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第69話 怠惰の悪魔へ続く道#1

 ゼインによって作戦準備が始まってから二日後に、特魔隊本部でも対怠惰の悪魔討伐戦に対する軍の編成が行われた。

 そして、全体での集まりを終えるとゼインがリナ達を集めた。


「さて、君達は遊撃隊を任された。ま、こうはなるだろうと思ってたけど。

 しかし、これまでの実績がある以上、お前らは必然的に前線で戦うわけだが......」


「何よ、急に言い淀んで。何か言いずらいことでも?」


 どこか言いずらそうにしているゼインにルクセリアが怪訝な様子で見つめる。

 それから、ゼインはどこかやるせなさそうに答えた。


「これは俺よりも上層部での言葉で、お前らはあくまで前線ではあるが最前線ではない。

 お前達は遥か未来の希望の担い手だ。ここで下手に命を落とすような結果になることを惜しんだんだろう」


「お言葉ですが、この戦いにおいて大罪悪魔に勝つということに全力を尽くす以外未来なんてないと思いますが」


「リナ、言いたいことはわかる。しかし、上がそう決めたのならそれに従うしかない。

 たとえ俺がどんなに力を持っていようとも首輪がしっかりついてることを臆病な上層部に示さなければ、それこそ悪魔と戦う前に内部崩壊しかねないだろうしな」


「なんかめんどくせぇな。要は自分が死にたくないだけだろ? 戦いは自分以外に任せてよ」


 エギルの言葉にゼインは返す言葉も浮かばずに苦笑いを浮かべるのみ。


「ともかく、作戦上はそうなってる。

 だが―――絶対にこちらの思うような事は運ばない。

 それは君達が散々と思い知らされたことだろう」


 その言葉にこれまでの魔族、悪魔との戦いを経験したリナ達は険しい表情へと変えていく。


「上も君達を評価している。が、大罪悪魔には及ばないと思っているのだろう。

 だけど、俺は君達が悪魔に届き得る力を持っていると知っている。

 だから、いざとなった時は力を貸して欲しい」


「「「「「はい」」」」」


 その言葉に全員が元気よく返事をしていった。

 そして、その場で解散するとグラートがリナへと声をかけた。


「ラストの奴、まだ起きないのか?」


「えぇ、そうね。毎日見に行ってるけど呼び掛けても反応しない」


「傷自体は治ってるんだろ? 悪魔の回復力によって」


「治ってる。だから、ラスト自身に何か起こってるのではないかと思ってるの。

 でも、私にはその何かが理解できない。また、何もできない」


 リナは悔しそうに拳を握った。またラストだけが傷つき、自分だけが無傷で自由な日常を送っている。

 全ては彼によって築き上げられた一時的な平和なのに、そこに彼がいないことが悔やまれたのだ。


 確かに、ラストに悪魔の力を譲渡してから大きな力は失った。

 それでも、これまで戦ってきた経験値はある。


 もうラストだけが大きく傷つくだけの結果になってはいけない。

 たとえ、最後はラストに頼ることになっても、自分の力で怠惰の悪魔に一矢報いたい。


 そんなリナの強い思いはグラートにも伝わっていた。

 それこそ普段表情の差分が少ない彼女の感情が読み取れるぐらいには。

 グラートはリナの肩を軽く叩くと振り返ったリナに告げた。


「お前の気持ちはお前だけじゃねぇ。俺も同じだ。

 だから、俺にも手伝わせろ。それが親友としてできることだと思うしな」


「筋肉ダルマ......」


「そこは普通に名前で呼んでも良かったんじゃないか? まぁいいけどよ」


「それ、僕も参加していいかな」


 その話を聞いていたのかフェイルも覚悟を決めた様子で近づいて来る。


「僕は戦場こそ行けないけど、戦う気持ちは皆と一緒だから。

 だからどうか、僕にもその決意同盟に参加させて欲しい」


「あぁ、当然だ。お前もそうだろ?」


「えぇ、そうね。もうあなたは私達の仲間よ」


「ということは、一緒のクランであるあたしもそうよね?」


「俺はラスト(アイツ)に借りがある。それを返すためだ」


 そこへさらにルクセリアとエギルもやってくる。そのことにグラートは思わず嬉しそうに笑った。


「なら、こういう時には儀式付けってもんだろ」


 グラートが拳を突き出す。その意図がわかったのかリナもその隣に拳を出し、その次にフェイルも出し、それからルクセリア、エギルと全員の拳で円をを作った。


「さてと、このチームのリーダー、声かけよろしく」


 そして、グラートはリナへと言葉を振っていく。それに対し、リナはコクリと頷くと告げた。


「ラストは常々私達を助け、多くを助けてくれた。でも、これ以上ラストに負担をかけるのは友として情けない。

 なら、ラストが動けない今、私達が彼に代わって多くを助ける戦いに挑もう。ただし、必ず誰も欠けないこと」


 そして、大きく息を吸うとリナは叫んだ。


「絶対に勝って生き残る! この戦いに勇姿を刻め!」


「「「「おおおおおお!」」」」


―――三日後


 時は戦いの日付となり、旧コルドル王国があった場所に多くの兵士を乗せた車が向かっていた。

 その道中、おかしなほどに魔物や魔族の姿が見えずに純情な旅路をしていた。


「何か、妙じゃねぇか?」


 移動中の車内でこの違和感を最初に言葉にしたのはエギルであった。

 それに同意するようにルクセリアが答えた。


「そうね。ここは明らかに特魔隊の整備領域外。

 つまり、ここには通行の一般人を襲う魔物や下級魔族の姿があってもおかしくないのに、その気配がまるで感じない」


「これから戦うって時に体力を温存出来るのはありがてぇが......どうにも心は落ち着かねぇよな。フェイルに何か聞いてみるか」


 グラートは耳につけているインカムで特魔隊本部の通信室にいるフェイルへと会話線を繋げた。


『どうしたの? 何かあった?』


「フェイルはそっちで現在も状況を見てるんだよな。何かおかしなことはないか?」


『何かおかしなこと? 強いて言えば、整備領域外なのに妙に魔物や魔族の数が少ないことだけど......そうだね、改めて装甲車に付けられてる魔力探知機能にアクセスして先ほどよりも広範囲にサーチをかけてみたけど反応ないよ。どこかに隠れてるわけでもないみたい』


「そうか。ありがとう。また何かあったら聞くわ」


「どうだったの?」


 先ほどまで腕を組んで目を閉じていたリナが片目を開けてグラートへと通信の反応を聞いた。


「この辺に隠れてる敵もいないってよ。ってことは、本当にこの場所を離れちまってるらしい」


「なら、下手すれば激戦になりかねないわね」


「そうね。攻め込むまでに一苦労しそうだわ」


 何かを理解したように告げるとリナとルクセリア。

 その二人の様子に遅れながらもグラートも察し、思わず黙り込む。

 そして、その沈黙の答えを告げるようにエギルが口を開いた。


「ってことは、敵総大将でもある怠惰の悪魔もまた俺達に対して各地の魔物、魔族を集めて挙兵してると考えた方がいいってわけだ。

 加えて、相手はわざわざ戦いの場所を選んだ。

 つまりは相手側のホームってわけだ。

 ま、辺りを更地に変えながら本部のある都市まで進軍されるよりはマシだろうが」


「だが、相手の陣地で五日の猶予......いや、こうなることが予め予想されていたのならずっと前から戦場一体を罠にかける時間はあったと言えるな」


「さて、相手はどんな魔物を一斉投入してくるのか。

 それでも簡単にやられるほど特魔隊の兵士はヤワじゃないと思うけど」


「そろそろ先頭車両が入国するわ」


―――ドカーーーーン!


「「「「「!?」」」」」


 その突如、先頭車両の方から突然大きな爆発音が起こった。

 それにより、全体の動きが止まり、装甲車から降りた彼女達は魔物や魔族が襲撃してきたのかと警戒した。


 しかし、それらの気配は何一つ見当たらなかった。

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