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第57話 感染の首謀者

『どうやら派手にやってるようだな』


「みたいだね」


 学院に潜入したラストは砦のある方向から伝わってくる強い魔力の波動を感じていた。

 そして、彼はというと出来る限り人を倒さないように隠れながら移動の最中である。


 魔力で探ってみてもそこらからゾンビ化した生徒から感じる悪魔の魔力で本体がどこにいるかわからない。

 リュウにその魔力の所在を聞いてみても同じような理由でわからないようだ。


『やはりこの場一体を壊した方が早いのではないか?』


「それはダメだよ! まだ治る可能性があるなら僕はその可能性にかけたい」


『......なら、急げ』


 ラストはひとまず1階ずつ上って端から端まで移動していった。

 そして、全4階まであるうちの3階の廊下を移動している最中で突然服を引っ張られ、教室へと引きずり込まれていく。


 ラストは咄嗟に攻撃態勢に入ろうと後ろへ向くとそこにいるのは唇にしーっと人差し指を立てたルクセリアの従者サラシャの姿があった。

 そして、教室の窓側ではエギルが腕を組んで寄りかかっている。


 ラストはやっと出会えた生存者に嬉しくなりながら、その声を噛み殺して声をかけた。


「二人は無事だったんだ。良かった」


「とはいえ、現状で生存者が私とエギルさんということに大変な危機感を覚えますが。

 それにしても、ラストさんはどうしてこちらに? 依頼はどうなったんですか? 皆さんは?」


「サラシャ、少し落ち着け」


「......そうですね。私としたことがラスト様と会えたことで少し動揺していたみたいですね」


 そう言ってサラシャは数回深呼吸すると心を落ち着けた。そして、それが終わるとラストに質問する。


「では、現状を整理するためにまずラスト様の方で起こったことについて説明させてもらってよろしいですか?」


「わかった。実は―――」


 それから、ラストは自分達の身に起こったことを話した。

 それを二人は冷静に受け止めたが、やはりマリエスが悪魔であったことは驚きを隠せない様子であった。


「まさかこの学園に悪魔が侵入してるとはな。つーか、この学園は悪魔に対する対策は万全じゃなかったのかここは」


「もしくは私達自身が悪魔に対する認識が低かったのかもしれませんね。

 本当の悪魔を知らなかったとしか。でなければ、このような事態には起こっていません」


「それじゃあ、教えてくれる? この学園に起こったことを」


 ラストの質問にコクリと頷いたサラシャはこの状況に至るまでのことを話していった。


 ラスト達が出発してからというものその時までは何の変哲もない日常の学園であった。

 しかし、十数分後にこの学院一体に張られていた悪魔用結界が破壊され、その混乱と同時に何名かの生徒が突然苦しみだしたという。


 そして、その苦しみの叫びが消えたかと思えば、そのまま近くの人に飛びついて噛みつき、すると噛まれた人は噛んだ人と同じようにまるで歩く屍のような状態に変わったという。


 その事例のない緊急事態に学院は混乱した。教師が噛まれて一発で変わってしまったというものも大きな要因らしい。

 なぜなら、それが示すのは教師でも太刀打ちできないということだからだ。


 そこからは大感染(パンデミック)である。

 その生徒を敵として攻撃した教師や生徒もいたが、多少自我が残る生徒やその状態で魔法が使える生徒とかで感染の勢いは中々止まることはなかった。


 一度でも噛まれたらアウトという部分も大きかった。

 生徒同士の仲間割れが各地で起こり、そこへ人間のリミッターを外したような驚異的な動きをするゾンビ生徒も現れ―――と様々な要因で現状に至ってしまったらしい。


「もともとはもう少し人数がいました。

 ですが、途中に現れた変異した教師陣によってバラバラになり、加えておおよそ人間のサイズではない化け物もいて、結局散り散りになってしまった私達の中で再会できたのがエギル様だけだったんです」


「......さっき一度でも噛まれたら感染するって言ったよね?

 実は逃げてる人が噛まれた瞬間を目撃しちゃったんだけど、やっぱり噛まれたらすぐに変異するもんだよね?」


「はい。少なくとも私が見た限りでは噛まれて数十秒後には噛んだ生徒と同じように歩く屍になってしまいました」


「なんだ? お前のその質問。まるで実は来る前に噛まれたみたいな聞き方だな」


「うん、噛まれた」


「はい!?」「は!?」


 思ったよりサラッと答えるラストの言葉にサラシャとエギルは驚きの声が隠せなかった。

 しかし、ラストがこんなタイミングで冗談をいう人物ではないことは二人とも理解してるし、何よりその目はどこまでも本気であった。


 それが余計に二人に動揺を与えた。

 そして同時に、噛まれて変異した生徒と噛まれたのに変異しないラストに何の違いがあるのかという疑問を浮かばせた。


 その答えらしきものにすぐさま辿り着いたのはサラシャで、サラシャはエギルの様子をチラッと確認するとラストに小声で尋ねる。


「それはもしかしてラスト様が悪魔であるのと関係しているのですか?」


「恐らくは。先ほどリュウ......憤怒の悪魔と同じ意見になったんだけど、どうやら変異した生徒からは悪魔の持つ魔力を放っているみたいなんだ」


「では、変異した生徒は悪魔になったと?」


「まだ正確なことはわからない。

 悪魔の魔力を持つ状態になっているだけでこの原因を作った本体を倒せばまだ治ると信じてるけど、最悪な可能性も当然ある」


「では、まずはマリエス先生に化けたという悪魔を見つけるのが先決みたいですね」


 ラストとサラシャは意見を同じにさせるとエギルを交えて改めて今後に対しての方針を話し合っていく。


「とりあえず、この場にずっと留まってるのは得策じゃないか動きたいと思ってるんだけどそれでいい?」


「私はそれで構いません」


「俺もだ。ただ抜け出すのも容易じゃない。

 俺達が教室にいるのに窓から抜け出そうとしなかったのは外に出られないような結界を張ってあるからだ。むしろ、テメェはどっから入って来た?」


「僕は普通に正門側のいつもの入り口から。音に反応するらしいから多少誘導してね」


「となると、一度入ったら出られないような罠じゃなければ、唯一外に出れる可能性がある場所はそこしかないみてぇだな」


「ならば、多少の危険を冒してでもそこに向かうしかないですね。その道中にあの化け物に会わなければいいですが」


「―――それは例えばこんな存在ですか?」


 その瞬間、ドアが壁ごとぶち抜かれる衝撃とともに砂煙からマリエスが現れた。

 そして、そのそばには筋肉をはち切れんばかりに膨張させた三メートルほどの人型の化け物がいる。


「どうも初めまして、憤怒の悪魔様。

 私はカリギュと言いまして、この学院をこんな風にした首謀者です。

 そして、この人物も当然皆さんを騙すための器でしかありません」


 そう言って、カリギュは頭を両手で掴むとそれをそのままズラすように引っ張っていく。

 すると、マリエスの顔が頭頂部から縦に裂けていき、そこからは全く別人であるが白目が黒い人が現れたのだ。


 それは今まで見てきた魔族よりもよっぽど人に近い容姿をしていた。


「それが悪魔の本当の姿なのか?」


「確か、人間では悪魔は人の器を乗っ取るとされていましたね。

 それは間違ってないですが、私達の場合で言えば元の無くした肉体を取り戻してるだけに過ぎないのですよ。ハハッ」


「元の肉体......」


「さて、長話をしたいところですが、怠惰の悪魔様からの命令は憤怒の悪魔様の奪取。

 しかし、一筋縄では当然行かないと思いますので―――体力を削らせていただきますね」

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