第65話 決着 カリギュ戦
ラストの姿は尖ったような黒髪が腰当たりまで伸び、天に逆らうように反り返った両角、口元に見せる鋭い八重歯。
さらにはまるで爬虫類のような縦に瞳孔が伸びた特徴的な姿になっていた。
その姿はラストがリナを助ける際にリュウと契約したときに生じた姿で、その時はリュウが表立って人格を操っていたが今はラスト本人が主人格を司っていた。
ラストの周囲の空気は熱気で陽炎のように揺らめき、さらに足元あたりはまるで焼き焦げたような跡が残っていた。
その姿はラスト自身でも驚くような変貌で、思わず自分の体を軽く見回していく。
『その姿は俺との同調率が八割を超えたことによる魔力武装みたいなものだ。
いわば、俺の魔力から姿を読み取ってそれに寄せているという感じだな』
「ということは、これが本来のリュウさんの姿......」
『今は俺について考える必要はない。その姿が維持できるのはお前の怒りが消えるまでだ。
怒りは熱しやすく冷めやすい。その姿を維持できるのはもって数分。その間に奴を倒せ』
「わかった」
そんな二人のやり取りがある一方で、カリギュはラストの姿を見て猛烈に感動していた。
なぜならその姿が憤怒の悪魔本来の姿であると魔力で理解できたからだ。
圧倒的な存在感、威圧、熱気、それら全てが本物であると自身の本能に認めさせてくる。
「素晴らしい。この姿が憤怒の悪魔様ということですか......なら、私も本気を出すのが礼儀でしょうね!」
そう言うとカリギュは自分自身を抱きしめるようにしながら両腕に爪を立てて突き刺した。
「呪詛開放」
その瞬間、カリギュの両腕の筋肉が不自然なほどに膨張し始めた。
ボコッボコッと動き出したその筋肉はカリギュの体を優に超えていくとその腕に合わせるようにカリギュの体の変貌していった。
ラストの目線は段々と上を向いていき、やがて止まった時には四メートルもの巨人の姿に変わり果てた。
「この姿は体への負担が大きいですのでもって数分と言えるでしょう。
ですが、それぐらいであれば十分なほどに濃厚な戦いが興じられるでしょう!」
「キッチリお前を倒してこの戦いを終わらせる!」
最初にしかけたのはラストで素早く駆け寄っていくと炎を纏わせた剣を振り下ろした。
しかし、その剣の振りに合わせるように巨体に似合わない高速動作でカリギュは拳を振り下ろしてくる。
剣の刃がカリギュの拳と接触した。しかし、その拳は切断されることなくそのまま受け止めていく。
『ラスト、魔力をもっと絞り出せ。
俺の魔力は身体能力を飛躍的に向上させる。
込めた魔力の分反映が大きいはずだ』
「くっ! ああああああ!」
ラストは剣に炎を纏わせいく。
その瞬間、僅かに青みがかった炎を見せたそれはカリギュの拳を切り裂いた。
「やりますね! ですが、もはや私に痛覚はないんですよ!」
「がっ!」
拳を切り裂くことに集中し過ぎたラストはカリギュのもう片方の手にはたかれてそのまま後者の壁へと激突しながら、その壁を壊して床を転がっていく。
ラストは転がって衝撃を逃していくとそこに向かってカリギュの巨体がのしかかりをするように飛んできた。
ラストが咄嗟にその場を離れるとその位置にカリギュが着地し、その場一体の地盤を割るように大きくひび割れたへこみを入れていった。
その衝撃は地面に着地したラストを宙に浮かせるほどで、そこに切り裂かれた拳でカリギュが殴って来た。
「炎海」
ラストはすぐさま真下に向かって左手を伸ばし、そこから炎を噴き出してくとその反動で拳を躱していく。
さらにはその場一体を炎の海へと変えて、カリギュに持続的な火傷のダメージを与えていった。
「ふふっ、ここにいるだけで十分もしないうちに焼死しそうですよ。
ですが、当然のようにあなたは喰らわないわけですね」
『当然だ。俺の魔力で作り出した完全な炎熱領域だからな』
「大罪悪魔はこんな相手ばっかりだと思うと本当に総戦力で勝てるかどうかって思えて来るよ」
ラストは何度目かの関心と畏怖をリュウに感じた。
しかし、今は味方でいてくれる以上目の前にいる敵を仕留めるのみ。
『このまま一気に決めるぞ』
「おう!」
ラストはそのまま一気に走り出した。
その動きにカリギュは相変わらず笑ったまま拳を薙ぎ払ってくる。
しかし、その攻撃をスライディングで掻い潜っていくと懐に接近して一気に剣を切り上げた。
その瞬間、ラストの振り上げようとした腕は突然動きを止めた。
それはカリギュの振り払った腕から別の腕が生えていて、それがラストの腕を掴んでいたからだ。
「どうでしょう? 私も出来るんですよ? 伊達に人間食べてませんから」
動きを止めたラスト。それはカリギュにとって絶好の攻撃チャンス。
加えて、相手は逃げられなくさせているために後ろに跳んで威力を殺すことも不可能。
「さぁ、これで仕舞にしましょう!」
「ここは俺の領域だぞ?」
直後、今度はカリギュの振り下ろそうとした腕が止まった。
カリギュが思わずその腕を見ると炎の腕がカリギュの腕を丸ごと掴んでいて、一瞬にして消し炭へと変えていく。
「ああああああ!?」
そのことにカリギュは動揺が隠せない様子でその隙を狙ってラストは素早く剣を振り上げた。
だが、カリギュは反射的にその場を離れると切り裂くことに成功したが致命傷には一歩届かなかったようである。
「私の腕が......いや、さすがに憤怒の悪魔様というべきでしょう。
傷口は漏れなく焼き焦げていて再生することは不可能。
ましてや別の腕を取り付けることも叶わない」
「お前に勝機は見出させない。このまま終わらせる」
「そうですね。あなたの姿も持って数分でしょうから仮にそこまで粘ったとしても、私があなたを連れて離脱するころには私のこの姿も解除され、能力を切れた兵士が動かなくなったことを機にあなたの仲間がここにやってくるでしょう。
そうなれば、私があなたに勝ってもその仲間に殺されるのがオチでしょう」
カリギュは腰を深く落とすと力を込めた。
その直後、カリギュの腰当たりがボコボコと動き始め、さらに二つの足が出てくる。
その計四本となった足はしっかりとカリギュの体を支えるようになっている。
「ですが、私が残りの力を振り絞って攻撃してあなたを倒した直後ならもしかしたらまだ僅かな望みがあるかもしれません」
そう言うとカリギュは残りの切り裂かれた拳を構え、まるで正拳突きをするように構え始めた。
「避けてもいいですが、避ければその先にいる仲間に当たりますよ?
そういう風に僅かに位置調整したんですから」
「問題ない。その攻撃を切り裂けばいいだけだ」
「なら、是非ともそうしてみてください―――竜咬拳」
カリギュが突き出した拳から放たれた衝撃波はドラゴンの形をしながら正面の全てを飲み込まんばかりに襲い掛かってくる。
「鬼炎流剣・天月突き」
ラストは上段に剣を構え、剣先をカリギュに向けると直後一気に走り出した。
そして、突き出した炎剣は衝撃波を切り裂きながらカリギュへと迫っていき、そのまま通り過ぎる時にはカリギュの肉体に大きな風穴を開けていた。
その傷口は当然焼け焦げていて回復などできない。
故に、カリギュは自身の攻撃が防がれた時点で負けが確定したのだ。
「あぁ、負けたのですね。最後まで美しく煌びやかな炎でした」
そう散り際に言葉を呟きながらカリギュはその体を魔力の塵へと変えていった。
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