第55話 v.s.ドラゴン
ラストがリュウの助言で学院に向かった頃、リナ達の方では古の生物であるドラゴンとの戦いが始まろうとしていた。
「ラストがいないのはよくわからない。けど、悪魔を体に宿してるんだったら早々にやられるはずもないはずよ」
「そうね。それにコイツが学院に向かうのも食い止めないと」
「となると、俺達四人で止めるってことだな」
「僕は文献から出来る限り弱点を探ってみます」
ルクセリアがリーダーとなってこの場を指揮していく。全員が一刻も消えたラストを探しに行きたかったが、見逃してくれるほど相手も優しくないだろう。
燃えるような赤き体のドラゴンは再びその場一体の空気を吸い込むとブレスの姿勢を見せた。そのモーションを見て、ルクセリアはすぐに動き出す。
「ブレスが来るわ! リナは私の補助! グラートはフェイルを守りなさい!」
「仕方ないわね」
「了解したぜ、先輩!」
ルクセリアはドラゴンに向かって真っ直ぐ走っていく。しかし、その行く手を阻むようにドラゴンが尻尾を薙ぎ払ってくるが、それはリナが作り出した氷柱によって防がれる。
「それだけのエネルギーを口元に溜めて暴発させろと言っているようなものじゃない!」
ルクセリアは大きく跳躍するとドラゴンの眼前へと迫る。そして、両手に持つ銃に魔力をため込んで一気に放った。
「二重風裂傷」
二つの斬撃を伴う風の弾丸はドラゴンの口元に直撃するとともに暴発した。ドラゴンの口元からは一瞬の赤い光と大量の黒い煙が溢れ出ていく。
「どんなもんよ―――っ!」
魔法は放った反動で離れていくルクセリアはその時確かにドラゴンの瞳がギョロっと動き、目が合うのを感じた。
そして、すぐさま目の前が暗くなるような巨大な手が襲ってくる。
「がはっ」
リナが氷柱でドラゴンの手の軌道を逸らそうとしたのも虚しく、コンマ僅かな遅延だけをもたらしてルクセリアに直撃すると彼女は地面にバウンドするように叩きつけられた。
そして、そこに追い打ちのように尻尾の薙ぎ払いが向かって来る。
「大地の岩盤」
だが、グラートが飛び出すとルクセリアの体を遠くへと投げ、身代わりになるようにその攻撃を受けた。
咄嗟に地面から隆起させた壁を作り出したが、まるで最初からなかったかのように破壊され、自身の上半身ほどある太さの尻尾を鞭のように叩きつけられ吹き飛ばされる。
「グラート!」
「グラートさん!」
その光景にはリナとフェイルも思わず叫んだ。
それほどまでに見ていた側からすれば死んでもおかしくない一撃であったからだ。
「リナさん、一瞬だけでいいので動きを止めてください!」
すると突然、フェイルからリナに向かって指示が飛んできた。
その声にリナはすぐさまフェイルを見てみると先ほどの悲惨な光景を見たにもかかわらず光をまだ失っていない瞳であった。
リナはすぐにコクリと頷くと魔法を発動させる。
「凍えた大地」
リナは地面に手を付けると扇形に地面を凍らせていった。
その範囲にいたドラゴンの足はすぐさま凍り付いていく。
しかし、足を動かして壊そうとするのですぐさま横やりを入れた。
「氷薔薇の縛殺」
リナは広げた氷の地面の四方から薔薇の茎のような棘の生えた氷を生やすとそれを動かし、ドラゴンに絡みつかせていく。
その技は本来なら大型の魔物にやればそのまま絞め殺すものなのだが、相手が超巨体のドラゴン相手では不可能なようで、加えて高熱の体温なのかすぐさま解け始めている。
「拘束したわ!」
「ありがとうございます! それじゃあ、目と耳を塞いでください!」
フェイルはそう言うとポケットから球体状の何かを取り出した。そして、それを親指で押すと小さなモニターからは「3秒」の表示が出て、その数をすぐさま減らしていく。
「そりゃああああ!」
フェイルは雄たけびを上げながらそれを力いっぱい投げるとすぐさま目と耳を塞ぐように丸まった。
その直後、その場には辺り一帯を白一色に染めるような眩い光と耳をつんざくような音が響き渡っていく。
それをもろに浴びたドラゴンは狂ったように暴れ出した。
その間に、フェイルはテレパスでグラートを回収するようリナに指示を出していく。
そして、ドラゴンから少し離れた岩陰でフェイルはグラートを連れてきたリナと合流した。
「ルクセリアさんはこっちです。グラートさんもその横に寝かせてください」
フェイルが離れる際に連れてきたルクセリアの横にグラートを並べていく。
二人とも一撃で瀕死に近いダメージを受けていた。生きているのが奇跡ぐらいである。
そこにフェイルがバッグから回復薬を取り出すとそれぞれに飲ませていく。
その最中に、リナは先ほどの武器について尋ねた。
「ねぇ、今さっきのって......」
「光と音を同時に放って相手を怯ませる特殊な爆弾です。
僕なりに考えていざという時に作っておいたのが功を奏しました」
「そうね。さっきはあなたの機転で助けられたわ。ありがとう」
「いえいえ、僕は戦えないですから。このぐらいのことは当たり前です」
ルクセリアとグラートに回復薬を飲み終わらせると二人の傷がみるみるうちに消えていく。それを見てリナは思わず目を細めた。
「これ、市販のもじゃないでしょ? 虫の息だった二人の呼吸が普通に戻るなんて」
「ま、まぁ、市販のものを少しイジりはしましたけど......安全であることは再三確かめましたのでそれだけは信じてください!」
「大丈夫よ。そこは信じてるから」
それから少しして、寝ていた二人が目を覚ました。そして、割にスッと動ける体に驚いている様子である。
「あれ? 痛くない......」
「自力じゃ動かせないはずだったんだけど」
「フェイルのおかげよ」
「そうか、助かった。命の恩人だな」
「やっぱり、あんたを仲間に入れた甲斐があったわ」
「いえいえ、僕は大したことは......」
そう謙遜するフェイルであったが、ルクセリアとグラートは感謝の言葉に表情は満更でもなさそうであった。そして、その流れでルクセリアはグラートとリナにもお礼を告げる。
「そういえば、私が攻撃をもらう前にあんたがクッションを入れてくれたおかげで助かったわ。
あの僅かな時差で私の防御魔法が間に合ったから。じゃなきゃ、今頃お陀仏だったわ」
「あなたがお礼を言うなんて珍しいわね」
「私は私情を挟まない正当な評価をする人間よ。
それに助けてもらってお礼も言えないなんて強者であってもそんな恥知らずでいたくないわ。
そういう意味では、グラート、あんたもナイス筋肉よ」
「俺を褒めるときは筋肉かい! とはいえ、本当に鍛えてたおかげで助かったかもな」
そう言いながらグラートは己の上腕二頭筋を触っていた。そして、それを見たリナが告げる。
「そうね。あんたの場合、私も何もできなかったし、死んでたらラストに会わせる顔がなかったわ」
「俺の心配はなしかよ。とはいえ、そんだけ冗談が言えるってことは下手に気負ってなくて良かった」
一度死に目に会ったにもかかわらず、その場には酷く怯えた空気は漂っていなかった。
ただ全員が無事に生きていることに喜びを感じているようである。
とはいえ、その時間を長く続けるわけにもいかない。
今はフェイルの機転によって一時的に退避出来たにすぎず、以前として脅威は去っていないのだ。
「さすがにデカいトカゲと侮っていたわ。一撃であれじゃ、かすり傷でギリ動けるかどうか」
「怖気づいたの?」
「まさか。あたしを舐めないで。こっからはあたし達の反撃の狼煙をあげるのよ」
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