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第54話 学院の異変

 マリエスに化けた悪魔によって分断されたラストは現在、憤怒の悪魔リュウの言葉によって仲間がいる廃れた砦ではなく、学院の方へと向かっていた。


 森の中を走る中、異様な雰囲気が次第に立ち込め始めたことをラストは感じ取った。


「うっ、なんだこと嫌な感じは......」


『恐らく敵の瘴気だろうな。もっとも魔法によるものというより、より悪意に満ちた魔力が辺りに充満しているという認識の方が正しいだろうが』


「ということは、可視化されている黒い靄は全て魔力ってこと!?」


『いや、こんなものはただの残留したものに過ぎない。本物はもっと酷い』


 リュウの言葉を聞きながら学院が見えてくるとその言葉の意味にラストは思わず立ち止まってしまった。


 暗雲立ち込めるその下に黒い霧を纏った人の気配がしない学園。

 まるでホラーゲームの舞台といっても過言ではなさそうな、嫌な雰囲気を感じさせる。


「どうなってる......?」


 ラストの疑問は至極当然の理由であった。なぜなら、学院には悪魔に対する防御結界が張られているはずで、学院内にいる教師とて一人一人が上級魔族と戦えるほどには実力がある。


 しかし、目の前の学院の感じからすれば、争った形跡がほとんどないほど外観は奇麗であった。

 それほどまでにこの学院にいた人達と悪魔の実力に開きがあったということなのだろうか。


『立ち止まって考えている暇はないはずだ』


「そうだね。行こう」


 そして、ラストは学院に向かって走り出した。

 正門を抜けるといつも感じる結界による力の減少具合がない。

 どうやら本当に結界は機能停止してしまっているようだ。


「学院の入り口までやってきたのに人の気配がしない......」


『後方! 攻撃が来るぞ!』


 リュウの言葉に振り返ると目の前には風の魔球が飛んできていた。それを咄嗟に右腕を悪魔化させて弾き飛ばしていく。


 その時、ラストはその攻撃を放った生徒を見て思わず固まってしまった。


 肌は酷く黒ずんでどこかヒビわれ、目や口からは流れた血が凝固してしまっている。

 言語能力がなくなってしまっているのか「あぁ」「うぁ」ぐらいしかしゃべらない。さながらゾンビのように。


 しかし、この世界では「ゾンビ」という言葉も存在しなければ、どういう症状化もわかっていない。

 そのためラストには学院の制服を着た生徒らしき存在が攻撃してきたとしか思えなかった。


 だが、それがただの造形だとすれば、その表情が苦しみもがいているように見えるのは気のせいだろうか。それがラストの攻撃する意思を削っていく。


『ラスト! 何をぼさっとしている! 早く片付けろ! あいつは異常だ!』


「う、うん、でも......」


「あ"ぁ"」


 そのゾンビ生徒はラストに向かって走り出した。まるで一歩目でトップスピードに乗るかのような踏み込みで向かって来るかと思うと口を大きく開けて咬みつこうとしてくる。


 ラストは咄嗟に剣を抜こうとしたが柄を握った瞬間、手が止まってしまった。

 つまりはラストにはまだそのゾンビ生徒に人の心があるという希望を抱いてしまっているということ。


「痛っ!」


 その僅かな躊躇が隙を生み、押し倒されたラストはそのまま腕を噛まれていく。


『邪魔だ』


 その瞬間、リュウが一瞬だけ右腕の主導権を奪うとゾンビ生徒を燃やしていく。

 突然、全身が火に包まれたことに慌てるゾンビ生徒はしばらく地面をのたうち回ると焼死した。


『ケガは大丈夫か?』


「うん、大丈夫。ありがとう」


 ラストの様態を気遣ってくれたリュウであったが、ラストが無事だとわかるとすぐに語気を強めた。


『小僧、戦いを舐めているのか? 相手はもうすでに正気以前に人としての理性を忘れている。それを見極められないからそのような不要なケガを負うのだ!』


「だけど、その生徒をそうさせたのが悪魔だとすれば、悪魔を倒せば元に戻る可能性だってあったはず!」


『それは洗脳や催眠状態にある内の話だ。だが、今の相手はその域は当に外れている。何を注入されてああなったかは知らないがな』


「それでも、僕は......」


『いい加減、現実を見ろ。一体今まで誰と戦ってきたと思ってるんだ? あれはもう人間ではない。悪魔によって堕とされた魔族ですらない何かだ』


 ラストは何も言い返せなかった。自分自身に覚悟が足りなかったことは本当で、こうなることはとっくの前から予想出来ていた。


 しかし、いざ現実で直面すればどこかに希望がないかと探してしまっている。自分が魔人であるために、話せばわかってくれる人もいると思ってしまう。


『お前が足を踏み出せないというなら、後は俺が体を動かしてやる。安心しろ、変なマネはしない』


「いや、それは大丈夫。もう覚悟決めたから」


 ラストは立ち上がると軽く砂埃を払った。そして、未だ生き延びている人を探して学院内に入っていく。


 入っていくとどこもそこも先ほどの生徒と同じような症状の生徒が廊下を徘徊している。

 足取りはゆっくりで、彷徨っているかのように両手を伸ばしながらふらふらと。


 ラストは物陰に隠れながらそのゾンビ生徒の様子を伺っていると遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた。


 その声に目線を向けてみると窓越しから奥の廊下の窓付近で女子生徒がゾンビに捕まっている状態である。さらには声を聞きつけたゾンビが一斉にそこへ向かって動き出した。


 それを見て咄嗟に動き出そうとしたラストだが、すぐにリュウが止める。


『動くな。もう手遅れだ』


「手遅れなんかじゃない! まだ間に合うかもしれない!」


『騒ぐな。それに観察で奴らの何かわかることがあるかもしれないしな』


「ふざけるな!」


 ラストは咄嗟に動き出そうとした。しかし、両足が床にくっついたように離れなかった。いや、それ以前に足に力が入っている様子がない。


 それがすぐにリュウが足の主導権を奪ったのだと気づいた。

 加えて、顔を動かすことも出来なくなっていて、ラストはそのまま襲われていく女子生徒の様子を眺めるしかなかった。


 女子生徒が首筋を構えれて押し倒されたのか一瞬姿が消える。

 すると、ゾンビは突然興味を失ったように散らばっていき、そこからはゾンビ生徒となった女子生徒の姿が。


『うむ。噛まれた瞬間、妙なものが流れ込んだと思って燃やしておいたが正解だったみたいだな』


 リュウはその人の死がまるで気に障っていないように考察していく。その様子がラストに改めて、悪魔という存在を再認識させた。


 悪魔にとって人間の命が失われることは何の問題でもない。これまで協力してくれたのは悪魔を倒すという利害の一致がそこにはあったから。


 それは今も変わらない。しかし、そこの道中に悪魔を倒すためのヒントがあるならば、その他の犠牲を払ってでも前に進む。そこが決定的に違った。


 これまではリュウの意識が覚醒してない状態であったから自由な意思で動けていたかもしれないが、敵が強くなっている以上リュウの協力は必要不可欠。そうなるとある程度の犠牲は許容しないといけないのかもしれない。


 ラストは人を助けたいために魔人となったのに、元凶の悪魔を倒すために人を犠牲にするというジレンマに陥っていた。

 そんなラストの心情を察したのかリュウは告げる。


『お前が気にすることではない。あれではどの道間に合わなかった。だから、より多くを救うために情報を得るための犠牲になって貰っただけだ』


「......」


『全てを救えるのなら当然それに越したことはない。しかし、それほど現実は甘くない。下を向くな。前を見ろ。今できるのはそれぐらいだ』


「......わかった」


 ラストはリュウに対して言いたいことが色々溢れたが、一旦それを抑え込む。そして、頬を手で叩くと気合を注入しなおして、さらに奥へと走っていく。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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