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第53話 悪魔の罠

 ラスト達は前回依頼を受けた場所である黒き森の廃れた砦にて、三人もの上位魔族に遭遇した。そのどれもが前回のバズーに負けず劣ずの魔力の圧を放っている。


『どうやら本格的に俺を捕まえるみたいだな』


 ラストの脳内でリュウの言葉が流れていく。その言葉が理解できるほどには目の前にいる敵は強者でしかない。


「どいつが憤怒の悪魔様だ?」


「恐らくそこの少年ね。他の人間の魔力とは少し魔力の質が違う」


「なんでもいい。俺達のやることは決まっている」


 砦の瓦礫の上に立っていた三人の男女は円を作るように集まると真ん中に悪魔の腕を置いた。

 その突然の行動にラスト達は警戒しつつも、無防備ともいえるその行動に困惑していた。


「皆さん、警戒は怠らないでください! 魔族とはいえ、相手は上級。何をしてくるかわかりません」


 マリエスが全員に注意を促していく。そんな光景を横目で見ていた魔族の女はまるでバカにするように笑ったのをラストは気づいた。


『『『我ら、三者の命を捧ぐ。空の覇者にして、大地の暴君よ。その力は火山であり、その力は天雷であり、その力は地震である』』』


 三人の上位魔族は何かの詠唱を始めた。その直後、足元からは巨大な魔法陣が浮かび上がり、発生した風がラスト達を襲った。


 彼らは誰もが感じた身の毛もよだつような恐怖感を。しかし、動くのが遅すぎた。もはや風の壁が彼らを魔族達に近づけさせない。


『『『三位一体の力を捧ぐ。古代の生物の王として君臨したその御身。我らが命を持って顕現せよ!』』』


 眩い光が辺り一帯を包んだ。ラスト達は咄嗟に手で覆いながらも、その隙間から覗き見た光景に思わず唖然とした表情を浮かべるしかなかった。


 光源は次第にその体積を大きくしていき、おおよそ20メートルほどにも縦長に伸びた光からは大木より何倍も太く、鋭い爪を生やした赤い腕が見えてきた。


 それは両手両足と大きさだけで威圧感を放ち、太陽を遮るような巨大な翼、にゅるりと伸びた棘が生えた尻尾は鞭のようにしなやかな動きをしながら、質量の重さにドスンと大地を揺らしていく。


 光が消え始め見えてきたのは威圧だけで殺してしまうような凶悪な眼光。口からは凶暴な牙が生え揃っており、全身は魚の鱗のようなテカりを見せていた。


「なっ......!」


「ねぇ、あれってまさか......」


「えぇ、きっとそのまさかよ......」


「あの時調べた古代の生物......」


「ドラゴン!?」


 ラスト達はぽかんと開けた口を防げずにいた。なぜなら、そこにいるのは文献で見たままの紛れもない超生物ドラゴンなのだから。


 レッドドラゴンは僅かに空気を吸い込んだ。そして、喉元を赤熱させたような輝きを見せると口から高熱の炎を吐き出した。


「!?」


 その炎の矛先が向いた先はマリエスであった。マリエスは咄嗟に魔法障壁を展開させる。

 直撃した瞬間、障壁を避けるように炎が伸びていった。直撃せずとも喉が焼けるような熱が覆っていく。


「うああああああ!?」


「マリエス先生!」


 そしてすぐに、マリエスの障壁は壊された。それによって、すぐさま炭化させるような炎のブレスを浴びていく。


 目の前でマリエスが焼き殺されていく。それに声を出したルクセリアはすぐさま助けに行きたかったが、ブレスの余波を防ぐので精一杯で叶わなかった。


 それは全員同じでダメージ覚悟で助けに行くにはあまりにも無謀すぎた。ただ一人を除いては。


「ラスト! すまねぇ! この炎をどうにかしてくれ!」


 グラートは咄嗟に叫んだ。しかし、ブレスの轟音で聞こえていないのか返事がない。


「ラスト君! お願い! 返事して!」


 グラートに引き続いてフェイルがラストに声をかけていく。しかし、ラストの返事はまたもやなかった。


霧氷の風(ダイヤモンドダスト)


 リナは何か異変を感じ取って氷の魔法で蒸発させようと考えた。そして、周囲一帯に氷つくような強烈な風を吹かせるとその場一体に本当の霧が発生していく。


「ルクセリア!」


「えぇ、わかってるわよ!」


 リナはルクセリアに声をかけると彼女は風で煙を払っていく。そして、見えてきたのはいるはずの一人がいなくなっていたことだった。


「ラストの姿がない!?」


「まさか先ほどのブレスを浴びている間に攫われた?」


「可能性はなくはないわ」


「だとすれば、今すぐ探しに行きたいところだけど......こいつを野放しにすれば、被害はもっと広がるわ。本当は私一人でって言いたいところだけど、恐らく今いるメンバーでどうにかなるかも怪しいレベルね」


 四人は戸惑っていた。このメンバーは言わば狙われているラストを護衛するためのメンバーでもある。

 しかし、その護衛対象はどこかへ消えてしまい、助けに行きたくても無視できない敵が目の前にいる。


「私達でこいつを倒す」


 リナがポツリと告げた。その目はまるで感情を無くしたようになり、されど纏う気迫は鬼気迫っていた。

 すると、その言葉に同調するように三人も言葉を放っていく。


「だな。とっとと、倒してラストを探し出すだけだ」


「見かけに思わず動揺しちゃったけど、コイツは単なるデカい空飛ぶトカゲで、加えて形を模倣した姿でしかないしね」


「ぼ、ボクは戦闘では役に立たないけど、ドラゴンの特徴や弱点を分析するぐらいは出来る」


 その三人の言葉にリナは僅かに口角を上げた。そして、静かに告げる。


「決まりね。なら、速く殺しましょう」


****


『起きろ、ラスト。起きろ!』


「......っ! あれ、今()()()()()()()()()()()()()()()()......ってここはどこ?」


 ラストは気が付くとどこかの森までやって来ていた。

 周囲を見渡しても仲間の姿やドラゴンの姿は見られない。

 魔力で探ってみれば、学院側の方へと戻ってきている。

 まるで理解が追いついていないラストにリュウは告げた。


『化かされたのだ、お前は』


「化かされたって......?」


『お前が追っていたというドラゴンは同じ場所から動いていない。つまりお前は“ドラゴンが移動した”と思わされ、それに従ってここまで一人でに移動してきてしまったということだ』


「まさか僕が催眠系の魔法に? でも、一体いつの間に......」


『あの男が死んだ時だ』


「あの男って......もしかしてマリエス先生のこと?」


 ラストの質問にリュウは静かに「あぁ」と答えた。その瞬間、ラストはどっと冷や汗が湧き出ていく。


「それじゃまさか、マリエス先生が悪魔!?」


『そうだ。加えて、化かされていたのはお前だけじゃない。お前の周りもいた連中もそうだ。俺はお前の肉体に宿っているが、主導権を握っていない別精神体のためか全てを見ていた』


 そして、リュウはその時の状況を話していく。

 ドラゴンがマリエスにブレスを放った瞬間、マリエスはそれを魔法障壁で防いだが、それと同時にラスト達に幻を見せるような魔法をかけた。


 その間にマリエスは脱出、またドラゴンというインパクトある存在とその生物から吐き出される効果力のブレスに動揺があったラスト達はそこに付け込まれる形でラストと他四人で別の幻に捕らわれた。


 そして、ラストが一人でに離脱した所で―――現在に至る。


「じゃあ、早く皆の所に戻らないと!」


『いや、違うな。学院に戻るべきだ』


「え?」


 リュウの否定の言葉にラストは思わず二の句が継げなかった。しかし同時に、そう言われると疑問に思うような不自然さもあることに気が付く。


「相手の狙いが僕ならこのまま幻を見せておく方が得策だったのに.....なぜ?」


『俺達を狙う以外の目的が他にあるからとしか言えんな。そして、その悪魔が向かった場所が学院だ』


「......っ!」


『どちらに行くかはお前が決めろ。己が信ずる道に行け』


 そう言われるとラストは静かに目を閉じた。そして、ゆっくり開けると告げる。


「僕は皆を信じる。だから、学院に行く」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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