第70話 怠惰の悪魔へ続く道#2
先頭車両が旧コルドル王国が入国した途端に攻撃を受けたように爆発。
されど、その周囲には魔族や悪魔による気配はない。
不可解な事象が突然として起こったことにリナ達も思惑困惑した。
「ねぇ、筋肉ダルマ、これってどう思う?」
「敵側の仕業としか考えられないよな。
野盗とかはこの悪魔が蔓延った世界じゃまともに生きていけないだろうし。
まさかこの滅亡した王国に仕掛けてあった罠が今も生きていたとは考えづらいしな」
「同意見ね。しかし、好戦的な悪魔が自らの力を誇示せずにどちらかというと消極的な戦いを望むとは思えない」
「要は指揮官がいるってことでしょ。そして、その相手があたし達の倒すべき悪魔ってだけよ」
リナの言葉に反応するルクセリアは実に落ち着いているような様子を見せている。
しかし、その眼光は何かを見定めるように鋭かった。
「先頭が動いたみたいだ。ここからは歩きになるらしい。
ま、そりゃ箱詰めでまとめて爆死されるわけにはいかねぇからな」
エギルの言葉に全員が城門へと目を向けていく。
すると、そこから等間隔に並んでいる装甲車から次々に武装した特魔隊が下りていき、その動きに合わせてリナ達も行動を開始した。
戦闘が罠に警戒しながら辺りを見回して中に入っていくよう指示をしていく。
そして、入国してからリナ達が大通りを歩くまで微塵も何も起こらなかった。
人気のない何百年も前に住んでいたであろう風化した家が瓦礫となって崩れており、そこにコケやツタなどが絡みついた環境が広がっているだけ。
崩壊した王国、そこを怠惰の悪魔が根城としている可能性がある。
しかし、その大悪魔が従えてそうな悪魔の姿が一人も見当たらないことがあまりにも不自然であった。
――――ガガガガガッ
その時、突如として先頭の数名が攻撃を受けた。
そのことにすぐさま周囲を警戒していくが、魔族の気配はない。
それどころかその音はそれを皮切りに増えていった。
「魔力障壁展開!」
一人の隊長らしき人物が声をかけていく。
それによって、特魔隊の隊員一人一人が自身の正面に魔力の壁を作り出した。
「がっ!」「ぐはっ!」「くっ!」
しかし、どこからともなく放たれてくる攻撃はその魔力の壁を貫通し、本体の体へと攻撃をしていった。
それによって、次々に兵士が倒れていく。
「クソ、なんだこの気味の悪さは!」
リナ達はグラートが土の壁を作り出すことで攻撃を防いでいた。
どうやら魔力を纏わない物理的障害物なら止められるようだ。
されど、悪魔の気配がなく、見えない何かが攻撃しているということに精神的ダメージを負い始めている。
「悪魔がいない......見えない攻撃、魔力障壁を貫通......もしそれらを可能性にするなら......」
リナはぶつぶつとこれまでの情報を整理し始めた。
これまでの被害は悪魔の力を侮っていたこと。
ならば、魔法に対する知識も武器に関する技術も相手の方が遥かに上だと考えたら?
「自動で攻撃、相手が倒したこちらの武器を解析したのなら......っ!
グラート、今攻撃が来てる方角はわかる?」
「そうだな。北西、北東、南南東ぐらいだ」
「なら、北西方面の壁を消して。私が通れるほどの大きさで」
「おい、まさか一人で見えない相手に突っ込む気か?」
「バカ言わないで。見えない相手なんてそもそもいないわよ。いいから、開けて!」
「あぁ、わかった。死ぬなよ!」
グラートは一瞬壁に穴をあけた。そこにリナが飛び出し、思いっきりスライディングしていく。
「やっぱり、予想通りみたいね」
リナは地面に寝そべるほどに体勢を低くしても、リナの所へ攻撃がやってくることはなかった。
それはつまりその攻撃が固定された一方向であるということだ。
そして、その直線状にある崩れて積み上げられたような瓦礫に向かって魔剣銃を銃モードにして攻撃を放った。
その弾丸は真っ直ぐ飛んで瓦礫に着弾すると一気に爆発。
その際、吹き飛んだ瓦礫の中からおおよそ昔のものではない銃のような形の機械が見えた。
敵の正体はどうやらタレット銃らしい。
それが悪魔の気配がしなかった理由であるみたいだ。
それが分かるとリナはすぐに通信でフェイルの方へ連絡を入れようとする。
全体に素早く情報伝達するためだ。
「フェイル、聞こえる? 見えない敵は瓦礫に隠れてるタレットだった。全体にそう伝えて」
『――――.....――――』
「フェイル? 聞こえてないの? フェイル? まさかジャミングされてるの!?」
そのことにリナは思わず歯噛みした。
どうやら敵はこちらの行動を随分と読んでいるらしい。
リナはすぐに大声で全体に伝達した。
その声が聞こえた隊員達はすぐさま行動を移し、それがさらに隣の隊員へと波及して伝わっていく。
その影響で全体としては大きな被害は出ずに済んだみたいだ。
しかし、それと同時に嫌な収穫もあったが。
「リナ、大丈夫だったか?」
「えぇ、平気よ。それよりも不味いことになったわね」
「そうね。敵は私達と同じ現代兵器で敵を倒そう、もしくは数を減らそうとしている」
リナの不安要素を理解しているかのようにルクセリアは答えた。
それにリナはコクリと頷くと言葉を続けていく。
「先ほどフェイルに連絡を入れようと思ったけど、ジャミングされて連絡が取れなかった。
つまり相手は私達並に技術力に関して知識があるということ」
『お前達、大丈夫か?』
その時、インカムの方からゼインの声が全員の耳に入った。
どうやら同じ空間内にいる人物は連絡が出来るようだ。
『してやられたね。本部には連絡つかないし、早いうちに敵は無傷でこっちの数を減らしてきた』
「しかし、これで警戒すべきことは見えたと思います。
相手が魔力障壁を貫通する攻撃を放ってることに注意すれば、恐らく本陣である悪魔の集団が見えてくると思います」
リナはそう答えるも、すぐに「自分の考えがまだ甘いではないか?」と思い直すと言い直した。
「すみません。訂正します。
相手がどのくらいの現代技術力を持っているか未知数なため最大限の警戒をしていた方がいいかもしれません」
『......そうだね。そういう勝手な憶測で痛い目を見てきたからね。
すまないが、俺は強襲部隊だから別ルートで作戦行動中だから助けに行くことはできない。どうか死なないでくれよ』
そして、ゼインとの通信は終わった。すると、グラートが深く息を吐きながら呟ていく。
「はぁ、なんかこれなら直接悪魔と戦ってる方が気が楽かもしれんな」
「ま、そう思うのも無理もないと思うわ。
なんせ結局の所、魔族相手までは“人の思考に近い獣”だったけれど、悪魔は“人の思考”なんだもの。
相手が相手を排除しようと策を練っている。
ただ敵の動きさえ注意しておけばいい魔族とは根本的に戦い方が異なるわ」
ルクセリアの言葉にグラートはまた疲れたような顔を浮かべた。
「くは~、やんなるぜ。その上、これから倒そうっていう怠惰の悪魔は国一つ滅ぼせるレベルなんだろ?」
「怖気づいたならさっさと帰れ。いつ死んでもおかしくねぇんだからな」
「逃げるかよ。逃げたらラストが奪われてゲームセット。
ただでさえ、勝率も低いってのにこれ以上勝率を下げれっかよ」
「もし勝率を上げれる要因があるとすればラストの復活だけど、なぜかずっと眠ったままだし」
「わからないことに悩んでも仕方ないわ。それよりも目下の作戦に集中すべきよ」
「敵襲だ!」
その時、先頭の方から響き渡る声を聞き、すぐさまリナ達は戦闘態勢に入っていく。
「おいおい、マジかよ......」
しかし、その警戒は一瞬にして驚愕へと塗り替えられていく。
周囲の壁や通路から続々と現れたのはメタリックな体を持った背中に銃を背負う狼の集団であったからだ。
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