第52話 緊急任務
「そうか。で、なんでそれを俺に言うんだ?」
「え?」
ラストはルクセリアから魔族に関する討伐の内容を受けて、その内容をここ最近一緒に修行してるエギルに伝えると意外な反応が返ってきて驚く。
なぜなら、エギルはこれまでわかりやすいほどに悪魔・魔族を倒すことに執着していた。にもかかわらず、いざその内容で誘ってみるとあまりにも素っ気ない。
「どうしたの?」
ラストが思わず気になって尋ねてみれば、エギルは自身の手を見つめ、悔しそうな表情で握ると理由を告げた。
「今の俺じゃ恐らく前回同様、中級魔族との戦闘すら苦戦するレベルだ。
お前との修行を始めてお前がどんどんと成長していくのに対し、俺はまるで伸びていない。
お前の伸び率でむしろ下がってると感じるぐらいだ」
「それは......ごめん」
「別にテメェのせいじゃない。これは俺自身の問題だ」
そう言うとエギルはおもむろに地面に座りだした。そして、突然自分の過去を独白し始めた。
「俺の家は普通の特魔隊の家系だった。その中で俺は雷という強力な魔法の才があることが分かったが、だからといって別に変わるわけじゃなかった――――あの日までは」
「......」
「俺には6つ離れた妹がいてな。家族と一緒に出掛けていた時、突如として悪魔が目の前に現れた。
そして、まるで蚊でも殺すように目の前で俺の両親を殺した」
「......っ!」
「その時の恐怖は覚えている。全身の穴から冷や汗が出て、全身は震え、足がすくんで動くことすらしなかった。
その悪魔はそんな俺の心理状態を理解したようにニヤッと笑うと妹に近づいていったんだ。
だが、さすがに妹まで殺されるわけにはいかないと庇うようにして前に立ったが、そんな行動を『無意味』と一蹴するようにそいつは妹に攻撃した」
「それじゃあ、妹さんは......!」
「いや、生きていた......違うな、生かされていたんだ。俺という存在で遊ぶために。
そいつは妹に呪いをつけた。永遠の眠りにつくような呪いを。
そして、妹の呪いを解くために強くなろうと決意し、たくさんの魔族を狩ってきた。
しかし、何一つ手掛かりとなるものすらなく、今の今まで妹は寝たきりだ」
「だったら、なおさら一緒に来た方が......!」
「俺達はあくまで学生の身。それで狩れるのは最悪上級魔族まで。しかし、俺が対面した相手は悪魔だ。
これまで必死に手掛かりを探してきたが、恐らく魔族じゃ俺が欲しい情報は手に入らない。
それにむやみやたらに命を張ることを止めたんだ」
エギル君は立ち上がると服についた砂を払っていく。そして、そのまま言葉をつづけた。
「そう思うようになったのはお前が原因だ」
「僕が?」
「お前を見るたびに俺はイライラしていた。だが、そのイライラはお前に対するものではなく、俺自身に対するものだと気づいたんだ」
エギルは覇気のない顔で苦笑いを浮かべた。いつもの誰に対しても当たりが強うそうな態度とは正反対のようだ。
「妹は太陽みたいによく笑うやつだった。
負けん気が強いくせに負けた後もしっかり楽しんだと言わんばかりに笑いやがる――――丁度お前のようにな。
だからこそ、太陽が沈んだ一方で妹と似たように笑うお前が昔の妹を彷彿とさせて、自分のその当時の弱さを呪って憎んで腹が立った。だから、今までのお前への態度はただの八つ当たりだ。悪い」
エギルはスッと頭を下げていく。これまでの彼の言動からすれば十分に驚くべき行動だ。
しかし、これが本当の彼の姿なのかもしれない。ただ妹の復活を願う一人の兄の姿。
その瞬間、ラストはエギルの態度に悪戦苦闘しながらもどこか嫌いになれない理由を、仲良くなりたいと思った理由を知った気がした。
だからこそ、ラストは自信を持ってエギルに告げる。
「大丈夫、僕は気にしてないよ。それに僕も同じ経験したことがあるからよくわかる」
「そう......なのか。それでも、お前は魔法が使えなかったはずなのに可能性を信じて魔法を使えるようになったってわけだな」
「いや、それは――――」
その時、フェイルからラスト宛てに緊急連絡が入った。
『ラスト君、マリエス先生が至急クランであの廃れた砦に向かって欲しいって。なんでも、そこに複数の魔族を確認したからって』
『わかった。すぐに行くよ』
そう連絡したラストであったが、ラストはエギルに伝える必要があることをまだ伝えられていない。
しかし、緊急の任務が入った以上はそちらを優先するのは当然の行動。
そんな二つの大事なことに僅かな逡巡を見せているとエギルはラストに向かって告げた。
「何かあるだったら先に行け。話ならいつでも出来る」
「......わかった。後で必ず言うよ」
そして、ラストはすぐさま走り出す。その後ろ姿をエギルはただ見つめていた。
*****
「来たわね、ラスト。さぁ、戦の準備よ」
ラストが学院の正門に向かえばそこにはすでにルクセリア、リナ、グラート、フェイル、そしてマリエスの姿があった。
そして、マリエスは全員が来たことを確認すると簡単に説明する。
「突然お呼びしてすみません。ですが、たった今丁度ルクセリアさん達が依頼場所として向かう砦の方で複数の魔族を確認したとの報告を受けました。
加えて、同時的に各地でも襲撃があったらしく、砦の方は私達の方が近いので処理してくれとのことです。そこで実力者の揃っているこのチームに手伝いをお願いしたいのです」
「それは当然ね。それがあたし達の存在する理由なんだから」
「そう言っていただけると助かります。では、時間が惜しいのですぐに向かいましょう」
そして、マリエスを先頭にラスト達は移動を始めた。
するとここで、ラストはとある人物がいないことについてルクセリアに尋ねた。
「ルクセリア先輩、サラシャさんの姿が見えないようですが、一緒じゃないんですか?」
「サラシャは今学園の方に残ってもらってる。あんた達の話を聞いたからね」
「僕達の......ということは、学院に悪魔がいるということをですか?」
「えぇ。水臭いじゃないあたしには言ってくれないなんて。
まぁ、それをそばで聞いていたサラシャは『妥当な判断です』ってむしろあんた達の味方だったけどさ」
「そういうことだったんですが」
「けれど、こうして情報を駄々洩れにして姿を現す辺り、やっぱり血の気の多い連中なのかもね」
『それはどうだろうな』
ラストがルクセリアと話している最中、まるでその会話に参加しているようにリュウも話に入って来た。ただし、ルクセリアには聞こえていない。
そんなリュウの突然の反応にラストは思わず驚きながらも、その真意を尋ねた。
『それはどういう意味?』
『奴らの狙いは俺だ。であれば、どれだけ周りを巻き込もうが関係なく、むしろラストという人の情緒が残っている分周りを有効活用した方がより効果的だ』
『それはリュウの怒りによる魔力の増強を避けるためなんじゃない?』
『その線もなくはない。しかし、それをすれば俺自身の魔法で周りを焼き殺すことに繋がりかねない。
となれば、必然的に力のセーブをしなければならず、魔人という存在を知られないようにするにはより加減した力で戦わなければならないだろう』
『確かに......そう考えるとわざわざ僕達を外に連れ出すという理由はあまり相手にしては合理的な判断とは言えない......』
『これが単なる考えすぎか、はたまた狙いは別にあるのか。どちらにせよ、俺達がやるべきことは一つ――――悪魔の殲滅だ』
そして、黒き森の奥にある砦にやって来た僕達はそこで待ち構えるようにして存在する三人の魔族を確認した。
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