第60話 v.sカリギュ戦#1
ラストとエギルは共闘して人造怪物マロトーンを撃破することに成功した。
しかし、それに対しての運動量が大きかったのか二人の顔には疲労の顔が浮かんでいる。
「お二人方、大丈夫ですか?」
そう言って、サラシャは近づいて来る。そんなサラシャの様子にラストは気遣うように声をかけた。
「サラシャさん、体の方は大丈夫ですか?」
「えぇ、おかげさまで動けるほどには。っと、私のことはいいので早く回復を―――」
「そうはいかないみたいだぜ」
サラシャの言葉を遮るように発言したエギルの視線の先には拍手しながらゆっくりと歩いてくるカリギュの姿であった。
ここにいた気配が全く感じなかったことにラストは戦慄を感じながらも、体は自ずと警戒するように剣を構えた。
「素晴らしい! とても素晴らしいです! まさかあのマロトーンを倒してしまうとは。
ま、本来憤怒の悪魔様だけで戦ってもらう予定でしたが、思わぬ収穫もありましたし」
カリギュはとても嬉しそうな笑みを浮かべて声色高くそう告げた。
それに対し、エギルは剣先を向けながら返す。
「後はテメェだけだ。たとえ悪魔だろうと負ける気はしねぇ」
その発言に対し、カリギュは首を傾げた。
「おや、もしかして私が戦うと思ってます? 心外ですね。私は自ら動くのが嫌いなんですよ。
だから、こうして手間をかけたのは実に億劫で。
だから、怠惰の悪魔様の言い分とはいえとても内心ではとても面倒に思ってたんです。
それよりも私は創作を見てもらう方が好きでしてねぇ。こちらをご覧ください」
「なっ!?」
そう言って、渦巻く闇から出現させたのはマロトーンの小型版といってもいいいくつもの人間が合体した人型の怪物であった。
その光景はラスト達とて驚きを隠せない。
もし、それがマロトーンと近しい力の相手なら苦戦は必須だし、加えてその数は一体ではなく数体と存在している。
「あなた達がマロトーンと戦っている間に作り出した小型マロトーン。
そうですね、名前は小さいからミニマロとでもつけましょうか。ほら、可愛い方が愛着湧くでしょう?」
その告げる言葉に邪気が一切ないからこそ余計に質が悪いと三人は感じた。
もともと悪魔にとって人間は邪魔さえすれど取るに足らないような存在で、もしかしたらこういう事を平気で言えるのがより悪魔という存在をたらしめているのかもしれない。
「場所は広い方がいいでしょう?」
「「「っ!?」」」
カリギュは指をパチンと鳴らすとラスト達三人の足元に渦巻く闇を出現させて飲み込んだ。そして、再度出現させた場所は学院の外にある修練場。
その三人の前には数体のマロトーンとその間にいるゾンビ化した生徒達。
「何をする気だ!」
その異様な光景にラストは思わず叫ぶ。
本当は頭の片隅では理解しているが、どうにか違って欲しいという願いで聞いているのだろう。当然そうなる未来はないが。
「憤怒の悪魔様が強いことは重々理解してます。
ですから、捕まえる二も体力を削る必要があるでしょう。
加えて、私は自ら動くことに対して億劫で、戦闘なんてもってのほか。
なので、この学院での戦いに華を添えてくれる一般の方々をお呼びしたまでです」
平気でそう言えるカリギュに対し、三人の怒りが増えていく。
ラストはその影響で魔力が増加していった。
しかし、そんな三人の様子を知りながらなおカリギュは態度を変えずに続ける。
「きっとあなた達のことですからまだこの生ける屍となった人達が元に戻る可能性を見出しているのでしょう。
結論としてはありますよ。そして、答えは私を倒せばいいだけです。
ただし、あなた達が助けようとしている人達はあなた達を攻撃してきます。
それも自分の体などなりふり構わずに。
そんな状態であなた達は後方で眺めている私の喉に刃を届かさなければなりません。
さて、一体あなた達は何人助けることが出来るのでしょうかね?」
「クソ野郎がっ!」
「どうしますか? 変異した生徒の方達を捕らえるのは恐らく簡単でしょう。
しかし、その難易度を大幅に上げているのがあのミニマロとかいう先ほどの怪物の小型版。
先ほどが強大だったゆえに劣化版のように感じますが、それでも一筋縄じゃ行かない相手でしょう。
加えて、私達は実質人質を取られている状態で戦うわけで、並びに相手はその人質を巻き込んでも躊躇いがありません」
「......わかってる。つまりはあの生徒達を助けない方がより勝機が見えるってわけでしょ?」
ラストは思わず拳を握った。ただその選択はしてしまえば大きな悔いが残るんじゃないかということだ。
『選択の余地はない。あの悪魔を狩るのが最優先事項だ』
悪魔リュウはそう告げるがそれに対して、簡単に首を縦に触れるラストではない。
なぜならラストがこの悪魔の力を体に宿したのはより多くの人達を助けるためであって、もしそれでまだ助けられる可能性が残っている生徒を殺してしまったら自分の信念が崩れてしまうような気がしたからだ。
現実的なことを言えばサラシャやリュウの言っていることの方がよっぽど正しい。
しかし、もし可能性があるのならそれを選びたいと思っている。
「ラスト。テメェが望む未来を選択しろ」
突然のエギルの声にラストの俯いていた顔が上がる。
そして、視線をそのまま向けると続きの言葉を聞いた。
「俺は妹を救うためにずっと強くなることを、自分が強くなる未来を想像し、描こうとした。
結果から言えば、まだまだ全然と言えるが、それでも自分の信念だけは絶対に揺らさなかった。
そして、これまで色々な戦いで足掻いてきたお前にもそういった思うことぐらいあるだろ。
そしたら、それを持って前に進め。手助けぐらいしてやる......たまにはな」
「エギル君.....」
「確かに先ほどは随分と現実的な視点から発言してしまいましたが、それは本来お嬢様に対して投げかけるような言葉でした。お嬢様は考えてる割に結果突っ走る傾向にあるので。
そしてもし、この場にお嬢様がいればきっとこういうでしょう『あたしがあいつらを蹴散らしてやるからあんたは前に進みなさい』と」
「サラシャさん......」
二人の言葉にラストは勇気をもらった。
そして、その勇気を胸に抱き、自分の信念をそのままに希望を告げる。
「僕はおかしくなってしまった生徒全員を助けたい。そのために僕に力を貸してください」
「ハッ、言うのが遅せぇ」
「わかりました。その期待に応えられるよう尽力します」
そして、ラストはもう一人にも告げるようにつぶやく。
「じゃ、そういうことだから」
『はぁ、本当に頭の固い阿呆め。だが、そうなった以上お前はそう動き続けるだろうからな。いまさら背に腹は変えられん。手伝ってやる」
「ありがとう」
ラスト達の団結が深まった一方で、後方で瓦礫に座りながらずっと遠くの方の様子を伺っていたカリギュは森の方で異変が起こったことに気が付いた。
「強大な気配が消えた。そして、残るは周囲の小さな気配。
なるほど、負けてしまいましたか。となると、ここに来るのは時間の問題。
それではさっさと始めさせてもらいましょうか」
そして、カリギュは立ち上がると手を差し出した。
「さぁ、皆さん襲いなさい! そして、必ず憤怒の悪魔様を捕らえるのです!」
その声に動き出すミニマロと変異した生徒達。それに立ち向かうようにラストも声を張り上げた。
「絶対に倒す!」




