第67話 宣戦布告
ラストがエギルとともにエギルの妹ルージュの病室を訪れてから一週間が経った。
ルージュの回復は呪いで眠っていただけでもともと状態が良く、筋力がある程度戻ったところで外出が許可された。
その結果、現在ラストはエギルとルージュとともに街の中を歩いていた。
「悪いな、もともとお前に礼をするためだけだったが、妹が街を見てみたいって聞かなくてな」
「ハハッ、すっかりシスコンしてるみたいで何よりだよ」
「若干バカにしてないか?」
エギルは随分と丸くなった様子でラストと会話している。
もともと彼は今や唯一の肉親であるルージュを助けるために必要に力を求めていただけであって、完全な復讐こそ叶っていないものの最重要な目標は達成されているために焦らなくなっただけである。
「お兄ちゃん! 色んなキラキラしたものがたくさんある!」
「おい、まだ病み上がりなんだからそんなに走り回るな」
「もう平気だも~ん」
そう言ってルージュは見るもの全てに興味を持っていく。
それも当然だ、彼女が寝ていた数年間で技術は大きく進歩する。
目に映るものがどれもこれも新鮮に映って仕方ないのだろう。
「はぁ、全く......人の話を聞きやしねぇ」
「まぁまぁ、元気そうなのが一番だし。
それにあの子にとっては今の世界は未来にタイムスリップしたようなもんだからさ」
「......そうだな」
ラストの言葉にエギルは微笑むと頭を掻きながらルージュに言葉をかけていく。
「ほら、兄ちゃんが買ってやるからそばに来い」
「ほんと!? やったー!」
ルージュは嬉しそうにスキップしながらエギルの所に戻ってくるとそのまま手を取った。
そして、三人は近くの服屋によっていく。
「わぁー奇麗!」
ルージュは瞳を輝かせて周りを見た。そして、店内を小走りしていく。
「あ、こら店の中で走るな。ったく、仕方ねぇな」
「で、エギル君がその手に持っている服はなに?」
「あ? ルージュに似合いそうな物に決まってんだろうが」
ラストがエギルに目を移すとその両手にはルージュの体格に合わせたようなサイズの服がこれでもかという量で持っていた。
その姿にラストは思わず困惑する。
「そ、そんなに買うの......?」
「当たり前だ、ルージュは眠ってただけで体の成長は止まっていない。
なら、新しく服を新調しなきゃいけねぇだろうが」
「それも理由にあるとは思うけど、絶対それだけじゃないよね?」
「可愛いものは全て妹のものだ!」
「シスコンが思ったより深かったみたいだね」
そんな話をしていると服をたくさん持っているエギルに気付いたルージュが近づいて来て、その服を摘まんで柄を見るとエギルに一言。
「お兄ちゃん、センスない」
「なっ!?」
「だって、全部柄ものじゃん。私、もっと清楚でシンプルなものが着たい」
「だ、だけど、兄ちゃん的にはこっちの方が似合うと―――」
「もう一度言うよ、私が着る服でお兄ちゃんが選ぶものは総じてセンスがない」
「がはっ!」
「あ、エギル君がやられた」
妹の痛烈な一撃にエギルの体力は一気に瀕死にまで持っていかれ、その場に崩れ落ちた。
もはやその姿にかつてのオラオラとした威圧感はない。
とても人馴染みのしやすい残念なお兄ちゃんである。
「あ、そうだ! ラストお兄ちゃん、お兄ちゃんに代わって選んでみてよ」
「え!?」
突然の無茶ぶりにラストは動揺する。そこに瀕死のエギルが加わって来た。
「ほう? まさか兄ちゃんよりもラストの方がセンスがあるって言いたいのか?」
「さすがにお兄ちゃんよりはあると思う」
「ははっ、そうか。なら、勝負と行こうじゃねぇか! なぁ、ラスト!」
「なんで!?」
ラスト、動揺しているうちに勝手に話が進んでいく。
「待って、待って! やるとは一言も言ってないよ!?」
「でも、私の中ではラストお兄ちゃんの方が絶対良いセンスしてると勘が告げてる」
「おいおい、まさかここまでルージュに言わせておいて逃げねぇよな?」
「......やります」
完全にシスコンを拗らせたエギルが圧をかけてラストに迫る。
その圧に負けたラストは渋々承諾し、勝負が始まった。
勝負内容はルージュに似合う清楚な服。
これだけで言えば、ルージュの家族であるエギルの方が有利であるだろう。
しかし、結果は―――
「はい、勝者はラストお兄ちゃんです」
「な、なぜだ......!?」
エギルは衝撃を受けた表情でルージュに尋ねる。それに対し、彼女はサラッと答えた。
「お兄ちゃんが持っている紫色の服は昔の私のセンス。
だけど、今は薄紅色が気に入ってるの。私の好みは日々更新されてるの。
だから、昔がそうだったからといって今がそうとは限らないんだよ」
「そ、そんな......」
エギル、再びその場に崩れ落ちた。
なによりラストに妹が取られた感がして先ほどよりも落ち込みが酷かった。
それからエギルの再起動に数分かかるとまるでどっちが気を遣ってるか分からないといった具合にルージュに気を遣われながら、他にルージュが気になった店を転々と移動していく。
そのうちにエギルも復活してきて目につくものほぼ全ての店を訪れた頃にはすっかり時刻は夕刻となっていた。
「もうこんな時間かさすがに過ぎるのが早いな」
「それだけ楽しんだってことだよ。ほら、楽しいことをしていると時間が過ぎるのが早いって言うでしょ」
「みたいだな」
病院までの帰り道、互いにルージュの買い物袋を両手いっぱいに持ちながら先行して歩くルージュの後ろ姿を眺めた。
その姿は嬉しさを表すように長い髪が跳ねるような歩くリズムに合わせてぴょんぴょんと動き、チラッと背後を振り返れば「早く!」と天使のような笑顔を見せてくる。
「ルージュはやらねぇからな」
「なんか酷い勘違いをなされてる」
「あ? それじゃあ、これまでのルージュを見て惚れなかったとでも言うつもりか?」
「うわぁ~、厄介シスコン兄だ~」
多少の雑談を交えながらルージュを無事に病室に戻すと別れを済ませていく。
そして、病院の帰り道、エギルはラストに話しかけた。
「結局、お前にお礼らしいものは出来なくてすまなかったな」
「いいよ。僕も良い気分転換になったし。
それにこういう時間を守りたかったんだと再認識できたから」
「そうか。ま、お前がいいならそれで―――」
「「!?」」
その時、心臓を鷲掴みにされるような強烈な威圧感に襲われた。
二人はほぼ反射的に警戒態勢に入ると正面には顔を隠すほどに深くフードを被った少年ほどの体格の人物が立っている。
「誰だ、テメェは!」
「結局、ボクが会いに来ることになったよ。ま、それがある意味君らしいとも言える」
エギルを無視するように少年は話しかける。その相手はラストであった。
『間違いない。この気配は......まさか!』
ラストの中で威圧感に当てられたリュウがたじろいだ様子を見せる。
そのことにラストは一瞬だけ気を散らすと気が付けば少年がラストの眼前に迫っていた。
「だけど、君はもう少し自分というものを自覚する必要がある。
自分が何者で、何をなすべきか。今一度自分自身に説いてみるべきだ、ほんとめんどくさいけど」
ラストは逃げれなかった。そして、少年は右腕の手刀を振りかざすとラストの胴体を貫いた。
「がはっ!」
それによって、ラストは地面に膝を突き、そのまま前のめりに倒れていく。
そんな光景を見てもなおエギルは何も出来なかった。
いや、何もさせてもらえなかった方が正しいのだろう。
そして、最後に少年はエギルを伝言役にするように言葉を伝えた。
「これは宣戦布告。五日後、旧コルドル王国にて待つ」




