第62話 敵大将のもとへ
助けたいが敵が強くてそれを対処するのに精一杯でそこまで余裕が回らない。
加えて、三対五十以上という圧倒的なアウェーな状況でラスト達は防戦一方を強いられていた。
その時、後方から聞き覚えのある声が響き渡り、思わずラストがその方向を振り向くとそこには見覚えのある集団があった。
「どうやら急いで戻ってきた甲斐があったみたいね」
「というか、これどうなってんだ? なんで明らかなバケモンと一緒に学院の生徒が戦ってんだ?」
「それに生徒の様子もおかしい。その原因は......考える必要もないわよね」
「狂騒状態......前にどこかの文献でそれを治療するために使われた花があると読んだことがありました。少し調べてみます」
「なら、あたし達は全力で援護及びあの悪魔を倒しに行くわよ!」
そして、ルクセリア達はそのまま混戦状態の中に突撃していった。
ルクセリアは敵の攻撃を躱し、弾きながらサラシャの方へと近づいていった。
「無事で何よりよ。さすがあたしのメイド」
「お褒めの言葉、光栄です。ですが、今は隠れてガッツポーズする暇もないでしょう。
現状を簡単に説明しますとあの悪魔カリギュが生徒や教師を操り攻撃させてるわけです。
そして、私達は生徒は助けるという方針に決まりましたので、気絶させて無力化したいところですが何分力が強く加えて敵味方関係なく攻撃するために対処に困ってるわけです」
「......あんた、隠れてガッツポーズするタイプだったの?」
「お嬢様、触れる場所はそこではなりません。後半に着目してください」
「で、この状態は本体を倒せば解除されると?」
「そのようです。本人曰くは」
「そう、なら後はあの怪物について説明頂戴」
「アレはあの悪魔が数人の生徒で作り出した存在らしいです。
そしてもう、あれはおおよそ人の原型はしていないので倒す方針になりました」
「敵と味方がハッキリすれば問題ないわ。後は任せなさい!」
「では、どうか後はお気をつけて。相手は人体のリミットを解除した状態で動いているようなものです。
おおよそ尋常ならざる力で攻撃してきますので」
「わかったわ!」
そして、ルクセリアは素早く敵味方を目視で判断していくと間合いを詰められないように風の結界を張りながら銃撃で撃ち払っていく。
その風の弾丸は生徒やミニマロをノックバックさせるほどで、その時に相手がミニマロであればそのまま頭を撃ち抜き、生徒であれば足を撃ち抜き、地面に転がしていく。
「傷は後で時間かけて治しなさい。にても、気に食わないわね。あの悪魔」
ルクセリアは敵の攻撃を躱しながら横目でカリギュの位置を確認する。
そして、銃を構えると弾丸を放った。
その弾丸は高速でカリギュの方へと向かったと思えば、その数秒後には全く同じ軌道で銃弾が跳ね返ってきた。
「嘘っ!?」
ルクセリアは咄嗟に大きく体を逸らして、そのままバク転で距離を取っていく。
その一方で、自分の放った弾丸が簡単に弾かれたことに恐怖を感じた。
跳ね返ってきた弾丸に魔力の残痕が残って無かったことから、先ほどの攻撃は全く魔力を使っていない純粋な力だけの跳ね返しだということがわかったからだ。
「っ!」
その瞬間、背後から剣を振るってきた生徒の攻撃を避けるとその避けた先からミニマロが拳を肥大化させて殴って来た。
その攻撃は避けられずに吹き飛ばされていく。
地面を転がっていくと近くの生徒がほぼゼロ距離で魔法を放ってきて、咄嗟に横っ飛びするも爆風で吹き飛ばされ、その先には剣を構えた別のミニマロが。
「急に連携が強化された!? きっとアイツの仕業ね」
ルクセリアはさすがに避けられないと風の盾を前方に作り出し防ごうとするとその先にいたミニマロは横からラストに殴り飛ばされていく。
そして、ラストがルクセリアをキャッチするとすぐに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう。少し相手を侮ってたかも。それと......もう放してくれていいわよ?」
「あ、すみません!」
ラストは思わず密着しすぎたことに慌ててルクセリアから距離を取る。
ルクセリアは気を取り直すように一つ咳払いするとラストに声をかけていく。
「その姿、どうやらあんたも本気らしいわね。でも、それで相手に近づけてないみたいね」
「こっちが近づこうとすると生徒を盾にする感じであの人型を後ろから近づけてくるんです。
良ければ別の方向から同じように。受ければ、そのまま生徒を巻き込んで攻撃してくる。
だから、どうにも接近できるチャンスがないんですよ。
少しでもあっちに近づければ、こっちに割く意識も低くなると思うんですが」
「つまり、あんたを近づけさせればこの状況がどうにかなるってことよね?」
「そう断定できるものかどうかわかりませんが、どうにかしたいとは思ってます」
「その意気込みさえあれば十分よ。なら、道を開けてあげる。
でも、恐らく一瞬で一回だけよ。その隙に最速で近づいていきなさい」
「......」
「どうしたのよ? なんか変なこと言ったかしら?」
「いや、ルクセリア先輩って好戦的だから......ほら、さっきもカリギュを倒す的なこと言ってたから、てっきり隙を作れみたいな感じかと」
その言葉に対し、ルクセリアは敵の動きを警戒しながら返答していく。
「まぁ、言いたいことはわかるわ。でも、先ほど一発ちょっかい出してみたけど、アレだけでこっちとの実力差が容易にわかったわ。
そう踏まえると悪魔の力を引き出せるあんたは悪魔の力次第でどれだけでも力を出せて、その力であの悪魔とやりあえる可能性は十分にある。
だから、可能性が十分に高い方にあたしは賭けるのよ。
それにあたしの武器は小回りが利く。そういう点でも判断した。
すぐに追いつくつもりよ。あんたはさっさと行きなさい」
「わかりました」
「なら、早速道を作ってあげるわ――――旋風の通り風」
ルクセリアはカリギュに向かって横向きの風を巻き起こした。
その風はトンネルのように中心に穴が開いていて、その周りは風が渦巻いて近くの生徒やミニマロを弾き飛ばしていっている。
「早く行きなさい!」
「行ってきます!」
ラストはそのトンネルを素早く駆け抜けていく。
すると、その道を通るだけで後押しするように追い風が吹き、移動速度がますます上昇していった。
そして、その行く先には瓦礫に座っているカリギュの姿がある。
そのカリギュは正面のラストを見て思わず笑った。
「いやはや、待ちくたびれましたよ。少々遊ぶ時間が長いのではないですか?」
「誰のせいだよ!」
ラストは手に持つ剣を大降りに構えると炎を纏ったそれを真っ直ぐ振り下ろしていく。
それに対し、カリギュは両手を合わせ広げると揺らいだ何もない空間から剣を取り出して、ラストの攻撃に刃を交わらせるように振るった。
「直接戦闘は苦手なんですよ。ほら、剣を振るうとか頭で考えてないみたいで野蛮でしょ? なので、私はせめて頭を使って剣を振るいますよ」
「お前の事情なんてどうでもいい! ここでお前を倒して全員を救う!」
「素晴らしい意志の強さ。もしあなたが私に完膚なきまで負けるぐらいなら傀儡にしてもいいと言われています。
私の任務はあくまであなたの回収ですので、その魅力的な許可はなんとも心を締め付けまして......せいぜい簡単にやられないでくださいね! でないと、私の欲望が抑えきれませんので!」




