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第66話 兄妹の再会

「おらああああ―――っと!?」


 勢いよく拳を振り抜いたグラートであったが、突然目の前にいたミニマロが停止して動かなくなったことに気が付き思わず止めた。


 そのことにグラートは咄嗟に距離を取っていくがやはり動く気配はなし。

 加えて、暴走状態にあった生徒は前のめりに倒れていく。


「これは......」


「恐らく、決着がついたのよ。ラストとあの悪魔との戦いにね」


「それって......!」


「えぇ、この現状から見てわかる通り、勝ったのよ、ラストが」


 リナはグラートに向かってまるで自分のことのように嬉しそうに答えた。

 そして、すぐさまラストのいる校舎の中へと向かっていく。


「っ!」


 しかし、リナは思わず足を止めた。

 なぜならそこにあるのは普段のラストの姿とは大きく異なった姿をしていたからだ。


 他の者達もラストの変貌した姿を見て思わずその漂う威圧感に自然と身構えてしまう。

 感じる圧がカリギュとは比較にならないほどに強く感じるからだ。


 そんな中で、リナだけがそのラストに進んでいく。

 なぜなら彼女だけがその姿を微かに見覚えがあるからだ。


「ラスト......なんだよね?」


 リナは炎の結界の外から声をかける。それ以上は熱すぎて入ればたちまち焼き焦げてしまうだろう。

 その質問に対し、ラストは僅かに笑みを浮かべて答えた。


「うん......そうだよ」


「ラスト!」


 その瞬間、炎の結界が解かれると同時にラストは前のめりに倒れていった。

 姿は本来のラストへと戻り、そこへリナは咄嗟に駆け寄っていく。


「熱っ!」


 リナが咄嗟にラストを抱えようとするもラストの体はまるで高温で熱せられた鉄器のように熱く、触ろうと近づいただけで火傷しそうなほどであった。


「おいおい、どうやってラストを運ぶんだ?」


「安心しなさい、筋肉ダルマ。私も似たような状態になったことがあるから対処は知ってるわ。

 もっともそれは私の魔法と相性が良かっただけだけど」


 リナはグラートの質問に答えながら、ラストに手をかざしそこから冷気を当ててラストの体を冷やしていく。


 さらにラストの下の床から氷の台座を作り出し、全体的に彼の体を冷やしていった。

 ラストの体表温度はかなりの高熱を帯びていたのか氷の台座がたちまち溶けて軽く埋まっていく。


 そんな様子を見ながらルクセリアが一息吐いて呟いた。


「とりあえず、これでこの学園での騒動は集結ってところかしら?」


「そのようですね。とはいえ、やはり被害は甚大と言えるでしょう。

 生徒の大半は悪魔カリギュによって意識のない傀儡となって暴れ回り、一部の生徒はミニマロという形で肉塊の怪物と成り果てましたから」


「どうやらそれだけじゃねぇみてぇだぞ」


 ルクセリアとサラシャの話に割って入る形で介入してきたのはエギルでその横にはエギルにビクビクとした様子のフェイルの姿があった。


 エギルはフェイルの背中を押して一歩前に出した。

 まるで発言したかったのはフェイルであるように。

 フェイルはエギルの突然の行動に驚きながらもその二人に答えていった。


「僕が作った魔力判定調査機によるとこの学院にいた全校生徒347名、教師17名のうち、生き残った生徒はそのうちの216名、教師は全滅でした」


「教師が全滅......恐らくあの悪魔の性格じゃ直接殴り込んで傀儡にしたって感じじゃなくて、巨大な魔法を予め用意していたって感じでしょうね」


「もしくは教師の化けていた辺りで他の教師に接触する際に何か仕掛けていたのではないでしょうか。

 前のラスト様を狙った上位魔族とは違い、あくまでラスト様狙いではありますが策を練って苦しめるような形でしたし」


「つまりは俺達はまだ全体的に悪魔という存在を舐めてたってことだろ。

 この惨状を見れば嫌でも判断させられる。悪魔は人間と同じように理知的で策を練る。

 直接的に挑めば当然痛い目を見るのはこっちってことだ」


「とにもかくにも、この惨状では学院再開は難しそうね......」


*****


―――数日後、特魔隊ゼイン事務所


「そうか。俺がいない間にそんなことが......」


 ゼインはリナから事情を聴いていた。

 そして、ゼインの書斎の前にはラスト、グラート、フェイル、エギル、ルクセリア、サラシャと当時戦っていたメンツが揃っていた。


「悪いね。そんな大変な状況に助けにいけなくて」


「仕方ありません。もう今となっては後の祭りです。それに隊長も行けない理由があったのでしょう?」


「あぁ、実は西にある森で魔女―――嫉妬の悪魔と対峙してきた」


「嫉妬の悪魔と!?」


 その言葉にリナを筆頭としてその場にいる誰もが驚いた。

 なぜなら、その悪魔は大罪シリーズと称される大悪魔の一人なのだから。


「といっても、直接的な対峙とはならなかった。

 まるでこっちの様子を見るように魔物から魔族、悪魔と次々に呼び出してまさに地獄のような戦場だったね。

 でも、その戦いは突如としてあちら側が身を引くような形で終わった。

 そう、それはまさに君達の戦いが終わったタイミングと重なる」


 その言葉にラストが思わず尋ねた。


「確か僕達が戦っていたカリギュという悪魔は怠惰の悪魔から差し向けられたと言っていましたが、まさか怠惰の悪魔が嫉妬の悪魔と結託してるのですか?」


「さぁ、そうである確証はない。だが、またそれはそうでない確証もない。

 ま、警戒しておくに越したことはないよねってことだね。特に―――ラスト君、君はね」


「......はい」


「ともかく、そこら辺は俺達に情報収集を任せて君達はゆっくり休みな。

 それぐらいの権利は君達にもあるはずだから」


 そして、ラスト達はその場に解散した後、ラストはエギルの所へ尋ねた。


「エギル君、とりあえず会わせてくれる?」


「あぁ」


 二人が訪れたのはこの都市が持つ唯一の大病院であった。

 そして、そこの三階に上がっていくとエギルの案内を元に一つの病室を訪れた。


 その病室のベッドには一人の少女が眠っていた。

 そして、首から頬のあたりにかけて一目でわかるほどの青あざがある。


「妹のルージュだ。悪魔の呪いによって今はずっと寝たきりだ。

 これまで色んな解呪士に診てもらったが誰一人としてその呪いを解くことは出来なかった」


『当然だろうな。この呪いはただの呪いではない。嫉妬の悪魔の残滓によって付けられた呪いだ』


「嫉妬の悪魔の......!?」


「どうした?」


「あぁ、えーっと、実は......」


 ラストは自分が憤怒の悪魔リュウと話せていることを説明し、その上でその呪いの元凶が嫉妬の悪魔のものであると説明した。


「つまり嫉妬の悪魔の庇護下......というかその魔力を帯びたものが死に際に残した呪いがそれみたいなんだ」


「チッ、呪いをかけた悪魔は死んでるのか。まぁいい、大元がわかっただけでも」


「また一人で行こうとしないでよ?」


「わかってる。今回で散々身の程をわからされた。自分の実力がどれほど奴らと遠いのかをな」


 エギルは悔しそうに拳を握るとラストに改めて尋ねた。


「で、そのお前の仲にいる悪魔は治せるのか?」


『そう聞かれてるけど?』


『問題ない。奴自身がかけたものでもなければ俺の魔力でかき消せる』


「出来るみたいだ。僕を信じて」


「......あぁ、わかった」


 そして、ラストは右手を伸ばしていくとルージュのあざのある頬に触れていく。

 そこに魔力を流していくとまるで紙が焼き焦げていくようにあざが消えていった。


「誰も解呪できなかった呪いがこんな簡単に......!」


 エギルはその光景を見て思わず驚く。

 何度も解呪を頼んできた彼にとってはある種予想外の展開なのだろう。


 そして、ラストが全ての呪いを消し去るとルージュのまぶたが僅かに動いた。

 それから、ゆっくりとその目が開き始める。


「お......にいちゃん?」


「る、ルージュ......!」


 エギルはルージュの手を取ると泣き崩れ始めた。


「ルージュ! ルージュ......!」


「うん、ちゃんと聞こえてるよ。そんなに泣いてお兄ちゃんらしくないよ」


 泣くエギルにルージュはそっと上体を起こすと兄の頭をゆっくり撫で始めた。

 そんな兄妹の久々の会話に水を差さないようにラストはそっと病室を出ていく。

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