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第50話 気配

「エギルくーん!」


「チッ、またか」


 翌日、同じように一人で修行していたエギルのもとにラストがやって来た。それに対し、ラストは苛立ったようにため息を吐く。


「また性懲りもなく現れるとはな。俺に負けておいて」


「でも、一人で修行するより濃い修行ができたんじゃない?」


「ウザってぇな。だったら、今日はテメェをフルボッコにしてそのウザい面を出せないようにしてやる!」


――――また翌日


「エギル君! 僕も混ぜてー!」


「なんなんだアイツは......!」


 エギルはすぐさま沸点に達したように、されどボコボコにしたにもかかわらずまた現れたラストに対して驚くように呟いた。


「それじゃあ、今日もお願いします!」


「はっ?」


「なんというか、エギル君との戦闘って凄い勉強することがあると思って。だから、是非とも今日も教えてくれないかなって」


「俺は一度もお前に修行をつけた覚えなんてねぇ。失せろ」


「確かに、エギル君からは一度も言葉はもらっていない。

 でも、戦闘の際の動きは雄弁に語ってくれるからそこから僕が勝手に学んでるって感じかな。

 それって実質エギル君から教えてもらってるようなものだから、だから改めて修行に付き合ってもらおうかと」


「なんつー暴論......つーか、俺の修行に対してじゃなくてお前の修行に対してかよ」


「だって、僕がエギル君の修行に付き合おうとしたって拒絶するでしょ?

 だったら、エギル君はエギル君の修行のために、僕は僕の修行のために今を利用しようかと」


「......はぁ」


 エギルはものすごく文句を言いたくなったが、相変わらずウザいほどに笑顔を向けてくるラストに毒気が抜かれたのか、単に「何言っても通じない相手」と思ったのかわからないが、手に持つ剣の一つをラストに向けると告げた。


「今度こそ終わらせてやる。その面を二度と見せれねぇぐらいにな!」


――――またまた翌日


「エギル君ー!」


「.......」


 ラストの姿を見た瞬間、嫌そうな顔をしたがすぐに諦めたようにため息を吐いた。

 結局、ラストをボコボコにしたが、その中でも着実に強くなってるのか昨日なんかは危うく一本取られかけたのだ。


 それは今のエギルに必要としている力で、その一端を感じ取ったからこそエギルは少しだけ方向性を変えることにした。


「それじゃあ、今日も――――」


「確かラストって言ったな」


「......!?」


「いいぜ、気が変わった。テメェの気が済むまでテメェを痛ぶってやるよ。

 そっちが利用する気ってんならこっちだってテメェを使い潰してやる!」


「いいね! そう来なくっちゃ!」


「まずはその口を黙らせる!」


 そして、二人の修行が始まった。それは早くも一週間が過ぎ、そんなラストの奇行ともいえる行動に対してグラートは怪訝に思いながらも、ラストの正体がバレるような危うさがない以上放っておくことにしていた。


 そんな修行の日々が続いていたある日、一人廊下を歩いていたラストは聞き覚えのある声をかけられる。


『どうやら本腰を入れたようだ』


「リュウさん!?」


 思わず出た言葉にラストはハッと両手で口を塞いだ。

 そして、キョロキョロと周りに人がいないことを気にすると軽く深呼吸して会話を始めた。


『まさか話しかけて来るなんて。てっきりまた眠ってしまったかと思ってたけど』


『お前との同調率が上がったことで意識だけは覚醒が出来るようになった。加えて、悪魔の気配の感知もな』


『!?』


 憤怒の悪魔リュウの言葉にラストは思わず足を止めた。そして、踵を返すとより人気のない方向へ歩み始める。


『今の話は本当?』


『あぁ、本当だ。とはいえ、高い知性があるのかすぐにその気配は消えてしまった。捉えたのはほんの一瞬』


『気づいたのはいつ?』


『お前が友人と修行を始めた辺りだ』


『そんなに前から!? どうして教えてくれなかったの!』


 ラストは思わず脳内で思ってることを口に出してしまうほどに叫んだ。それに対し、リュウは冷静に答える。


『確証がなかったからだ』


『というと?』


『この学院には悪魔よけの結界が張られている。故に、先日の襲撃も屋外だったであろう。

 加えて、感じ取った魔力があまりにも微弱であったからな。何者かが持っていた悪魔の一部を感じ取ったかと思って』


『待って、悪魔の一部ってどういうこと?』


 ラストはその言葉に驚いた。なぜならラストがこれまで倒してきた魔族は全員がその体を魔力に霧散させて跡形もかく消してしまったから。

 その事実を知っているラストにはリュウの言っていることは寝耳に水の言葉であったのだ。


『悪魔が死ぬ以前に切り離された一部......例えば、戦闘中に切り離した腕は消えずに残る。その腕には悪魔の意思が微かに残っているからな』


『それをリュウさんは感じ取った、と。それでそれはいったいどこで?』


『それは――――この学院内でだ』


『......っ!』


 ラストは思わず言葉を失った。それが本当ならば現状この学院のどこかに悪魔が潜んでいるということになるから。

 そんなラストに対して、リュウは言葉を続ける。


『言っておくが、それが本当に悪魔のものかどうかはわからない。

 場合によっては、邪な人間がその力を利用しようとすることだって少なくないからな』


『だけど、この学院内で感じ取ったのは確かなんでしょ?』


『あぁ、それは間違いない。結界のせいで著しく魔力が分散してしまっているが、俺の魔力を俺自身が間違えるはずもないしな』


『なら、このことを早く皆に知らせないと』


『そうだな。だが、()()()()()()()()()()()()()()?』


 リュウが最後に告げた言葉は警告にも似たような意味合いにラストは感じ取った。

 そして、ラストは僅かにかいた冷や汗をそのままに「わかった」と告げると仲間の元へと走り出した。


*****


――――どこかの暗室


 そこには前回まで廃れた砦の近くにいた怪しげな4人組の姿があった。

 そして、そこのリーダーらしき男が切断された腕の一部を一人の男に渡していく。


「それじゃあ、これを形見に死んでください......なんつって」


「そんな冗談っぽく言った所で意味ないわよ。だって、言ってること紛れもなく真実だもの」


「おや? 気づいてました? でも、それのおかげで強くなれるんですからいいじゃないですか。しかも、あの伝説の一体になれるんですよ?」


「だが、あんたが生きていた時代にはそんな奴がうじゃうじゃといたんだろ?」


「いましたね。驚異的な存在でしたが、決して人の手で盗伐できないという相手ではなかったです。

 とはいえ、相当な犠牲は払いましたので、今回はどのくらいの犠牲になるのか。くれぐれもゼロ死なんてやめてくださいよ?」


「わかっている。それで当日、お前はどうするんだ? 俺達とは別行動をするのだろう?」


「そうですね......私は怠惰の悪魔様から賜ったものを使って襲撃を行いたいと思います。

 安心してください、()()()()()()()()()()()()()()()


「別にあんたの心配なんてしてないわよ。私達3人がかりで逆立ちしたって勝てやしないんだから」


「わぁ、褒めてもくれるなんて嬉しいですね。でも、何も出ませんよ?」


「別に褒めたわけじゃないが......そのお前が、ひいては怠惰の悪魔様が警戒する相手は本当にそこまで強いのか?

 聞いた話じゃ俺達と同じ上位魔族一人のギリギリの勝利だったらしいじゃないか」


「そうですね。私も本人に会ったのは一度だけですが、あれは正しく怒らせてはいけない類のようには思いました」


「そこまでなのか」


「とにもかくにも、当日の皆さんの働きに期待してますよ?

 私も含めて前回の襲撃者と同じような末路を辿る可能性も無きにしも非ずですから。

 それじゃあ、最終段階と行きましょう」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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