第61話 増援
カリギュに向かって猛然と走り出したラスト達。
それに対し、カリギュが操るミニマロとゾンビとなった一般生徒が襲い掛かってくる。
まず向かってきたのはミニマロであった。
常人を遥かに超えたスピードで接近し、腕の一部を刃へと変形させて振るってくる。
それをラストは剣で受け、弾くとすぐさま足払いしてそのまま回転の勢いで切り裂いていく。
「っ!」
その直後、戦闘中のラスト達に向かって火球や水弾の魔法が放たれてきた。
咄嗟にその場から離れてその魔法を放った存在を確認してみるとそこにいるのはゾンビかした生徒であった。
「チッ、アイツら魔法も使えんのかよ!」
「もとはこの学院に通う特魔隊員を目指す生徒ですからね。それに火力も割とバカになりません」
同じようにその攻撃をされたのかエギルやサラシャも同じように苦言を呈した。
その状態の相手を無力化させるというわけなのだから中々に苦難な道を歩むことになるだろう。
「今度は生徒が向かって来るか」
ラストに向かって剣を持った生徒が複数に一斉に向かって来る。
どうやらゾンビ化した生徒の肉体情報がある程度反映されるようである。
そのため剣技がしっかりした相手であれば複数人相手にしただけで進む足は止められてしまう。
加えて、そこに向かって見境なく魔法が放たれてくる。
「風の属性と雷の属性を帯びたそれぞれの魔法がそれぞれ放たれてくる! しかも、その前には生徒がっ!」
『力を貸してやる。そのまま弾き飛ばせ』
「ありがとう。そりゃあああああ!」
ラストは魔力を腕に漲らせるとそのまま横薙ぎに振るって吹き飛ばした。
そして、向かって来る魔法に向けて腕を伸ばし火球で相殺させていく。
そんな光景を遠くから見ていたカリギュは必死に生徒を守ろうと抗っているラスト達を面白そうに見ているとちょっかいを出したがる子供のように笑った。
「それじゃあ、こんなのはどうですか?」
その変化が起こったのは、丁度ラストがミニマロを両断して剣で襲ってくる生徒に対処していた時のこと、ラストの背後から倒したミニマロが再生してラストを背後から襲ってきた。
それに気づいたラストは咄嗟にその場から離れていく。
しかし、先ほどラストの前には生徒がいて、その生徒達はミニマロによって両断されていった。
「しまった!」
ラストは思わず自分の行動の浅はかさに思考が停止してしまう。
ラストの行動は今後に控えるカリギュとの直接対決する意味合いでは余計な深手を負わないという意味で正しいだろう。
しかし、ラストが自分の意志で守りたいと思った生徒が自分が避けたことで死んでいったのは確かな事実として残った。
そんなどっちを選択すべきかという葛藤が僅かな隙を生んで、背後から迫って来たミニマロに気付くのが一瞬送れた。
ミニマロが肥大化させた拳で殴ってくる。
それを咄嗟に腕と足でガードするも空中にいたために思いっきり殴り飛ばされてしまった。
地面を転がっていくラストにミニマロが刃を振るってきて、咄嗟にそこを離れれば予測したように剣を持った生徒が向かい、その後ろには魔法がすぐさま迫ってきている。
恐らく、先ほどと同じカリギュがミニマロと生徒を操って作り出したラスト達にとって選択を迫られる場面であろう。
この状態の時に生徒を守るために行動するのか、自分を犠牲にして生徒を守るかという二択の一体どちらを選ぶのか見ているのだろう。
それによって、カリギュが得られるのはラスト達の肉体的なダメージか精神的ダメージかによる違い。
そのどちらを犠牲にするかを決めるのは当然ラスト達だ。
「そう思い通りになるか!」
ラストは咄嗟に真下に熱波を放った。
それによる衝撃波は足元を流れていき、それによって周囲の生徒は足払いをされた状態になって姿勢を低くしていく。
その上を魔法が通過してくるのでラストは炎の壁を作って防ぎ、背後から向かって来るミニマロに対しては裏拳で一体を殴るとそのまま剣を逆手に持ち替えて刺した。
「伝炎照」
剣を伝って炎が流れていく。
それによって、炎に包まれたミニマロはその暑さに苦しむように奇声を上げていく。
そして、他の生徒を巻き込もうと動き出したので両手足をすぐさま切り落とした。
ラストはふと他の二人も見てみると二人もなんとか各々のやり方でカリギュの罠を掻い潜っているようだ。
「やりますねぇ。初見こそ多少の犠牲を出してしまいながらも、二回目ではすぐさまその状況を立て直すような行動。
本当にあなた方は自身の理想を体現できる力があるのかもしれない。
だけど、やはり多勢に無勢という言葉がある以上、少しずつあなた方の動きに鈍りが見えてきてるようですね」
遠くのカリギュはラスト達に向かって楽しそうに話していく。
この結果に結構満足しているようで、その知的好奇心からかさらにその脳内では思考をさらにこの状況が面白くなるように考えを巡らせ、それを実行していく。
「さて、これである程度の行動パターンは把握したでしょう?
ミニマロは味方であろうと見境なく攻撃し、私が操った生徒はその生徒が持つ肉体情報......つまり得意としているものを活かしてあなた方を攻撃してくるわけです。
加えて、私の思考操作によって標的はあなた方三人にしてあるので、これまた同じ学びの友に対して攻撃することにどうという感情を持ちません。
されど、現在七十人ほどを一斉に操ってるわけですが、私が一人一人に繰り出せる命令もそう難しいものは出せません。
だから、私は考えましたよ。更なるこの状況をどうやって混沌に貶めるかを」
カリギュはそっと手を出すと自分が操る僕全てに魔法を放っていく。
「一つ一つを正確に操ることは難しい。
なら、一人一人の火力を上げればいいのではと―――狂乱化」
その瞬間、ラスト達の周りにいたミニマロや生徒達は突然苦しみ始めた。
そして、彼らの肉体には一目でわかるほどに血管が浮かび上がり、その目はほぼ真っ赤と言っていいほど充血していた。
「がああああ!」
「くっ!?」
一人の生徒が先ほどよりも数段速く剣を振るってきた。
それをラストが剣で受け止めた瞬間、足が宙に浮き力任せに吹き飛ばされていく。
地面を転がっていたラストに向かってきたのは先ほどよりも速いミニマロの刃となった腕の振り下ろし。
咄嗟に避けたラストのいた地面は刃が大きくめり込んでいて、さらにそこから数メートル先まで避けるように地面に亀裂が入り、さらにはその亀裂に沿って衝撃が飛んでいた。
そして、ラストの移動先にいた生徒が魔法で鳥を形作った風を放ってくる。
それを炎の障壁で防ごうとするが、その障壁を突き破って炎を纏った更なる危険な魔法と昇華して襲ってきた。
「消炎斬」
ラストは剣で炎を切り裂いていく。
無事に猛攻を防ぎ切ったがその三連続攻撃は先ほどの戦闘よりも比較にならない疲労感を出していた。
それは一撃がまともに当たれば致命傷に近いダメージを受けるものであったからだ。
こんな攻撃を受けていればカリギュの所に辿り着いても一方的にやられるだけだし、かといって避ければ自分が守ろうとしている生徒を守ることは出来なくなる。
結果、ラスト達は先ほどよりも防戦一方を余儀なくされた。この状況を切り抜けたくても圧倒的に戦力不足である。
その時、一つの集団の声が響いてきた。
「待たせたわね! どうやら随分派手にやってるそうじゃない!」
その不遜とも言えるほどに自信満々に声を出すのはルクセリアで、その周囲にはリナ、グラート、フェイルと集結していた。
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