられるかよ!」


 グラートは足場を作ると自分を覆うような天井を作り、そのまま足場を伸ばしていくことで煙と瓦礫を突っ切っていく。

 瓦礫を抜けると天井を開け、リナに声をかけた。


「リナ! 聞こえるか! 聞こえてるなら返事をしろ!」


『グラート、あんたは大丈夫そうね。リナの方は?』


 ルクセリアからの突然の通信。それにグラートは焦ったように答えた。


「返事がない。大丈夫だと思いたいがなにしろ爆心地だ。生きてることを確かめなきゃ安心できねぇ」


『なら、あんたはその場から離れて。あたしが風で煙を吹き飛ばしてあげるから』


「わかった」


 グラートはその場から跳躍して地面に降りていくとそれを確認したルクセリアが銃から風の弾丸を放って煙を蹴散らしていく。


 すると、見えてきたのは氷の繭であった。

 一部溶けたような箇所が見られ、その度に氷で冷やし固めたような不格好なものであったが、その繭の奥から確かに魔力を感じる。


 少ししてその繭が自然融解し始め、その隙間からリナの姿が見えてきた。見たところ傷はない。

 しかし、ふらついたような足取りで前のめりに倒れていく。

 そこへエギルが素早く駆け寄り肩を貸した。


「おい、しっかりしろ」


「大丈夫、ちょっと魔力を使い過ぎただけだから。少ししたら回復する。それよりも魔族は?」


「俺の方は電波塔が破壊された時にぶっ殺した。他も同じようなものだ。

 それでも残っていたものは数の差で掃討戦ってところだな」


「そう。なら、少し座らせてもらうわ」


 しばらくすると、この場にいた全ての敵は特魔隊員によって倒されていた。

 その光景を呼吸を整えながら見ていたリナの所へリーダーの男が駆け寄ってくる。


「リナ隊員、よくやってくれた。此度のMVPだな」


「お褒めにあずかり光栄です。ですが、まだこれは本作戦の中の一つの成果でしかありません。

 私達は目的通り城の方へ向かいましょう」


「そうだな。だが、まだしばし休んでおけ。

 先ほど君達の隊長であるゼイン隊長の部隊から連絡が入った」


「ゼイン隊長の部隊からですか?」


「あぁ、強襲作戦を開始したようだ」


*****


「侵入者だ! 殺せ!」


 魔族の一人がそう叫ぶと城の狭い廊下を複数の魔族と機械狼が突撃していく。

 その集団に対し、正面から突破しようとしているのが―――


「反転」


「なっ! 目の前にいない―――いや、位置が入れ替わってる!?」


 ゼインが率いる強襲部隊であった。

 ゼインの魔法によって相手との位置が入れ替えられた魔族達は背後からゼインに続く特魔隊員の銃弾によって倒れ、それを突破してもなお近接に特化した隊員に蹴散らされていく。


 そして、怠惰の悪魔がいるであろう王の間に向かっていった。

 その時、一人の隊員がゼインに話しかけていく。


「いや~、隊長がいるとこっち魔力の温存が出来て楽ですね」


「代わりに俺はそこそこ疲れるけどね。ま、全然許容範囲内だからいいんだけど。

 それにしても――――全体止まれ!」


 ゼインは突然腕を横に広げて後ろにいる隊員達に命令を出した。

 そして、一人歩いて行くと足首ほどの高さに仕掛けられた細い糸に近づいていく。


「全く、いやらしいったらありゃしないね。どう見てもこの罠って対人に特化したようなものだし。

 加えて、威力もバカにならない。これだったら魔法を使われてる方がよっぽどマシだね」


 ゼインはその場から離れてその糸が張られている両側の壁に魔剣銃を向けると壁に向かって魔力弾を放っていく。直後、その壁は音を立てて爆発した。


 その光景を見るたびにゼインは思わずため息を吐いていく。

 なぜならこの城に突入してからこのような罠がたくさん仕掛けられているからだ。


 突入した最初の時はそれらの罠に気付くのが遅れて数人の隊員達を失ってしまった。

 そのことを悔やみながらも、ゼインは再び走り出していく。


 そして、そのような罠を潜り抜けてやがて辿り着いた王の間の巨大な両開き扉。

 その扉に二人の隊員がつき、息を合わせたように扉を開けていき、隙間からゼインを筆頭に中に入って銃口を突き付けていく。


 すると、真っ直ぐと伸びた赤いカーペットの先の数段上がった玉座には片方のひじ掛けに寄りかかるような黒髪の男の姿があった。


 その両隣には座り込んでいる小柄な少年と大人の女性の姿がある。

 また、その三人からは誰からもとてつもない圧の魔力を感じる。


「さて、玉座に座ってるのが怠惰の悪魔でいいのかな?」


「如何にも我が怠惰の悪魔グリエラである。

 先日は宣戦布告として我が僕を遣わしたが、どうだったかな?」


「おかげ様でこっちの大事な部下が重傷を負ったよ。このお礼はたっぷりしなきゃならないな!」


「ふっ、それはそれは威勢がいい。なら、まずは小手調べと行こうじゃないか」


 そう言って玉座の男が手を振りかざすと両脇に並んでいた鎧に覆われた人型が動き始めた。

 その人型から魔力は感じない。恐らくこれも機械で出来たものだろう。


「全く精巧な人形なことで!」


 槍を持ったその機械兵士は一斉に突撃していく。

 隊員達は魔力弾を放っていくが、それらは全て弾かれていた。


「チッ、抜刀準備。魔法部隊は追撃に備え―――」


―――バリンッ


「!」


 その瞬間、王の間の窓を割るようにして外側から大量の魔族が侵入してきた。

 その魔族は足元に見える隊員達に向かって魔法を放つように魔法陣を作り出す。


「反転!」


 その直後、ゼインが咄嗟に部隊ごと不意打ちしてきた魔族達と位置を入れ替えた。

 その魔族達は突然目の前に突撃してくる機械兵士の槍によって体が貫かれていく。

 そして、トドメを刺すように真上から隊員達が落下攻撃をしていった。


「なるほど。それが貴様の魔法か。だが、やはり乱発とは行かないようだな」


「っ!」


 魔法発動のクールタイムを狙ったかのように玉座にいたグリエラが手刀を突き出してく。

 空中であるために咄嗟に体を傾けても頬を掠ってしまうゼイン。


 ゼインはグリエラに距離を取らせるように蹴り飛ばしていく。

 それを腕でガードして防いだグリエラはそのまま距離を取って着地した。


「全く分析するように攻撃して来ないで欲しいな」


「お前が一筋縄で勝てる相手ではいと知っている。だからこそ、この行動はある意味必然的なものだろう」


「嫌だねぇ、そういうタイプは。それはそうと、まさか怠惰の悪魔本人から動いてくれるとはね。

 てっきり先に玉座の二人に戦わせると思ってたけど。

 それに俺の知ってる限りじゃやっぱり怠惰の悪魔はお前じゃないような気がするんだよな」


「俺以外に誰がいるというんだ?」


「例えば――――そこの緑髪の少年とか」


 ゼインがそう指さした少年はボーっとした様子で彼を眺めていた。

 しかし、その中でゼインは確かに捉えていた、明確な殺意を。


「ハッ、何を言うかと思えば! それは面白くもない冗談だぞ?」


「そうかい? それに俺が知ってる限りじゃ宣戦布告しに来た少年の悪魔は憤怒の悪魔のことを友人のように話していたそうじゃないか。

 これまでの悪魔は例外なく敬語だったのに」


 そう言いながら近くに落ちていたガラスの破片を手に持つと「それに」と言葉を続けた。


「弱いんだよね、お前は」


「なんだと?」


「だって―――」


 そう言いながらガラスの破片を投げるとグリエラの目前で位置を入れ替え、そのまま左手で頭を押さえると右手で剣モードにした魔剣銃で首を刎ねた。


「命を脅かされるような感じがしないから。そうだろ、グリエラ?」


 そうゼインが少年に向かって呼びかけると彼はめんどくさそうにだらけながら答えた。


「うわぁ~、バレるの早いな~。そうだよ、ボクが怠惰の悪魔グリエラさ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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