第49話 お節介
黒き森の廃れた砦。深夜となりより一層闇を見せるかのような暗さの中、そこには確かに複数の何かが存在していた。
そして、その中の一人がとある一人に向かって話しかける。
「で、準備の方はどうなんだよ? わざわざ奪って人間のフリまでしてんのに“ダメでした”なんて言わないよな?」
「そこは大丈夫ですよ。なんたって、私は怠惰の悪魔様に仕える忠実なる僕でありますので。
それよりも心配なのはあなた方の準備と言う所なんですが――――命を懸ける気概はあるんですか?」
「嫌ねぇ、どうせ魔族の私達にはそれぐらいの使い道しかないと思ってるくせに」
「ははっ、そう見えました?」
「道化はよせ。その感情のない瞳を見ればわかる。良くも悪くも忠実なる駒というぐらいにはな」
「それは誉め言葉として受け取っておきましょう。それに今回の結果次第では怠惰の悪魔様が直々に出向く可能性もあるというので、是非ともお手を煩わせないようにお願いしますね」
「「「......」」」
「良い沈黙ですね。皆さんやる気満々ということで、我らでご友人をお迎えに参りましょう」
*****
ルクセリアとの模擬戦が終わってからしばらく、ラスト達はルクセリアに連れられて定期的に依頼をこなしに行くというだけで特に目立った変化はなかった。
そんなある日、廊下を歩いていたラストとグラートは窓から外の修練場で一人修行しているエギルの姿を見つけた。
「エギルの奴、やっと復帰できたってのにいきなりハードに動いてんな」
「そうだね。それにどこかしら心に余裕がない様にも感じる」
エギルは先日のバトルアーミー襲撃の際に唯一外部から結界を突き破って中に入って来た一人である。
そして、今の焦燥とした顔はどこかあの時と同じとグラートは感じ取っていた。
「あいつ、お前が魔人となった時にも魔族相手に酷く好戦的だったよな」
「あぁ、郊外での時のことか。確かにとにかく魔族・悪魔は敵だみたいな感じだったね。どうしてだろ?」
「さあな。そいつらに身内が殺されたりとかで恨みを抱いているとかがザラじゃないか?」
グラートがそう言うとラストは突然走り出した。その行動にグラートは驚いたように呼び掛ける。
「ちょ、どうしたラスト!?」
「エギル君に声かけようかと思ってね。それにもしそんな悩みがあるなら助けになってあげたいし」
そして、そのままエギル方へと突っ走っていくラストを見て、グラートは「世話好きだな、あいつ」と呟いた。
ラストはエギルの方へと向かっていくと声をかけた。
「エギルく――――っ!?」
手を大振りに揺らしながら声をかけた時、すぐさま雷がラストの方へと飛んでくる。
それを咄嗟に避けるとそれを見たエギルは不機嫌そうな顔で告げた。
「邪魔だ。消えろ」
「まぁまぁ、待ってよ。僕は一人で修行だけじゃ足りないだろうと思って相手役になろうと思ってるんだけどどうかな」
「テメェが?」
エギルは嫌そうな顔をしたが、すぐさま何かを考えるような顔をするとラストに体を合わせ、両手に持つ剣を構えた。
「良いだろう。かかってきやがれ」
「わかった」
ラストも腰の剣を引き抜くと両手で柄を持ち、構える。そして、近くの木で鳥が鳴いたのを合図に二人で同時に動き出した。
最初に仕掛けたのはラストで剣を振り下ろすとエギルは両手の剣を重ねて防いだ。すぐさま右手の剣を下げるとそこから突き出す。
その攻撃を防ごうとラストは左手を柄から離し、体を捻りながらエギルの右手首を左手で掴んだ。
しかし、その攻撃を見越したようにエギルは前蹴りを入れてくる。
だが、それはラストも同じだったのか二人の蹴りが同時に胴体に入るとそのまま後ろに吹き飛び、転がっていく。
「魔法、使えんだろ? なぜ使わない」
「エギル君が使わなかったから」
「舐めてんのか? そういうとこがイラつくんだよ。だったら、見せてやるよ!」
エギルは全身に雷を纏わせるとザッとその場から消えた。そこに残るのは踏み出したであろうただの砂煙が舞うのみ。
そして、エギルはラストの背後を取った。ラストは未だ振り返っていない。そこに容赦なく斬りかかった。
「っ!」
しかし、その攻撃はラストがわかっていたようにしゃがんだことで空を斬る。
加えて、ラストが地面に両手をついた状態から背後に蹴りを入れるという反撃に、エギルは紙一重で剣でガードしながらも吹き飛ばされた。
体勢を維持しながら地面に着地したのも束の間、エギルの正面からは火球が迫ってくる。
しかし、数は一つ。そのことにおちょくられてるかのように斬り払おうとしたその時、斬ろうとした火球の反対側からも剣が火球を斬りながら迫って来ていた。
「濃放電」
自身が火球を斬り払おうとすればその間に正面から攻撃を食らう。そうすぐに悟ったエギルは自身の胸の前に圧縮した雷球を作り出し、それをすぐさま膨張させた。
その瞬間、エギルの周囲3メートルの間は高火力放電空間となり、その範囲に入っていたラストは全身から電撃を浴びていく。
その攻撃で体が麻痺してその場に倒れ込んでいった。そして、その姿を見たエギルはイライラとした顔を浮かべながらその場を去っていく。
*****
「お前、バカだろ」
「さすがにバカだね」
「うん、バカ」
「さすがにそこまで言われると凹む」
しばらくして、ラストはグラート、フェイル、リナとともに昼食を取っていた。
「にしても、この制服は凄いね。痛みはあるけど、ダメージを肩代わりしてくれるなんて」
「ルクセリア先輩みたいに突発的に勝手に模擬戦を始める生徒の配慮みたいな感じらしいけど、まさかその中にラストも入るとはね......」
どこか呆れたように告げるフェイル。そんな言葉に苦笑いしているラストに対して、グラートは思った疑問をぶつけた。
「というか、魔人の力を実体化させなくても、魔力やら回復力やらは使えるんだからそれ使ってたら普通に勝てただろ?」
「確かに、耐久戦に持ち込めばこっちに分があるだろうけど、別に僕はエギル君に対して勝ち負けを決めようとしていたわけじゃないから。
それにあんまりこの能力を使い過ぎていざ使えなくなった時に動けなくなったら困るし、それに万が一でもバレるわけにもいかないってものあるしで使わなかった」
「それじゃあ、素の力でエギルの速さに対応出来たっていうの? 私でも少し面倒なのに」
「なんか憤怒の魔力を使って身体能力を上げての行動を繰り返してたら、体がその速度を覚え始めたっぽいんだよね。
だから、その感覚で動いたら対応できたってだけ。それにあの時のエギル君は別に本気じゃなかったと思うし」
「対応できたって......ラスト君も中々に人間離れしてきたね。まぁ、現状人間離れしてるけど」
「それにもし仮にエギルの奴がそれなり本気であった場合、その言葉がただの煽りにしか聞こえないってのが悲しいな」
「それで、結局ラストは何がしたかったの?」
「それは......あ、エギル君だ」
ラストは今いるテラスの方から廊下を歩いているエギルを見つけるとガバッと席を立った。
そして、「ちょっと行ってくる」というとラストはそのままエギル方へと向かって言った。
ラストが声かけるも明らかに無視されている。しかし、ラストはめげずに話しかけている。そんな姿を見て三人はぼんやりと呟いた。
「あいつ、時々急に突拍子もないことするんだよな」
「まぁ、少なからずわかることはラストはお人好しなのよ......ちょっと重度な」
「それわかる気がする」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




