第64話 怒りの顕現
カリギュはソドム、ゴモラという二体の大男を召喚した。
筋骨隆々としたその男達はかつてどこかの戦士を思わせるような感じで、されど生気はないようにぼーっとした様子であった。
「この二体は私が手塩にかけて調整した戦士なんですよ。
これまでもの敵と同じにしては痛い目を見ますよ」
カリギュはニタリと笑う。その笑みは先ほどと変わらない余裕を見せるものだった。
それに対し、ラストは警戒心を高めていく。
そして同時に、長期戦は不利になることも悟った。
『気合を入れなおせ。ここからが本番だぞ』
リュウからも激が入る。ラストは一つ息を吸って吐くと剣を構えた。
「準備万端ということですか。ならば、見せてみなさい! 行きなさい、ソドム! ゴモラ!」
カリギュに命令すると二人は唸り声を上げて一気に走り出した。
残ったのはボッと舞い上がった砂埃のみ。
視界に捉えた時にはラストを挟み撃ちするように両サイドに立っていた。
二人とも拳を振りかぶってそのまま振り抜いていく。
ラストは咄嗟に大きく体を逸らし、眼前を横切る二つの腕を見つめた。
そして、素早くそこから離脱するようにバク転で距離を取ってくる。
しかし、ソドムもゴモラもすぐさま追い付いてきた。
そこからは正しく阿吽の呼吸で攻撃を仕掛けてくる。
それに対し、ラストは剣や腕で攻撃していくが防戦一方は否めなかった。
「熱爆」
ラストは自身から炎を生み出すようにして一瞬にして爆発させた。
それをゼロ距離で喰らった二人は一瞬怯む。
そこに素早く近くにいたソドムへと攻撃を仕掛けた。
ラストは大きく剣を振り下ろしていくとソドムは全身が燃えた状態で白刃取りをしてくる。
すると、ラストの攻撃が止まったところでゴモラが背後から突撃してきた。
「まだだ!」
ラストはすぐにソドムの腹部を蹴るとそれによってくの字に曲がったソドムの肩に足を乗せて蹴ることでバク宙していった。
それによって、背後のゴモラの攻撃を避けていく。
姿勢を元に戻すと剣を逆手に持ち替えて、真下のゴモラに目がけて刃を突き立てた。
「っ!」
しかし、そこはゴモラが振り回してきた蹴りによって、それを剣で受け止めることを余儀なくされたことで避けられた。
「後ちょっとだったのに!」
『奴らは死者だ。故に、痛みも感じないし、それどころか死に対する恐怖感もない。
だが、死者であるからこその綻びもある。そこを狙っていけ』
「死者であるからこその綻び......」
リュウからもらったヒントで考えていく。すると、高みの見物を決め込むカリギュが話しかけてきた。
「どうです? 戦い慣れてる相手と戦うのは随分と苦戦するでしょう。
こう見えて実は私はその二人を何も操っていないんですよ。
ただ命令で『目の前にいる敵を半殺しにしろ』としか言ってないんです。
つまり、今までの動きは全てこの武人達の肉体に記憶された戦いの経験によるものなんです。凄いでしょう?」
「あぁ、確かに凄いと思う。だけど、人の命を奪ってさらには死んでもなお戦わせているお前が言っていい言葉じゃない!」
「おや? それはどうしてでしょうか。
私は知っていますよ。そういう武人は死んでもなお強さを求めるものだと。
まさかそれが違うとでも言いたいんですか?」
「僕が言いたいのはそれをお前が勝手に決めるなってことだ! 命を弄ぶお前を絶対に許さない!」
「あぁ、良い敵視ですね。そうでなくちゃ戦いは面白くないでしょう」
カリギュはケラケラと笑っていく。
その顔は本当にこの戦いを楽しんでいるかのような様子で、それがラストの怒りのボルテージを少しずつ上げていくった。
黒く武装された右腕は炎が溢れ始め、それは肩まで大きく達していた。
それと同時にラストから魔力が溢れ始め、周囲が陽炎のように熱で揺らいでいる。
「おぉ! それが憤怒の悪魔様の炎熱領域ですか!
そこそこ距離が空いているのに熱気が伝わってくるようです」
「今にその熱を味合わせてやる」
「では、とくと見せてもらいましょう!」
カリギュは再びソドムとゴモラを差し向けてきた。
その四重に動く拳をラストは全て剣で弾いていく。
これは怒りによってラストの身体能力が向上したが故の結果だ。
「邪魔だ!」
ラストはソドムに対して裏拳をかました。
その拳をソドムは腕で受け止めようとするが、その右腕はラストの拳に触れた瞬間燃え始め、さらには骨が折れるように大きくひしゃげた。
そしてそのまま、大きく遠くへ吹き飛ばされていく。
その後隙を狙うようにゴモラが攻撃を仕掛けてきたが、すぐさま右ひじで顎を打たれ、そこからラストが右手に持った逆手の剣で首を刎ねられる。
その悪魔の力は怒りによって魔力に差異が出るという特異的な能力であるが、いざ怒りにその身が包まれれば格上をいともたやすく仕留めてしまった。
「次はお前だ。カリギュ」
ソドムはラストの炎で燃えて動かなくなり、ゴモラは首を刎ねられて動かなくなった。
てっきり人形のように何か頭が無くても襲ってくるかと思いきやそうでもなさそうだ。
「ま、まさかそんな簡単にやられるなんて......はぁ、仕方ない―――第二フェーズと行きましょう」
「第二......?」
するとその時、胴と頭がわかれたゴモラと燃えているソドムの体が突如として浮いていく。
「まさかこれで終わりなはずがないしょでう。
私はこう見えても用意周到に考えてるんですよ。
この二体には予め核となる術式を刻んであるんです。
そして、その術式の発動条件は自分の死が確定した時」
二体の体は空中にぶつかり合うとその瞬間に強い光を放ち始めた。
神々しいその光は目を潰すような光量でラストは思わず腕で光を遮っていく。
「さぁ、二人の武人の経験が一つの肉体に宿った時、この瞬間に新たな超戦士が誕生するのです!」
カリギュはまるで天を仰ぐように両手を広げると腕を伸ばしたまま両手を合わせていく。
直後、強い光がその場に生まれると三メートルを超えた一人の男が生まれた。
「ソドムとゴモラというのは元は一つの名前を二つにわけただけなんですよ。
故に、この人物の名はソドムゴモラ。私が作り出した最高傑作です!」
「人の命をここまで弄ぶなんて......」
『......っ!』
ラストはその男を見てポツリと呟いた。
その瞬間、ラストの中にいるリュウは何かを感じ取ったように息を飲む。
「許せない。人の命はお前のおもちゃじゃないんだ」
「どうでしょうか! このフォルム! この存在感! この力! どれをとっても一級品でしょう!」
「ましてや死後もこうして自分の道具のように扱うだなんて」
「私は悪魔の力を用いればあなた相手にソドムとゴモラをぶつけてもすぐに倒されることは承知してました。
故に、完全体となったこのソドムゴモラをぶつける時を何よりも楽しみにしてたんです」
「お前は絶対に許せない!」
「さぁ、見せてやりなさい! お前の実力を!」
ソドムゴモラは巨体に似合わない速度で拳を振り抜いていく。それに対し、ラストは動かなかった。
それを見てカリギュは動けないのだと思った。だが、それは違った。
「焔の太刀」
ラストが動かなかったのは動き出すまでに十分の余地があったからだ。
瞬きするような刹那の時間で拳を繰り出してくる相手に対して、ラストはそれよりも速く剣を居合斬りのような構えをすると素早く振り抜いた。
その瞬間、ソドムゴモラは頭、上半身、下半身と三等分にされていく。
その最高傑作の実力を見る間もなく倒されたことにカリギュは思わず「は?」と訳がわからない表情を浮かべた。
それに対し、ラストは淡々と告げる。
「お前を殺す」
その時の姿は初めてラストがリュウと契約していた時に酷似していた。
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