第56話 弱者の勝ちの一手
「さて、早速ドラゴンに攻撃......と行きたいところだけど、正直正攻法じゃ一撃貰えば終わりのこっちが不利になる」
「だから、倒すにもまず不意打ちで体力をガンガン削っていくということね」
「なら、今のこの状況を利用するのが手っ取り早いが......どうやって近づく?
あれが生物なら恐らくこっちよりも周囲の状況には敏感だぞ」
いざ再戦でドラゴンを倒すというところまできてルクセリア、リナ、グラートと発言していくが、そこから具体的な案はすぐには出てこなかった。
というのも、相手が未知すぎるのだ。昔にいたらしいがあくまで文献で知った程度である。
そんないるかどうかも怪しかった生物が目の前に現れ、通常の魔物とは規格外の力にどういった策が有効なのかわからないのだ。
加えて、チャンスは恐らく一度きり。不意打ちで一撃食らわせてすぐに解散したとしても、ブレスを周囲に吐かれたり、この場を無視して逃げられたらおしまいだからだ。
すると、フェイルが僅かに汗をにじませた顔で手を上げる。
「僕に一つ、策があります」
*****
『全員、位置につきましたか?』
『えぇ、バッチしよ』
『こちらも問題ない』
『いつでもオーケーだぜ......無理すんなよ』
『大丈夫.....とはいきませんね。ただ無茶しなくちゃいけない相手ですから』
フェイルのテレパスで全員が配置についたことを確かめると彼はゆっくりと深呼吸した。
これから行うことは彼にとって命を張る行為。
それこそアリが単騎でゾウに特攻を仕掛けるようなもの。
しかし、これは彼自身が望んだことだ。
死ぬ気はないが、死ぬことをかけるようなことじゃきっとこの戦いに勝機はない。
「ははっ、まさか僕にこんな日が来るなんてね......」
思えばフェイルには自分に誇れることなんてなかった。
自分の魔法が戦闘に向かないために周りからは蔑まれ、その度に彼は自分が認められるように一人ずっと頑張って来た。
たまたまとはいえ、無事入学出来たこの学園でラストと出会い、そこからリナ、グラート、ルクセリアと仲間が出来た。
彼らは自分の仕事を認めてくれる。喜んでくれる。
それがとても嬉しく、だからこそもっと頑張りたいとも思えた。
それがたとえこんな命を張るようなところに来ても、否、それこそ特魔隊で戦っていくということなのかもしれない。
フェイルは覚悟を決めた。
そして、右手に光と音を生み出す小型爆弾を持つと木の裏から飛び出し、背後を向けるドラゴンへと放り投げた。
「!」
ドラゴンは投げた時に出る僅かな風の音を聞き取ると瞬時に背後に目を向け尻尾で弾いた。
そして、そのまま尻尾でフェイルを叩きつけようとする。
「小型砲台―――ファイア!」
フェイルは木の近くの草むらに隠していた戦車のような形をした四つの小型砲台から爆弾を発射させ、自身は全力で横に飛ぶ。
ドラゴンの尻尾のに二発の球が直撃し、残りは僅かに逸れて背中へと着弾していった。
だが、ドラゴンには全然通じていない様子で、逆に叩きつけた尻尾の風圧でフェイルは吹き飛ばされて背中から木に叩きつけられた。
しかし、その時にはもう既にフェイルは指示を出していた。今だ、と。
その瞬間、ドラゴンの前方の木の影から三人が一斉に飛び出してくる。
「土杭」
グラートはドラゴンの両腕近くから真上に伸びる極太な土の杭を作り出し、両腕の攻撃を抑制していく。
すると、ドラゴンはすぐさまブレスのために空気を吸い込み始めた。
「そんなに吸いたきゃこれでも吸っときなさい―――風斬竜巻」
ルクセリアはドラゴンの顔の辺りまで風で跳ぶと両手に持つ二つの銃を前後に連結させた。
そして、サブマシンガンのようにその銃を持つと二つの引き金を引いていく。
その瞬間、一つ目の銃で圧縮された風はもう一つの銃でさらに圧縮を生み、発射された瞬間にはライフリングで回転力が増したそれは周囲の風すら巻き込み、横向きの竜巻のようになった。
「ゴアアアアア!」
それはドラゴンの吸い込みによって口の中に入っていくが、ルクセリアの風はただの風ではない斬撃属性を伴う風である。
よって、それを吸い込んだドラゴンは内側から風の刃によってダメージを負っていく。
「おっしゃ! 初ダメージ! そんじゃあんたも続きなさい!」
「わかってる。集中させて」
ルクセリアの攻撃によって大きな隙が生まれている間にリナはドラゴンの正面でひたすら魔力を集め氷を作っていた。
それは最初は一センチほどであったが次第に大きくなり、一メートルのほどの植物の種のような形状が出来るとそれは地面に氷の根を張り、双葉の目を出した。
その目は大きくなり、ドラゴンより一回り小さい当たりで蕾を作り、その蕾の先端はドラゴンの胴体へと向いていく。
「千山の氷華」
蕾は一気に開花した。その瞬間、花びら一枚一枚が剣のように尖り、真っ直ぐ伸びていく。
その花びらの剣はドラゴンの防御力を超えてグサグサと刺さっていた。
これにはドラゴンも思わず叫び声を上げた。そして、痛がるようにドスンドスンと暴れる。
すると、突き刺さった花びらを折り、大きな翼を動かして上空へと飛び始めた。
「不味い! このままじゃ空から攻撃される!」
「もちろん、そうはさせないわよ! 制空権はあたしのもんじゃいー!」
ルクセリアはドラゴンよりも上に浮かび上がると真下に向けて両手の銃から圧縮した魔力を放っていく。
「拡散風流星弾」
ルクセリアの銃から放たれた二つの風の球はドラゴンを覆うようにバラバラになり降り注いでいく。
一つ一つが岩をも穿つ風の斬撃でそれが翼の皮膜を傷つけ、鱗にも無数のヒビを入れていった。
「逃がさねぇ―――大地母神の手」
グラートは突き出した杭を手の形に変形するとドラゴンの両足を掴み、それ以上の飛行を出来なくした。
「凍裂の手刀」
リナはドラゴンの胴体に刺さったままの氷を操り、そこから新たな柄が伸びた氷の剣を作るとそれで翼の切断を試みた。
「ガアアアア!」
しかし、ドラゴンも意地を見せるようにその剣を手で受け止めると飛行能力の弱まった翼を大きく広げ、真下の地面に風を叩きつけるように動かした。
また同時に、体を捻るようにして動くことでリナの剣を折り、グラートの拘束を破り、ドリルで進むが如く初速の勢いで上に飛び、ルクセリアから制空権を奪い取った。
そして、その状態から真下に向けて口に溜めた高熱のブレスを吐きだそうとする。
「あいつ、いつの間にブレスの準備を終えての!?」
「まさか、先ほどのルクセリアの風のダメージを受けながらもその風を内部にストックしたというの?」
「ちょっと待て! それじゃあ、あのブレスはルクセリア先輩の風で強化されたブレスってことじゃねぇか!?」
三人の表情には一気に焦りの気持ちが生まれた。
しかし、上を取られた以上、真下に放たれるブレスから逃れるすべはなく、加えてその爆発はルクセリアのいる上空にも及ぶだろう。
その瞬間、三人は誰しも脳裏に死がよぎった。
陽炎で天が揺れているかのように見えるほどの熱気を感じている今で、それ以上の熱を持つ炎をどうやって防ごうか。
しかし、まだ一人足掻く少年がいた。
フェイルは近くの木に登るとその手には例のグレネードが。
「このままじゃ届かないから、この腕がぶっ壊れるつもりでパワーを上げよう」
そして、フェイルは右腕の裾をまくるとそこには腕力強化ギプスがつけられていた。
これはラストの右腕にちょっとした憧れを感じ、いざという時の戦闘用に作ったもので今までこの腕でずっとグレネードを投げていた。
だが、今は普通に投げていれば有効範囲に届かない。
故に、そこまで届くようにパワーのギアを上げていく。
「距離およそ六十メートル。うん、前回でギリか......やるぞ!」
言い聞かせるように言葉を吐くとギアを上げた。
そして、右手にグレネードを持つと少しでも有効範囲に入るように木の天辺からジャンプ―――投げた。
「届けえええええ!」
それはドラゴンに向かって真っ直ぐ向かっていく。
ドラゴンはブレスに集中しているのか気付いていない。
――――キーーーーーン!
「!?」
瞬間、光がドラゴンの視界を潰し、音がドラゴンの平衡感覚を狂わせる。
「今です!」
「「「うおおおおおお!」」」
落ちながら叫ぶフェイルの声に全員がドラゴンの口に向かって総攻撃をかけていく。
グラートの土の手が、リナの氷の剣が、ルクセリアの竜巻がドラゴンの口元に放たれ、着弾。
―――ドゴオオオオオン!
そこには第二の太陽を彷彿とさせるような大爆発が起こった。
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